第48話 とりあえず、立って待っていようか

 一週間後、王宮の広間でクライブの初陣を祝う宴が開かれることになった。

 参加するのは王族と評議員の貴族の方々と、王国軍の関係者の人たちだ。

 だから広間にいる人のほとんどが男性で、私やエリスがここにいるのは場違いな感じがしている。


「ティナ様、私も参加してよかったのでしょうか?」


「当然だよ。主役のクライブが来てって言うんだから、来ないわけにはいかないでしょう」


 祝宴に女性が他にいないって知らなかったからね。エリスも呼ばれていてほんと助かったよ。


 ちなみに今日のエリスは、いつものメイド服ではなくて私のドレスを着ている。せっかくだから新調しようって言ったんだけど、エリスが『もう二度と着ることは無いと思うので、もったいないから必要ありません。お嬢様のお召し物をお貸しください』って言うから、私のドレスを貸すことになったんだけど、今度服を作ることがあったら、エリスの服も一緒に作ろうと心に決めているんだ。だって、いつもと違ってとても可愛いんだもん。


「お、嬢ちゃんたちも来てたのかい」


 エリスと二人で、壁際の椅子に腰かけて開始の時間を待っていたら、手持無沙汰な感じの白い軍服を着たおじさんが近づいてきた。


「あ、ハンス船長。船ではお世話になりました」


「こっちこそ、ありがとな。それで、隣、いいかい」


 私がどうぞというと、船長は私の隣の空いている椅子に座った。


「船長もいらっしゃってたんですね。こういうところは苦手だと思ってました」


 船長は敬語が苦手だから、貴族の人たちと一緒にいるのは嫌なんじゃないのかな。


「そうだな、普段なら来ねえよ。でも、今日はクライブが主役だろう。欠席でもしたら、あとからなんと言われるかわかったもんじゃねえからな」


 ふふ、船長とクライブってほんとに仲良しさんなんだね。


「うーん、それにしてもこれはなかなか……エリスは見事に化けたな。これなら息子の嫁にって思う貴族がいたとしても不思議じゃねえぞ」


 うんうん、船長はよくわかっている。エリスは素材がいいし、教養もあるから貴族の家に嫁いでも全然おかしくないよ。


「いえ、私の家では貴族の方と身分が違いすぎます。それに私はティナ様のお傍を離れる気はありません」


「まあ、身分はどうとでもなるんだが、うちの妹がいい例だし……。それよりもエリス、そういう考えだと嬢ちゃんが困るんじゃねえのかい」


「え、ティナ様が……」


「だって、そうだろう。嬢ちゃんが結婚したいと思っても、大の仲良しのエリスが結婚もしないでずっと近くにいるって言って離れない。そりゃー嬢ちゃんも躊躇ちゅうちょするよな」


 いや、まあ、うん、エリスにも幸せになって欲しい。


「そんな……私は……」


「俺は余計なことを言っているのかもしれんが、一緒にいるだけが相手のためになるとは限らねえ。二人ともまだ若いんだからよく考えな。道はいろいろあるさ」


 エリスの気持ちは嬉しいし、ほんとならずっと一緒にいたい。でもそれだとエリスの人生を私が縛り付けちゃうことになっちゃう。もし、いい人が現れたのならその人と幸せになって欲しいと思う。


「エリス、急がなくていいよ。ゆっくり考えよう」


「はい」


 クライブは、ハンスさんは陸の上ではうだつの上がらないおじさんだって言っていたけど、そんなことないよね。少なくとも私は頼りになる人だと思うよ。


「皆さまお待たせいたしました。もう間もなくカール国王陛下、ビアンカ王妃、エルマー皇太子殿下、クラーラ皇太子妃がご入場されます。起立してお待ちください」


 広間の前方に侍従さんが出てきた。開始の時間になったようだ。


「お、それじゃ、俺は行くぜ」


「え、行っちゃうんですか?」


 コンラートさんもお仕事の相手と話すのが忙しいらしくて、着いたそうそう私たちを置いてどこかに行ってしまった。誰か知っている人が近くにいてくれた方が助かるんだけど。


「俺がいたら、誰も嬢ちゃんたちに声をかけられねえからな。邪魔はしねえよ。またな」


 そういう人たちから、ガードしてくれてもよかったのに……。あーあ、もう行っちゃったよ。


「とりあえず、立って待っていようか」


 私とエリスは立ちあがり、王様たちが入って来るのを待つことにした。

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