第53話 そんなわけないじゃない!

 翌日、王家への手紙をセバスチャンさんにお願いし、私は学校へ行く準備を始めている。もう8の月の中旬になろうかとしていて、時間が差し迫っているのだ。


「ティナお姉さま、準備は出来ましたか」


「フリーデ、ちょっと待ってて……エリス、これはどうやってつけるの?」


「ティナ様、これは肩のここにつけて下に垂らすようですね」


「お姉さま、それはこうですよ」


 フリーデの肩から黄色の飾り紐が下がっている。少し紺が入ったワインレッドの制服に、ちょっとしたアクセントになっていて可愛らしい。


 フリーデと一緒に、カミラさんの部屋で学校から送られてきた制服のサイズを確かめているのだが、私はこちらの服に慣れてないのでいまいち勝手がわからない。


「こうかな……」


 フリーデを真似て、私も飾り紐をつけてみる。


「お姉さまのは紺色なんですね」


「うん、この色しかなかったよ」


 学校にサイズを伝えたら、制服と一緒に飾り紐が送られてきた。私とフリーデの飾り紐の色がなぜ違うのか、卒業生のカミラさんに聞いてみたら年齢によって分けられているみたい。学校の生徒は14才から17才までだから、紐の色が4色あるということだろう。


「お母さま、どうして年齢で分ける必要がありますの?」


「それはね、家柄に関係なく、年上の子は年下の子の面倒を見ることになっているからよ。あなたたちくらいの年の子は、見た目でわからないこともあるからそのためかしらね」


 ちなみに学校に通う生徒は毎年30人くらいしかいないので、クラス分けはせずに全員が同じ教室で学ぶんだって。


「そして、この時に結婚相手だけでなく、終生の友人を見つけることがあるみたいね。私もその時にできた親友と呼べる友達がいるから、その子が嫁いだ家との関係はもちろん良好だわ」


 学校では、心許せる仲間を見つけることも大事なのかもしれない。


「お母さま、私はお友達を探すのはいいですけど、まだ結婚相手は早いのではないですか?」


「そうね、フリーデはウェリス家の一人娘だから、早くこの家に養子に入ってくれる人を見つけてきてほしいのだけど、無理なら私たちで探さないといけないわね」


「えっ! もし、お母さまが見つけてくださったそのお方を、私が好きにならなかった時はどうなるのでしょうか?」


「どうしようもないわね。たとえあなたがその人を嫌いでも、結婚して跡継ぎを作ってもらわないといけないのよ。それが嫌なら、自分で見つけてちょうだいね」


「わ、わかりました。ウェリス家に来てくださる方を探してみます」


 フリーデは14才にして、人生の選択を迫られているよ。


「フリーデ、ちょっと待って。この家に来てくれる子が一番だけど、あなたが相手の家に嫁がないといけなくても構わないわよ。その時は、あなたたちの子供をこの家の養子にするから。だから好きな人ができたら、逃がさないようにしなさいね。ところでティナ、さっきから他人事ひとごとのような顔をしているけど、あなたも同じよ。アメリーから、くれぐれもよろしくって頼まれているのですからね」


 うっ! カペル家の跡継ぎのこともあるけど、クライブのお妃候補の件もどうにかしないといけないし、ほんとどうしたらいいんだろう。あー、もう嫌になっちゃう!


「お母さま。それで、人を好きになるってどう言うことでしょうか?」


 おー、フリーデはそこからなんだ。


「それはね、フリーデ。その人と一緒にいて――――」


(ねえ、ユキちゃん。ユキちゃんも結婚したいよね)


(え、そりゃね。結婚してカペル家の跡継ぎを作らないといけないのもあるけど、カミラさんが言う通り、好きな人と一緒にいられるって幸せな事じゃないかな)


(ボクじゃダメなの?)


 えっ、デューク……。この世界で目覚めてから、ずっと一緒にいる存在。最近では隣にいるのが当たり前で、この前アレンさんの部屋で近くにいなくて不安になった。でも……


(デュークが近くにいるのは嬉しいよ)


(じゃあ!)


(デュークだけはダメなの!)


 デュークは……デュークと一緒になれるのなら、それが一番いいのかもしれない。でも、それをみんなに理解してもらうことはできない。きっと、周りを不幸にしてしまうだけだ。


(ユキちゃんはボクのことが嫌いなんだ……)


「そんなわけないじゃない!」


「ティナ様……」


 しまった。声に出してた。


「ご、ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃって」


「奥様、フリーデ様。ティナ様はお疲れのようです。少し休ませてもらってもいいでしょうか?」


「ええ、昨日も王宮に呼ばれていたのですから、気疲れしたのでしょう。いいわ、制服も問題ないようだし、食事まで休んでいなさい」


「ありがとうございます」


「ティナお姉さま。無理はなさらないでくださいね」


「ありがとう、フリーデ。ちょっと休んでくるね」


 私はエリスと一緒に自分の部屋まで戻ることにした。

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