第62話 ティナは王家がもらうことになっているから

「お姉さまと離れ離れなのですね」


「フリーデは前で、私とクライブは後ろの方。もしかして、これは年齢順かな」


「そうかも。ティナは僕の隣だね」


 クライブにフリーデを紹介した後、三人で座席表をみている。

 これによるとクラスの人数はだいたい30人くらいで、ダニエルも私の隣だから、もしかしたら同い年なのかもしれない。


「お姉さまと一緒にお勉強しようと思っていたのに残念です」


「フリーデの近くに、知っている子はいないの?」


「あ、隣の女の子の名前は知っています!」


「どんな子なの?」


「確か、お話が上手でした」


「そうなんだ、それは楽しみだね」


「はい!」


 フリーデの方は何とかなりそうだ。あとは……


「さあ、みんな。立ってないで、前の座席表を見て、自分の席につきなさい!」


 黒髪を短くした青年が現れた。先生かな。

 他の子の邪魔にならないように、私たちは自分の席へと向かう。


「フリーデちゃん、大丈夫かな?」


 私の左隣に座ったクライブは、一番前の席に座ったフリーデを心配しているようだ。


「あの子って、人懐っこいから心配いらないと思うよ」


 ほら、今だって隣に座った男の子と話している。その席の子は知らない子のはずだ。


 フリーデはいいとして……


「ティナ・カペル……」


 右隣の席の銀髪の少年が話しかけてきた。


「これはダニエル・ガーランド様じゃないですか。お隣ですね。よろしくお願いします」


 ガーランド家は王都近くの貴族だったはずだ。御前会議で見たのは結構年配の人だったから、この子のおじいちゃんになるのかな。


「様はいらない。ダニエルと呼んでくれたらそれでいい。クライブ殿下……クライブがそう言ったから。でも、君はなぜ、クライブとそんなに仲がいいんだ?」


「君、ダニエルっていうの。僕はティナに悪い虫がつかないようにここに来ているから、気を付けてね」


「虫がつかないって?」


「うん、ティナは王家がもらうことになっているから」


 教室内の騒めきが大きくなった。これまでも少しだけ噂になっていたようだけど、こんなことを言って大丈夫なのだろうか。


「みんな、席についたか!」


 教室の前の教壇のところで、先ほど黒髪の青年が声を上げた。


「私は君たちの担任のエックハルト・エンデだ。読み方はエックハルトでもエンデでも構わないが、呼び捨てだけは許さん! 年上には敬意を表すように」


 やっぱり先生だった。最初にこの話をしたのは、ここにいるのが貴族の子供たちだからかな。貴族の世界では、身分が下の人たちにはたとえ年上であっても呼び捨てするのが当たり前だ。日本では、年上の人や先生には面と向かって呼び捨てにすることは無いけど、ここではわざわざ言わないといけないんだろう。


「そして、この学校の中では身分は関係ない。公爵だろうが王族だろうが、みんな同じ仲間だ。仲良くするように。それじゃ、この学校の説明をするからな。わからないことがあったら手を上げて聞けよ!」


 エックハルト先生によると、学校は休息日の日曜日以外の週6日。朝から午前中の授業を行い、学校で作られたお昼をみんなで食べてから、午後の授業を一つやって終わりだそうだ。しかし、午後の授業を聞いて驚いた。毎日ダンスをやるんだって。それも舞踏会で踊るようなダンスを……


「踊るの自信ない……」


 ダンスは中学の授業で習っていたけど、どうも、そういうセンスは持ち合わせていなかったようで、クラスの代表に選ばれることは無かった。むしろ、成績に赤点があったら、それをもらっていたんじゃないかって思う。


「そうか、ティナは記憶がなかったよね。僕もあまり得意じゃないんだよ。どうしよう」


 私の場合は記憶があっても無理じゃないかな。


「あのー、俺でよければ、二人に教えてあげる」


 お、ダニエルはダンスが得意なのかな。


「ほんと、ありがとう。いつも父上に笑われるんだ」


 エルマー殿下を笑わせるような踊りか。ちょっと興味があるな。

 私とクライブは、ダニエルの申し出を受けることにした。


 その後は、校長先生や他の先生方がきて挨拶をしたり、生徒全員が自己紹介をしていたら午前の授業が終わった。


「みんな、腹が減っただろう。さっきも話したけど、昼食は食堂で食べることになっている。扉を出て、左手の渡り廊下を進んだ先に食堂があるから、そこで食べてくるように。いいか、年上のやつは年下の子の面倒を見るんだぞ」


 エックハルト先生は、そう言って前のドアから出ていった。

 そうそう、さっき先生の話を聞いて驚いた。だって、30人くらいしか生徒がいないのに食堂があったんだもん。カミラさんからお昼は学校で食べるとは聞いていたけど、お弁当か何かが出てくるものだと思っていたよ。


「お姉さま。お昼ご飯、楽しみです♪」


 フリーデは茶色い髪をおさげにした女の子と一緒に、私たちの席までやってきた。


「うん、お昼の料理はなんだろうね。その子も一緒でいいの?」


「はい、エリザベートちゃんです。お友達になりました。構いませんか?」


「もちろん! 一緒に食べよう」


 エリザベートは南部に領地があるギーセン伯爵の次女で、伯爵様と一緒に王都のお屋敷に住んでいるみたい。どうして王都に住んでいるかというと、伯爵様は評議員の一員なので領地に帰ることはあまりないんだって。エリザベートも、年に一度くらいしか行かないって言っていた。


「おうちにはお兄様たちがいるので帰るのは楽しみなんですが、途中の馬車がものすごく揺れるので大変なんです」


 ものすごく揺れるのか……貴族の馬車でもそうなんだよね。エリスが言っていた通り、南部は道の状態があまりよくないようだ。

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