第54話 うん、ケンカというほどではないんだけど
「ティナ様、先ほどはどうされたのですか? もしかして、デューク様とケンカでもなさったのですか?」
「え……うん、ケンカというほどではないんだけど、ちょっと……」
部屋への帰り道、エリスにさっきのことを聞かれている。
「お二人の間の事なので内容まではお聞きしませんが、いつもご一緒なのですから仲良くされてくださいね」
「うん、分かっている」
ケンカしたいとも思わないしするつもりもない。でも、どうしようもならないことだってあるのだ。
(デューク、さっきは大きな声をだしてごめんね)
(ううん、ボクも嫌なことを聞いてごめん。でも、ユキちゃんに嫌われてなくてよかった)
嫌ってはいない、むしろ……
「それで、どうなさります? 横になられるのなら、制服を脱いだ方がいいと思うのですが」
「そ、そうだね、横にはならないけど脱ぐよ。汚したら大変だから」
部屋についた私は、エリスの手を借りて制服を脱ぎ、普段着に着替える。
「それでティナ様、本も届いておりますが、読んでみられますか?」
おお、そうだった。制服と一緒に教科書も届いていたんだ。
「エリスも一緒に見てみよう」
こちらの学校ではどんな勉強をするのか気になるよね。
エリスと一緒にソファーに座り、届いた本を開けてみる。
「計算とかじゃないんだ」
「計算や読書については、各お屋敷で家庭教師から習うことが多いようですよ」
エリスと一緒に一通り眺めた本の中身は、この国の歴史や産業に人口、兵士の役割と武器の種類などの実践的なものが中心だった。
「よかった。これなら授業も楽しそうだ」
アメリー母さんが私のことを頭がいいというから、王国の教育レベルが低くて、学校の授業が日本の小学校で習うような内容だったらどうしようかと思っていたのだ。
「ティナ様には以前の記憶があるのでしたね。その時はどのようなことを学ばれていたのですか?」
高校には通えなかったけど中学校は卒業していたので、その時のことをエリスに話すことにした。
「有希様の世界では誰でもが学べて、読み書きができるようになるのですね。素晴らしいです!」
「誰でもってわけではないんだけど、少なくとも私のいたところでは、ほとんどの子供が勉強できていたと思うよ。それで、こちらの子供たちはどうやって勉強しているの?」
「先ほどもお話しましたが貴族や裕福な家の子供たちは、家庭教師を雇って学んでいるようです。また、それ以外にも街には私塾があって、そこで読み書きを習う子供たちもいますね」
「私塾だとお金がかかるんだよね」
「そうですね。貴族や教会の寄進があってタダで教えてくれるところもありますが、勉強している間は仕事ができませんから、どのみち余裕がある家の子供たちしか学べません」
文明の差かな。洗濯機とかがあったら、家事の負担が減るからだいぶん違うんだろうけど、どうやって作ったらいいんだろう。
(デュークは、洗濯機の作り方とかわかる?)
(使い方ならわかるけど、形はぼんやりと……)
普通はそうだと思う。普段から意識してないとわからないよ。
「エリスは、読み書きをおじさんから教えてもらったんでしょう?」
「はい、ティナ様にお仕えさせて頂けるのも父さんのおかげです」
メイドさんも執事さんも、エリスやレオンさんのように専属でお世話する人には教養が必要なんだよね。
そうだ、読み書きができる子供たちが増えたら、洗濯機を発明してくれる人とかもそのうち現れないかな。あれができたらお母さんたち大喜びだよ。
「王国には、まだ食べるのにも苦労している所があるので、そういったところでは勉強どころではないと思います。カチヤや王都みたいに恵まれているところは珍しいんですよ」
先はなかなか遠そうだ。
「それじゃ、まずはみんながお腹いっぱい食べられるようにしないといけないね」
「はい、ティナ様は他の世界の知識をお持ちですよね。それなら、その知識を子供たちのために使ってください。私も協力いたしますので」
どうしたら食べ物をたくさん食べられるようになるか。まずは、この国のことをよく知らないといけない。ちょうど学校でその事を教えてくれるんだから、しっかりと勉強しよう。私が生きていく先が、カペル家であっても王宮であっても、その知識は無駄にはならないだろう。
(ねえ、デューク。しっかり勉強しようね)
(うん、みんなのために頑張ろう!)
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