第32話 うへぇ。八方塞がりじゃないですか!

「どうだった、キース」


「たぶん、明日の昼までには遭遇しそうですね」


 すごい! そんなことまでわかるんだ。


 キースさんの予報を元に、改めて作戦の修正を行うことになった。


「あのー船長、お聞きしてもいいですか?」


 クライブが、まずは手を上げた。


「なんだ、言ってみろ」


「どうして、キース参謀を先に甲板に連れていくように命令しなかったんですか?」


 おや、クライブはさっきからのやり取りに不満があるのかな。


「うーん、キースはな、寝起きがポンコツなんだよ。起きぬけに甲板に連れていったら危なくてな。その証拠に、おめえもキースを起こすのに苦労したんじゃねえか?」


「そ、それは確かに、同室の方に協力してもらってようやく起きてもらいました」


「だろ、それにいつ大波が来るかわからないのに、いつまでもお嬢さん方を甲板に上げておくわけにはいけねえからな」


 やっぱり船長さんだ。この船のことを良く知っている。


「それで、クライブ。キースからなんて習ってきたか言ってみろ」


「え、は、はい。上空の雲の動きとか風の強さの変化とか言われたんですが、よくわかりませんでした」


「うん、今のところはそれでいい。これは経験で覚えていくしかないからな。ただ、経験は生きてないと活かせない。死なねえためには、これから起こることをしっかりと覚えておくんだぞ。わかったか!」


「はい!」


 クライブにはいい先生がついている、これからどんどんと経験を積んでいくんだろうな。


「それで、船長。ティナ様とはどう話をされていたんですか?」


「ティナ嬢は、嵐が来ないうちに終わらせることができないのなら、中止すべきだと言っている」


「しかし、それでは相手に戦力を増強する時間を与えることになりますね」


「そうなんだ、だから作戦の開始を早めたとして、同じような戦果を挙げられるかを話そうと思っているんだ」


 さっきから船長とデュークは、限られた時間の中で、相手をうまくおびき寄せられるかを話しているのだ。


「あのー、嵐をやり過ごしてから戦うのでは遅いのですか?」


 クライブが、再度手を上げて聞いてきた。


「それができたらいいんだけど、嵐が過ぎてから来る敵の増強軍の相手もしないといけなくなるかもしれないんだよ」


 さっき、デュークに尋ねたことをクライブにも教えてあげた。


「うへぇ。八方塞がりじゃないですか!」


「そこでだ、キース。今の状態で鳥は放せそうか?」


 クライブの叫びは無視して話は続く。


「そうですね、夕方くらいから風が強くなると思うので、お昼になる前ならつがいのところに飛んでいけると思います」


「それじゃ、その時に予定の位置につき次第、そっちは待たずに開始すると伝えとくか」


「やっぱりこのまま進めるのですね」


「ああ、カチヤを助けねえといけねえからな」


 それからしばらくの間、クライブとエリスに運んでもらった朝食を食べながら、話し合いは続いた。





 お昼前、私とエリスはクライブと一緒に甲板に上がった。

 天候状況と修正した計画を書き記した手紙を持たせた鳥を、騎士団に向けてはなすというので、その様子を見せてもらうことにしたのだ。


(可愛い鳥さんだね)


 籠に入った鳥は、翼が青色で鳩よりも少しだけ小柄にみえる。そして、頭の上にちょっとだけ飛び出した黄色い羽がまた可愛らしい。

 ちなみに今日のデュークは、鳥が怯えないように少し離れているようだ。成長してくれて私も嬉しいよ。


「キースさん、このまま放っても大丈夫なのですか?」


 今の位置からは陸が全く見えない。こんな小さな体で騎士団のところまで飛んでいけるのか、心配になるよね。


「この子たちはこう見えてかなりタフなんだ。騎士団のところまでなら休憩なしでいけるはずだよ」


 この子たちもすごい!

 たぶん100キロ近くあると思うけど、一気に行っちゃうんだ。


「でも、どうして相手の場所がわかるんだろう?」


「それは、私たちにもわからないんだよ。かなり昔になるんだけど、鳥好きの者がこの鳥の生態を見つけてね。それ以来、通信用に王国軍で飼うことになったんだ。そして余談だけどね。この子たちは相手が生きている限り一生つがうから、それ以来王国では夫婦円満の象徴として可愛がられているよ」


 そうなんだ。でも、カチヤでも王都でも見かけたことないな。


「エリスはこの鳥の事を知ってた?」


「はい、結婚式の時にこの鳥のつがいの絵を送るのが流行っていますね。ただこの子たちを飼うには許可がいりますので、街なかで見かけることはあまりないと思います」


 なるほど、通信に使う鳥だから国で保護しているんだろうな。


「ねえ、二人とも、そろそろ放すみたいだよ」


 クライブが指さす先には、二つ用意してある籠のうちの一つを高く掲げ、入り口を開けようとしている船員の姿が見えた。


 入り口が開けられた籠からは、青色のきれいな鳥が顔を出し辺りの様子をうかがっている。そして、問題ないと思ったのかそのまま空に向かって飛び出した。その鳥は上空を二回転ほどくるりと回ったかと思うと、南東の方向に向かって一直線に飛んで行った。


 一羽目が見えなくなったのを確認してから、もう一つの籠も同じように開ける。重要な知らせの場合は、同じ内容を記した手紙を二通送ることになっているんだって。


 今度の鳥さんも、同じように二回まわって前の鳥さんと一緒の方向に向かったから、騎士団のところに居る自分のパートナーのところに向かったんだろう。


「あとは、無事たどり着くことを祈るだけだ。さてクライブ、二人を連れて食堂に行ってくれないか。そして三人で早めの食事を済ませてくれ。夕食は食べられないかもしれないからしっかりとね」


 とうとうこれから本当に戦闘が始まるんだ……

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