第45話 ざわざわ……ざわざわ……ざわざわ!
コンラートさんによると、今日の王様への戦闘報告は以前の御前会議の時と違って王宮の謁見室で行うみたい。普段王様に会うためにはこの部屋を使うらしく、この前みたいに会議室で会えるのは貴族でも評議員ぐらいしかいないんだって。だから私があの時に王様の近くに行くことができたのは、外敵に襲われたという特別な事情もあったけど、それだけカチヤが襲われたということが、王国にとって大問題だったということらしい。
コンラートさんと一緒に身体検査を済ませた後、謁見室の入り口まで向かう。ここでは、侍従さんが来た人と参加者名簿と照らし合わせていた。呼ばれていない人が王様に近づかないようにしているのだろう。
私たちの番になった時、コンラートさんが私の分も名前を言ってくれた。
「軍務大臣のコンラート・ウェリスと軍師のティナ・カペルだ」
軍師って……確かに今日はその肩書で参加させられるみたいだけど、ほんと止めて欲しいよ。
「ウェリス卿、お待ちいたしておりました。それにティナ・カペル様ですね。お二人で最後になります。お席にご案内いたしますので、今しばらくお待ちください」
侍従さんを待っている間、中を覗いてみる。
左右の壁には、紺色の軍服を着た兵士さんがたくさん並んでいた。入り口で侍従さんと一緒に立っていた兵士さんもそうだったから、やっぱり王宮担当の近衛兵さんの服はこの色みたいだ。
んーと、それ以外の人は30人くらいかな。受付の人は最後って言っていたから、参加者はあまり多くないのかも。それにしても、全員が立っているんだけど、もしかして立ちっぱなしなの?
正直、長い時間だとまだ自信がないんだけどな……
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
侍従さんの後について謁見室の中へと入る。
ひそひそ……
あれ、これってもしかして私のことを話してない?
なんだか、みんなの視線が気になるんだけど……
(ユキちゃん人気者だね)
(そんなのいらないよ。ひっそりと暮らしたいよ)
兵士さんたちはさっきと変わらずビシッとしているから、ざわついているのは貴族の人や文官さんたちかも。きっと場違いな女の子が来たって思ってるじゃないかな。
「やあ、ティナ。ゆっくり休めた?」
どこから
「あっ、クライブ……殿下。はい、おかげさまでゆっくりできました」
危なかった。急に来るから、思わず呼び捨てにするところだったよ。
ざわざわ……
ざわざわ……
うっ! 場内のざわめきが大きくなってしまった。兵士さんは相変わらず動いてはいないようだけど、目ではこちらを見ているのがわかる。皇太孫殿下が、場違いな女の子と親しげに話していたら、そりゃあ何事かと思うよね。
「で、殿下、ここでは」
コンラートさんも周りの様子が気になるみたい。
「あ、そうだね。それではウェリス卿にお願いがあるのだけど、おじいさまへの報告が終わった後、ティナを貸してもらえないかな」
ざわざわ……
ざわざわ……
ざわざわ!
うわっ! ざわめきがより一層大きくなってしまったよ。こういう注目を浴びるのは、ほんとに勘弁してもらいたい。
「……わかりました。その時には私も同行しても構いませんでしょうか?」
「うん、ウェリス卿の了解も欲しいから、一緒にいてくれると助かる。それじゃ、ティナ。また後でね」
クライブは、後ろの方で海軍の人たちが集まっているところに向かって行った。
「ふぅー、クライブ殿下にも困ったものだ。待たせたね、それでは席への案内を頼むよ」
王族のクライブが来たものだから、侍従さんも待っていてくれたんだよね。
「こちらになります」
いまだ場内のざわめきが収まらないなか侍従さんに案内された場所には、正面のひときわ豪華な椅子の前に置かれたいかにも高そうな椅子が5脚並んでいた。さっきは人の陰で見えなかったけど、私たちは座ることができそうだ。
「よかった。立ちっぱなしかと思ってました」
「普段は立って行うんだけど、今日はティナがいるから特別みたいだよ」
そうなんだ。ありがたいけど、正直言うと参加しなくていいよって言ってもらう方が嬉しいかも。
程なくして、さっきとは別の侍従さんが前に出てきた。急に場内が静かになったので、これが王様が来る時の合図なのかもしれない。
「カール国王陛下、並びにエルマー皇太子殿下のおなりです」
コンラートさんに促され立ち上がる。
私たちが入ってきた入り口の反対側の壁にある扉が開き、エルマー皇太子殿下とカール国王陛下が入って来た。王様は正面の豪華な椅子に、エルマー殿下はその向かい側のコンラートさんの隣の席に腰かける。
「椅子の方はおかけください。これより戦闘報告会を開催いたします」
侍従の人の言葉のあとエルマー殿下が前に出て、戦闘報告会が始まった。
「陛下、以上がこの度の戦闘の成果です」
「うむ、皆もご苦労であった。そちたちの働きによりカチヤは守られた。礼を言うぞ!」
全員で起立をして、王様とエルマー殿下を見送る。
ふぅー、よかった。指名されることもなく終わったよ。コンラートさんの言う通り聞くだけで済んだ。それにしても眠たかったな。特に数字の所がきつかった。だからいつもは立って行うのかもしれない。もし眠っていたらどうなっていたかな。処刑とかされていたりして……。
うぅ、ゾクっとしてきた。デュークに注意してもらって助かったかも。
(ありがとう。命拾いしたよ)
(ん? 何のことかわからないけど、どういたしまして)
他の参加者が侍従さんに促され退出していくのを、私とコンラートさんはその場に留まって見送る。
私たち以外の参加者がすべて謁見室を出てしまった後、後ろの方で同じように帰っていく人たちを見送っていたクライブがこちらにやってきた。
「ウェリス卿、ティナ、僕について来てもらえる」
そう言ってクライブが進んでいった先は、先ほど王様たちが出ていった扉だ。
「ねえ、ここって……」
「うん、この先に僕たちの住む場所があるんだ」
なるほど、最後まで残っていたのはこういうことか。でも、そんなところに私が入ってもいいものなの?
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