第50話 クライブ、見違えたよ。まるで王子様のようだよ
私とクライブはエリスを連れて、再びアレンさんが寝ている部屋へと向かう。ちなみにコンラートさんとエルマー殿下は王様の所に残った。何でも別の話があるみたい。
「クライブ、見違えたよ。まるで王子様のようだよ」
「はい、王族の方のように見えます」
「僕もなかなかのものでしょう。それよりもエリスだよ。その衣装どうしたの? 貴族の令嬢みたいだね」
「ええ、ティナ様のお召し物をお借りしました」
「うん、よく似合っている。可愛いよ」
「もう、クライブ様ったら」
「ねえ、クライブ。私の服の感想は? 船の時と違うよ」
「え、うーん……うん! ティナはティナだね」
なんだそりゃ。
船を下りてから一週間位しか経っていないけど、この感じも懐かしい。
王様のところからアレンさんの部屋まで他に誰もいなかったから、クライブがいつも通りにお願いって言ってきたのだ。もちろん、こんな感じで王族に対して砕けて話す方が特別なんだけど、それを言うのは
「それで、クライブ。アレンさんはどう変わったの? エルマー殿下は顔色がいいって言っていたけど」
「うん、そうなんだ。あの日ティナが帰ったあと、僕と母上で兄上の体を動かしてあげてたでしょう。しばらくしたら、兄上の頬に赤みが差しているのに気づいてね。これまで一度もそんなことなかったから、母上と一緒にもしかしてって話していたんだ」
「え、それじゃ!」
「ううん、兄上はまだ寝たままだけど、きっとこれは一歩前進だと思うんだ。何が原因かっていったら、兄上とティナが会ったことしか考えられないじゃない。だからもう一度来てもらおうって母上と話したんだけど、呼びつけるわけにもいかないからさ、そこで、今日を利用させてもらったってわけ。無理言ってごめんね」
別に呼んでもらってもよかったんだけど、王家から特定の貴族を呼ぶにはそれなりの理由がいるのかもしれない。
「それで、今日も兄上の手を握ってあげて欲しいんだけどいいかな?」
「うん、もちろん!」
もしかしたら、本当にアレンさんが目覚める事になるかもしれないからね。
(ねえ、デューク。何度かデュークが中に入ったらアレンさん起きないかな)
(……無理だと思うよ。だって、中に誰もいないから)
それって、もうアレンさんは起きることは無いってこと?
(それじゃあ、デュークがアレンさんの中に入って生活するって言うのはどうなの?)
この前のデュークは、私が握っていたアレンさんの手を少しだけど動かしていた。最初は私のように苦労するはずだけど、頑張ったら体だって動かすことができるはずだ。
(え、ボクはユキちゃんから離れたくないし、離れられないよ)
そうだった、デュークは私から5メートルぐらいしか離れられないんだった。
何とかしてあげることできないのかな……
コンコン!
「待っていたわ。さあ、入って」
アレンさんの部屋では、以前より明るくなったクラーラさんがドアを開け、私たちを招き入れてくれた。
「ティナさん。今日は無理言ってごめんなさいね。早速だけどアレンを見てやってくれないかしら。この前よりも随分と顔色がいいのよ」
確かに、前と変わらぬ姿のままベッドで寝ているアレンさんの頬には、あのよりもちょっとだけ赤みがさしているように思える。
「このお方がアレン様ですか」
「うん、そう、クライブ殿下のお兄さん。私たちより二つ上なんだって」
「ほんのりと頬が染まっておられますね」
「あなたもそう思うでしょ。赤みはこの前よりも少し薄くなっちゃったけど、今日はティナさんが来てくれたからまたよくなるはずよ。あ、挨拶もまだだったわね。初めまして私はクラーラ。アレンとクライブの母です。あなたがエリスさんね、待っていたわ」
エリスはクラーラさんに連れていかれてしまった。アレンさんが起き上がった時のために、どうしたらいいのか聞きたいらしい。
「それじゃティナ、兄上の手をお願いできる?」
「うん、わかった」
アレンさんのベッドの左側にある椅子に座り、布団の中に手を入れる。そして、そっとアレンさんの左手を握る。
温かい。ほら、ちゃんと生きてるよ。
デュークはああいったけど、私だって精神は春川有希だ。アレンさんの中は今は空っぽかも知らないけど、いつか戻ってくるかもしれないじゃない。私みたいに……
(デューク、またお願いできるかな)
(うん、何度でもやってあげるよ。このアレンって人の体、入りやすいんだ)
前も思ったけど、入りやすいとか入りにくいとかあるんだね。
(ありがとう。それで今日は、しばらく中に入ったままでいて欲しいんだけどいいかな)
(しばらくって、どれくらい?)
(もういいよって言うときには、左手をギュッと握るからそれまでお願いね)
(わかった)
デュークの気配がアレンさんと重なっていくのがわかる。
前回は少しの時間で変化があったんだから、デュークに長い時間入ってもらったらもっと変わるかもしれない。
ほら、その証拠にアレンさんの頬にさっきよりも赤みが増してきたよ。
「は、母上! 見てください。兄上の頬が!」
クライブがアレンさんの顔を覗き込んできた。私は邪魔にならないように場所を譲ってあげる。
「まあ、アレン。聞こえますか母ですよ!」
「兄上! 起きてください。クライブです。もう16才になりました」
クラーラさんとクライブは、アレンさんに必死に声をかけているんだけど、今はデュークが入っているんだよね。揺さぶりでもしたら、驚いて動いちゃうんじゃないかな。うーん、どうしよう……
「あのー、クラーラ様、クライブ様、あまり大きな声をかけられますと、アレン様がびっくりなさいます。静かに待ってあげられた方がいいのではないでしょうか?」
「ああ、そうですねエリスさん。アレンは静かに寝ているのですから、急に声をかけたら恥ずかしがってしまうかもしれませんね」
ふぅー、よかった。エリスもデュークがアレンさんの中にいるって感じているはずだから、機転を利かしてくれたんだ。
「ごめんねティナ、驚かせちゃって、あまりに嬉しくてつい……」
「ううん、気にしないで」
ずっと待っているんだもんね。
「そうだ、ティナ。こっちに兄上の肖像画があるんだけど。見てみない?」
「へえ、肖像画なんてあるんだ」
アレンさんの事が分かったら、デュークが何か気が付くかもしれない。
そう思って、クライブの後をついて行ったんだけど、あの時の私はアレンさんの手を離していたのをすっかり忘れていた。
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