第46話 本当の本当に何もなかったのかい?
「おじい様、ティナをお連れしました」
クライブは、王宮の奥にある部屋の一つに私たちを案内した。
「入れ!」
あ、この声はエルマー殿下かな。似ているけど王様より少し若い声なんだよね。
クライブが開けてくれた部屋の中には、カール国王陛下とエルマー殿下、それにお母さんによく似た女性と物静かそうな女性が座っていた。
「ああ、ティナ。本当にティナなのですね」
お母さんに似た女性は立ち上がり、私のもとへとやって来た。
「もしかして、ビアンカ王妃様ですか?」
「ティナったら何をそんな他人行儀に、いつものようにビアンカお姉ちゃんって言ってごらんなさい」
えっ、眠る前のティナってそう言っていたの?
「ビアンカお姉ちゃん?」
「ティナ!」
ビアンカお姉ちゃん? は私をギュッと抱きしめてきた。
「あはは、母上、ティナが何も覚えてないからってウソを教えちゃだめですよ。ティナも真面目に取らなくていいから」
ウソなんだ。
「エルマー、せっかく一からやり直せるのですよ。それなのにわざわざおばさんと呼ばれたくはありません!」
なるほど、そういうことね。
「ビアンカ王妃様。失礼でなければ、これからはビアンカお姉さまとお呼びしてもいいでしょうか?」
「ほら御覧なさい。ティナ、もちろん構わないわ。でもそれはここだけにしてね。外では気にする人たちもいるから」
ほんとビアンカさんって、アメリー母さんやカミラさんによく似ているよ。
「今日はすまないねコンラート。ビアンカがどうしてもティナに会いたいと言うのでな」
「いえ、もっと早くに連れてこないといけなかったのですが、そういう訳にもいかず……」
「いいのよコンラート、カチヤがああいう目に遭ったのですもの。それは仕方がないわ。でも、私だけがティナと会っていないのは不公平だと思わない?」
「え、いや、その……」
コンラートさんもタジタジだ。
「母上、ティナを座らせてやって下さい。まだ足が十分ではないのですから」
「そうだったわ、ごめんなさいね。さあ、ティナは私の隣に座りなさい」
私とコンラートさんは、王家の
「なんと! それでは、私だけでなくティナもクライブ殿下の初陣の祝宴にお呼びいただけるということですね」
「ああ、こいつに聞いたら船の中で大変世話になったというのでな」
お世話したってあのことだよね。どこまで話しているんだろう。
「それは光栄です。ティナも構わないよね」
「はい、喜んで参加させていただきます」
断れないよね。王様のお願いだもの。
「うむ、楽しみにしとくぞ。そこでじゃ、こいつはその時に何があったか何も覚えとらんというのじゃが、船で何かがあったんじゃろ。ワシの命令じゃ正直に話してみよ」
「え、いえ。何もありませんでした」
いくら王様の命令でも、何も無かったのだからそう話すしかないだろう。
「怒りはせんから、早く話すがよい」
「本当に何も……」
「陛下、ちょっと待ってください。私は何も聞いていないのですが、何とはいったい何なのでしょうか?」
「あれ、コンラートは聞いていないのかい。実は、クライブが船での事を楽しそうに話すから聞いてみたら――」
エルマー殿下は、コンラートさんにあの時のことを話すみたいだ。
「――でね、この年頃の男の子が密室で可愛い女の子といて何も無いということがあるのか疑問に思ってね。父上と話していたんだよ」
何かあるのが当たり前のように言われているけど、あの時はエリスもいたしデュークもいた。何かある方がおかしいよ。
「エルマー殿下初耳です。海軍からもそういう報告は受けていないのですが……。それで、ティナ、ほんとのところはどうなんだい?」
ハンス船長もわざわざ知らせなかったんだろう。こんなふうに面倒くさくなるのがわかっているから。
「本当に何もありませんでした。あの時は嵐の真っ只中で、船長室に様子を見に行ったときに参謀のキースさんから頼まれて、そこで寝ていたクライブ殿下をお預かりしました。ただ、殿下のお部屋が分からなかったので、私たちの部屋で寝ていただいていたというわけです」
正確には船長室の床に転がっていたのだけど、これを話したら船長さんやキースさんに迷惑が掛かりそうだから黙っておこう。
「本当の本当に何もなかったのかい?」
「はい、本当の本当に何も……。殿下は戦闘でお疲れになっていたのでしょう。嵐が過ぎるまでぐっすりとお休みでした」
「ふぅー、それならよかった。いくら殿下でもハーゲンに申し訳ないからな」
「せっかくなら手を出してくれてた方がよかったのに、そしたら既成事実で一気に……」
エルマー殿下、ボソッとお話になってますけど、私には聞こえましたよ。そんな事実はありません!
「はいはい、ティナは私の可愛い姪っ子ですからね。いくらクライブといえども簡単には渡せませんよ。エルマーもいくらティナがいい子だからって、物には順序があります。慌ててはなりません」
「ねえ、さっきからティナが責められているのって、僕がティナたちの部屋で寝ていた事だよね。それって、何かまずかったの?」
「「「ふぅー」」」
王家の人たちから一斉にため息が漏れた。
「コンラートよ、どうしたらいいと思う?」
「クライブ殿下は皇太孫になられたばかりです。もうしばらくお時間が必要かと」
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