第57話 変な虫!?
しまった!
注意していたはずなのに、よりによってクライブに見られてしまうとは……
「兄上! やっと、目覚められたのですね。大きくなったでしょう。僕です! クライブです!」
クライブはドアの前に立つ私の横をすり抜け、
「兄上! どうしたのですか? 先ほどのようにお声を聞かせてください!」
どう反応したらいいのかわからない
「兄上! 兄上!」
「クライブ、ちょっと落ち着いて、事情を説明するから」
私は、
「え、ティナ。事情って?」
「エリス、まずはアレンさんを楽にさせよう」
アレンさんはまだ一人で動けないので、エリスと二人でアレンさんを横に寝かせる。
「ティナ、どういうこと? 早く説明して!」
興奮状態のクライブをまずは座らせ、私はクライブにアレンさんが動き、そして喋り出した理由を話した。
「……すでに兄上の中には誰もいなくて、今は、ティナに付き従っている存在のデュークさんが入っているということ? 本当ですか兄上!」
「うん、アレンじゃなくてごめんね」
「クライブ、ちょっといい?」
私は、クライブをアレンさんから聞こえないところまで連れて行った。
「私は、デュークこそがアレンさん自身だと思っているの」
さらに、デュークは私のそばから離れられないけど、アレンさんの中だけは留まることができることを伝える。
「ティナは、兄上が兄上じゃないというのは、記憶を失っているからだというの?」
「うん」
「やっぱり信じられない。兄上と一緒に僕をからかっているんでしょう」
まあ、普通はそう思うよね。
「クライブ。もう一度アレンさんのところに行こう」
私はクライブをアレンさんのベッドに連れていき、そして
「デューク、お願い」
デュークはアレンさんから抜け出し、そして、クライブと一つになる。
「えっ!」
「兄上?」
「ティナですか? いや……まだ」
何を話しているんだろう。
「好きとか嫌いとか、そういうのではなくて」
「え、喋らなくても兄上に話そうと思っただけでいいのですか?」
クライブは急に静かになった。きっと、デュークと心で会話しているんだと思う。
しばらくすると、ずっと緊張した様子だったクライブの体が、フッと力が抜けたように見えた。
(ユキちゃん、お待たせ)
いつものようにデュークが私の隣に寄り添ってきた。
(お帰り、お話できた?)
(うん、もう大丈夫だよ)
そっか、うまくいったのかな。
「ティナ……ティナの言うことはたぶん本当だと思う。それで、僕はどうしたらいいの?」
「デュークの言うことが本当なら、アレンさんを助けるためには、デュークがアレンさんとして生きていくしかないと思うの。でも、デュークにはアレンさんとしての記憶はないから、クライブに手助けをして欲しいんだ」
「僕は兄上が元気になられるのなら、何だってやります。でも、兄上はそれでいいのですか?」
「ボクはそれでもいいけど、ティナと離れたくないよ」
デュークには私が通訳しなくてもいいように、アレンさんの中に入ってもらっている。
「兄上、それはわかっています。ティナは兄上と一緒でいいの?」
「え、……うん」
こ、これはアレンさんを助けるためだからね。仕方のないことだよね。
「それじゃ。僕は予定通り、ティナに変な虫がつかないように学校に行くとして、兄上には早速今日から……」
「変な虫!?」
クライブが学校の制服を着ていたからそんな気はしていたけど、エルマー殿下は実力行使に出るつもりだったのかな。
「うん、本当は来年から学校に行く予定だったんだけど、ティナが今年学校に行くと聞いて、父上がどの馬の骨ともわからない貴族にとられないように、お前自ら見張っていろって……もしかしたら父上は、これを見越していたのかも」
いやいや、さすがにそれはないと思うけど……あれ? もしかしてクライブは、私が君のお妃候補だって事を知らないの?
それはともかく、
「デュークは今日からアレンさんになるの?」
「うん、実は今、母上のお姉さんが来ているんだけど――」
クライブから聞いた話は驚くべきものだった。
「えっ! アレンさん殺されちゃうの!」
「しーっ! ティナ、声が大きい!」
慌てて辺りを見わたす。エリスに廊下を見てもらったけど、私たちの他には誰もいないようだ。
「うん、まあ、その言い方で間違ってないと思う。おじいさまは、兄上がこのまま生きていてもかわいそうだと思われていて、おばさまと一緒に母上と父上を説得しているんだ。安らかに眠らせてあげた方がいいんじゃないかって」
クラーラさんのお姉さんの気持ちもわかる。初めて会った時のクラーラさんは、見るからに疲れていて、いつ壊れてしまってもおかしくないように見えた。お姉さんも国王陛下もそれを心配しているんだろう。
「なら、すぐにでも王様に話さないといけないんじゃない?」
「母上も父上も最近の兄上の様子を知っているから、すぐにおじいさまの言うことに納得するわけないけど、早い方がいいだろうね。でも少し打ち合わせしてからの方がよくないかな。そうしないと兄上もティナと離れ離れになるのは嫌だろうし」
そうだった。デュークがアレンさんの中に入るということは、私と一緒にいられないということだ。それが嫌だって言われたら打つ手がなくなっちゃうよ。
ということで、これからのことを少し打ち合わせることにした。
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