第71話 どなたが教えることになったのですか?
「クライブお待たせ!」
ダンスの授業を終えた私は、急いでダンス用の衣装から制服に着替えて、教室で待っているクライブに声をかける。
「あ、ティナ! それじゃ、ダニエルまた来週ね」
私も教室に残っていたクラスメイトに挨拶をして、クライブと共に中庭まで急ぐ。王家の馬車が待っているはずだ。
「船長さん、もう来ているかな」
「おじさんには学校が終わる時間に合わせてもらうように頼んだから、まだだと思うよ」
ハンス船長に手紙を出したのはついこの前なのに、早速会いに来ると返事が来たのだ。
学校の入り口を抜けるとすぐに中庭があり、そこには王家の馬車といつもの近衛兵の二人が待ち構えていた。
「ファビアンさん、ルーカスさん。今日もよろしくお願いします!」
二人は『お待ちしておりました』と言って、敬礼で答えてくれる。
「ティナ様、よろしいですか」
ファビアンさんに手を預け、馬車に乗り込む。
私の席はいつも後ろの奥。地球だとここは確か上座で、偉い人が座る場所だった気がするけど、王国ではそんなことで馬車の中の座る位置を決めてない。ただ、先に乗った人が奥に行くという合理的な理由だけだ。そして、私がいつも奥になるのは、女性がいるときは女性が先に乗るという暗黙の了解があるみたいで、それに従っているからなんだよね。でも、王家の馬車も窓の外を見せてもらえないから、どこに座っても一緒だと思うんだ……。
そして次にクライブが乗り込んで私の隣に座り、最後にファビアンさんとルーカスさんが周りの安全の確認して馬車に乗り込む。ちなみにファビアンさんとルーカスさんの座る位置はその日のよってまちまちで、今日はルーカスさんが私の正面に座っている。
「ティナ様、学校は慣れられましたか?」
学校が始まって今日で最初の一週間が過ぎた。明日は初めての休日になる。
「はい、ルーカスさん。授業の方は何とか、でも、ダンスの方は先が長そうです」
今週の授業では王国の歴史と地理を詳しく教えてもらった。知らないことが多くて面白いしためになったよ。どちらもカチヤのお屋敷で、エリスに教えてもらっていたんだけど、あの時はどちらかというと貴族としての振る舞いの方を仕込まれていたからな……うん、あれは本当に大変だった。エリスってスパルタなんだよね。
そして、来週からは戦術のお話も聞けるらしい。カチヤを開放するときの、デュークと船長さんたちのやり取りを間近で見ているから興味があるんだ。私も本物の軍師さんになれたりして……
「なるほど、ダンスですか。我々は踊ることはありませんが、貴族の方は舞踏会があるので必須だと聞いております」
やっぱり必須なんだ。
「ダンス……そういえば、クライブ殿下は苦手ではありませんでしたか?」
「うん、ファビアンのいう通り、まだうまく踊れない。あーあ、何でこれまで練習してこなかったんだろう」
「練習してないって……クライブは王族なんだから、舞踏会に出なくちゃいけないこと分かっていたんじゃないの?」
「僕ね、兄上が眠りについてからほとんどの時間を兄上の部屋で過ごしていたんだ」
確かにクラーラさんはそう言っていたけど、クライブも一緒だったんだ。
「ずっと、アレンさんの体をほぐしていたの?」
「ううん、それは一日のうちで決められた時間にやって、それ以外の時もそこで過ごしていたんだ」
「どうして?」
「兄上がいつ起きてこられてもすぐわかるようにと思って」
しかしそれは……
あれ、でも、最初にクライブに会った時はそんなに病的な感じはしなかったよ。
「兄上が起きられる少し前に父上から『お前はアレンが目覚めた時、胸を張っておはようと言えるのか』って言われて、ハッと気づいたんだ。僕のやることは兄上の部屋でただ待っていることではなくて、兄上が起きた時に安心して暮らせる場所を作ることだって。だから、以前から言われていた皇太孫になることも引き受けることにしたんだ」
なるほど、それであの時はやる気に満ちていたんだ。
「でも、初陣の時は嵐の最中に船で寝ちゃったでしょう。あとからおじいさまから怒られてしまって、心構えが全然足りてないって気づかされたよ」
ふふ、ぐっすりだったからね。でも、私とエリスは知っているよ。あの時のクライブは頑張っていたと思う。気持ちにまだ体がついていっていなかったんだね。
「それでね、学校が休みの日には、近衛兵のみんなに戦闘について教えてもらうことにしたんだ」
「休みというと明日から?」
この質問の答えはルーカスさんがしてくれた。
「はい、私たちはみんなこの日を待ち望んでおりました。早速、誰が殿下を指導するかでひと
ひと悶着か、どうやって決めたのか気になるな。
「それで、どなたが教えることになったのですか?」
「明日は私がその権利を勝ち取りました!」
おおー、ファビアンさん。今日はなんだかソワソワしているかもって思っていたら、これが原因だったのかな。
「よろしくお願いします。ファビアン先生」
「お任せください殿下!」
明日はコンラートさんが新しい領地の資料を持ってくるから、私は見ることはできない。うーん、ほんと残念だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます