第31話 うそ! おじさ……船長! それって本当ですか?

 翌朝、船の揺れの大きさに目が覚めた私とエリスは、二人で体を支え合いながら甲板へと上った。


「おっ、嬢ちゃんたち起きたのかい。危ねえから、何かに掴まってな」


 船長さんの言う通り時折大きな波がきていて、掴まっていないと甲板から海に投げ出されてしまいそうなのだ。


「おはようございます。船長さん、どうしてこんなに海が荒れているんですか?」


 まだ日が昇ったばかりだけど、空を見渡してもそんなに雲もないから、天気が悪くなりそうな感じはしないんだよな……


「元々この辺は、海流が変わるところだから波は高いんだが、いやな風が吹いているんだよな。もしかしたら嵐になるのかもしれねえ」


 嵐って言ったら台風とかハリケーンのことだよね。そんなものが来ちゃったら、この船がいくら大きくても沈んじゃうんじゃないの?


「大丈夫なのでしょうか?」


 エリスも不安そうだ。せっかく船に慣れてきていても、海に落ちちゃったら終わりだからね。


(これは急がないといけないかも)


(やっぱり嵐が来そうなの?)


(うん、マストの上の旗を見て、ずっと南にたなびいているでしょ。北風が吹いている証拠なんだ。きっと南の方に台風か何かが来ているんだと思う)


 太陽は船の右手にあって、デュークが言っている旗は船の進行方向に向かってパタパタとはためいていた。


(どうするの? 中止するの?)


(ボクも海の上での嵐はよくわからないんだよね。船長さんの判断に任せた方がいいのかも)


(わかった。聞いてみる)


 デュークも地球の人間だったとすると、こちらの気候に詳しくないかもしれないからね。


「船長さん、今日の計画はどうするのですか?」


「嵐になるのなら、通信用の鳥を放つわけにはいかねえんだ。ただ、このまま始めるにしても、騎士団の連中にも嵐が来そうだということを伝えねえといけねえし、悩ましいところだな」


 そうか、鳥さんは嵐が来たら飛べないもんね。


「あ、いた! ティナ、エリス。部屋に行ってもいないから心配したよ」


 クライブが普通の足取りで甲板に上がって来た。あれ、もしかしてクライブって意外と足腰が強いのかな。多少の波なら平気なようだ。


「お、クライブ、ちょうどいいところに来た。キースのやつを船長室に連れてきてくれ」


「え、何で?」


「返事は!」


「はっ!」


 クライブは慌てて船倉に下りて行った。


「それじゃ、お嬢ちゃんたちも来てくれるかな」


 私たちも船長室に行かないといけないみたい。








 船長室で椅子を用意してもらい、地図で現在位置を教えてもらっていると、ノックが聞こえドアが開いた。


「キース参謀をお連れしました!」


「船長、すみません。遅くなりました」


 クライブが連れてきたキースさんの頭の後ろには、寝癖がくっきりと。今まで寝ていたんだね。


「さっきは挨拶できなかったから、改めまして。おはよう、ティナ、エリス。よく眠れた?」


 私の隣に立ったクライブが、のんびりとした声で挨拶をしてきた。


「おはよう、クライブ。おかげさまでぐっすり眠れたよ」


「おはようございます、クライブ様。よく眠らせていただきました」


 クライブ、どんな時でも挨拶を忘れないのはいいことだと思うよ、でも、今って結構緊急事態じゃないのかな。


「あー、三人とも仲がいいところ申し訳ないが、進めてもいいかな。ちょっと急いでいるでね」


 ほら、やっぱりね。


「キース、嬢ちゃんたちには話したんだが、どうもこちらに嵐が向かって来ているようなんだ」


「うそ! おじさ……船長! それって本当ですか?」


「俺がお前たちに嘘ついてどうなる! 風向きが怪しんだよ!」


「すみません船長、甲板に出てないのですが、どちら向きの風ですか?」


 キースさんは寝起きだからね。仕方がないかも。


「日の出前からずっと北風だ」


「強さは?」


「まだ、そこまでじゃねえ」


「……ちょっと見てきます」


 キースさんは船長室を飛び出していった。


「おい、クライブ。お前もついていって勉強して来い!」


「えっ、はっ!」


 クライブも慌ててキースさんの後を追って行った。


「すまねえな。二人ともちょっと待っててくれ、キースが空を見たら嵐がいつ来るかわかるからよ」


 おおー、キースさんって気候予報士みたいなこともできるんだね。

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