第49話 馬子にも衣裳とはこのことだね

 王族を代表してエルマー皇太子殿下が挨拶をし、そして今日の主役のクライブを呼ぶ。みんなの拍手が響き渡る中、クライブは、前方のドアからお付きの人をともなって入ってきた。そして、クライブはそのまま一人で王様の正面まで移動しそこで立ち止まった。

 今日の服装は軍服ではなくて、他の王族の人たちと同じような服装だから、きっとこれが正装なんだろう。


「こういう姿は新鮮ですね」


 ほんとそう思うよ。私とエリスは、悩みが無さそうな顔で寝ているクライブを見ているからね。


馬子まごにも衣裳とはこのことだね」


「ふふ、ほんとですね」


 よかった。こっちにも似たようなことわざがあるから、エリスにうまく伝わった。まあ、クライブは馬子じゃなくて王族だから似合って当然だけどね。


「それでは、カール国王陛下よりお言葉をたまわります」


 場内は一瞬にして静まり返り、王様の動きを注目している。


「クライブよ。よくぞ初陣で勝利を導いた。王家の誉れぞ!」


「おじい様、それは違います。このたびの勝利は私の力だけではありません。皆が助けてくれたからです。このクライブ、これからも皆の助けを借りられるように精進いたします」


「うむ、よくぞ申した。これからも期待しておるぞ!」


 式典はこれで終わりらしく、王様と王妃様、皇太子妃は奥に戻っていって、エルマー殿下とクライブだけが残った。これから祝宴が始まるのだ。






「ティナ様、この後は両殿下が来られるのをお待ちするだけです。座っていましょう」


 私とエリスは、さっきまで座っていた椅子に再び腰をかける。そこに飲み物を運んでいる人が通ったので、果物のジュースをもらった。


「あ、美味しい。エリスのはどう?」


「私のもさっぱりとしておいしいですよ。飲んでみられます?」


 私とエリスは飲み物を交換して、お互いに味見してみた。私が飲んだものは桃みたいだったけど、エリスのはリンゴっぽいな。この国の輸送手段は馬車がメインだから、新鮮な果物はなかなか手に入らないんだよね。この日のために取り寄せたのかな。


「んーと、しばらくかかりそうだね」


 広間では多くの人たちが、飲み物を片手に話をしていた。今日は祝宴という名前はついているけど、私が知っている宴会というものとは少し違うみたい。まずは料理は全く無くて飲み物だけ、さらにアルコールのたぐいも無いらしいから、中には帰りたいと思っている人もいるはずなんだけど、そういうわけにはいかないらしい。


「はい、私たちは侯爵家の一員として参っておりますので、最後の方みたいですね」


 何の話かというと、エルマー殿下がクライブ殿下を参加者に紹介する順番だ。軍人の人から始まってそれから評議員の人たちへ、その評議員の中でも爵位によって順番が決まっているらしくて、序列が高いウェリス家は最後の方になる。これが終わらないと帰れないので、未だ貴族の人たちはほとんどが残っているというわけだ。一番最初に殿下と挨拶していたハンスさんは、私たちに手を振ってさっさと帰ってしまっている。


 さてさて、どうやって時間を潰そうかな。






「お待たせ、私たちの順番は最後らしいよ」


 広間の人たちがかなり少なくなってきた頃、ようやくコンラートさんが戻ってきた。


「ウェリス家はいつも最後なのですか?」


「うーん、いつもは侯爵家で持ち回りになっているんだが、今日は特別みたいだね」


「特別ですか、すごいですね」


「何言ってるの、ティナのおかげだよ」


『ふぇ』っと思わず変な声が出てしまった。なんでも、今回の作戦の功績らしい。


「二人とも待っている間、退屈しなかった?」


「いえ、エリスが人気でいろんな方が来てくださいましたから、退屈する暇なんてありませんでした」


「もう、ティナ様!」


 最初は退屈だったから、エリスとデュークと三人で参加している人たちを観察していたら、次第に評議員の貴族の人たちが来るようになった。

 御前会議で私に一度会っているから、話しかけやすかったのかもしれないけど、それにしても参ったよ。ハンスさんの言う通り、結構な人からエリスのことを聞かれたのだ。このお嬢さんは誰だって。おいそれと大事なエリスを渡すわけにはいかないから、『カペル家のメイドでしばらく結婚する気はありません』って言って帰ってもらったよ。エリスには幸せになってもらいたいけど、今すぐは早すぎる。せめてもう少しは一緒にいたいと思う。


「それは何より、私も聞かれたよ。エリス、その気があるならいい家を紹介するよ」


「コンラート様といえどもご遠慮申し上げます。私の身の振り方につきましては、ティナ様と話し合って決めさせていただきます」


 エリスも全く断るというわけじゃないから一歩前進だね。





「待たせたね」


 エルマー殿下とクライブが、私たちのところにやって来たのは本当に一番最後だった。広間には衛兵と王宮の使用人以外はいなくなってしまっている。


「まずは、今日はクライブの初陣の祝宴に来てくれて感謝するよ。まだまだ未熟ものだがよろしく頼む」


 エルマー殿下はクライブとともに頭を下げた。


「殿下、頭を上げてください。私たちは王家と共にあります。これからも何なりとお申し付けください」


 私たちもコンラートさんにならって頭を下げることにした。


「さてと、仕事は終わったから早速本題に入ろうか」


 本題があるんだ。


「この前ティナにアレンと会ってもらっただろう。あれからアレンの顔色がいいみたいなんだ。クラーラが、どうしてももう一度会って欲しいというんだが、お願いできないだろうか?」


 あの時は、アレンさんの中の様子をデュークにみてもらった。もしかしたらそれがよかったのかな。


「私は構いませんが……」


 コンラートさんの方を見ると、うんと頷いた。


「それでは私は控室でお待ちしておきますね」


「いや、エリスも来て欲しい。ティナを長いことみていただろう。その時のことをクラーラが聞きたいそうだ」


 私たちは再び、アレンさんの待つ王宮の奥へと行くことになった。

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