王都編
第44話 引っ越し先は王都ですか?
「お父様、ティナお姉さまをお願いしますね」
「ああ、わかっているよ。ティナ、準備はいいかい?」
翌朝、軍務省から戻って来たコンラートさんと一緒に王宮まで行くことになった。
「はい、大丈夫です」
「それじゃ、出発しよう。セバス頼むよ」
私とコンラートさんを乗せた馬車は静かに動き出した。
「コンラートさん、お疲れではないのですか?」
結局コンラートさんは昨夜は帰ってこなかった。たぶんカチヤでの戦争の処理が終わらないんだと思う。
「ああ、役所で少しは寝ることができたからね。それよりもティナたちは休めたのかい。戦闘の後の嵐はひどかったって報告が来ていたよ」
やっぱりひどかったんだ。ハンス船長さんたちが慌てた様子を見せなかったから、こんなものかと思っていたんだけど。
「はい、私は船でもここでもゆっくりさせてもらいました」
「それはよかった。でも、聞いたよ。またフリーデが迷惑をかけたんだろう。すまないね。もう来月には学校に行くというのに甘えん坊で困っているんだ」
昨夜ウェリス邸に戻った私とエリスは、カミラさんからも手厚い歓迎を受け、食事が済んだ後もしばらく離してもらえなかった。それからエリスとフリーデと三人で温泉に入ったあと、フリーデが部屋にやってきて一緒に寝たんだけど、エリスも来たそうだったんだよね。
でも、いくら私とエリスが友達でも、さすがにウェリス家で使用人のエリスと一緒に寝るわけにはいかないから我慢してもらったんだ。
「フリーデちゃんは可愛らしくて、私も癒されているので大丈夫ですよ。それよりも、今日はどうしたらいいのかわからないのですが……」
昨日はコンラートさんが帰ってこなかったから聞けなかった。代わりにセバスチャンさんやレオンさんに聞こうと思っていたんだけど、カミラさんやフリーデに離してもらえなかったからそのチャンスがなかったのだ。
「心配しなくていいよ。今日は、作戦総司令官のエルマー殿下が戦闘に出た軍の関係者や私のような文官を集めて、陛下の前でありのままの事実をお伝えするだけだからね。ティナは作戦を立案しているけど、軍の人間ではないから話す機会はないんじゃないかな。ただ、みんなが話すことを聞いていたらいいさ。退屈だろうけどね」
なるほど、それなら簡単かもしれない。
「それよりも、カペル男爵家のほうが大変なんだよ」
「えっ! もしかしてお父さんたちは戦争の責任を取らされたりするんですか?」
攻め込まれたのは確かだけど、その責任をお父さんに取らせるっていうのなら、今日は何としてでも王様に文句を言わないといけなくなる。
「いやいや、カチヤは失っていないし、男爵はむしろ領民の被害を最小限に抑えたからその功績で恩賞を貰えるはずだよ」
「では、どうして?」
「教皇国がいつまた襲ってくるかわからないのに、ハーゲンばかりに押し付けるわけにはいかないからな」
(デュークが言った通りだね)
(うん、もしかしたらおじさんたちは引っ越さないといけなくなるかもよ)
「……あのー、私たちが引っ越すということもあるのでしょうか?」
「さすがはティナだ。この先のことも予測がついているのかもしれんな。今のところその方がいいのではないかって話しているんだ」
「引っ越し先は王都ですか?」
王都なら、学校に行く間もお父さんたちと一緒に暮らすことができる。
「カペル男爵家は領地持ちだから、それに見合った領地を与えないといけなくてね。どこがいいか内務省に調べてもらっていたんだよ」
残念、一緒に住むのは難しいのかな。でも、せっかくなら近くの方がいいよね。
「コンラートさん、どのあたりになりそうとかはわかりませんか?」
「昨日の夜、内務省の書記官が持ってきた候補に挙がっていたのは東部と南部だった。どちらにも王家の直轄地があるんだが、双方ともなかなか大変な土地でね。内務省と
「記紋院というのは何なのでしょうか?」
エリスから国の機関について教えてもらったことがあるけど、そこの部署は聞いたことが無い。
「ああ、あそこは普段は仕事が無いからな。新しい貴族が誕生するときとか、こんなふうに領地を与えるときとかに、爵位や功績と土地の価値を比べて問題ないかを調べるんだ。そうしないと、他の貴族がやかましいんだ」
なるほど、必要以上にあげちゃったら文句を言いたい人も出てくるだろうし、少ないと貰った人から不満が出る。ほんと貴族は大変だよ。
「それで大変な土地とおっしゃっていましたが、どんなふうに大変なのでしょうか?」
この質問は、デュークからの質問だ。
「そうだな、東部はカチヤよりも少し広くて穀物もたくさん獲れる肥沃な土地だ。ただ、すぐ傍に敵の勢力があって安心はできない」
うわ、そういう土地は大変そうだよ。お父さん心労で倒れちゃうよ。
「南部の土地は東部よりも広くて少しだけど海に面している。周りに敵もいないし戦いになる心配はないんだが、開発が遅れていてね、そんなに豊かな土地ではないんだ。それに、道も十分に整備されていないから、王都に行くにも他のところに比べて二倍かかると思っていいだろう」
南部はエリスが言っていた通りだ。発展が遅れているみたい。でもあそこには香辛料があるんだよな。
「どちらにするかをお父さんが決めることができるのですか?」
「ああ、どちらの土地も男爵家には広すぎるんだが、今回の戦いの功績でカペル男爵家は伯爵の位を下賜されることになるだろう。それを踏まえて記紋院が調べ、問題ないようならハーゲンに話しに行くことになる」
「お父さんに?」
「ああ、どうしても離れたくないと断られることもあるからな」
「そうなると、どうなるのですか?」
「罪もない者から領地を召し上げることはできない……」
(これは、もし断ったら何か罪を作られてでもカチヤを取られるということでいいのかな)
(そうだね。王国としてはカチヤを自分たちで管理しないと、次に占領されたら王都が危ないって気付いたんだと思うよ)
「わかりました。もし、決まったらその土地の資料を頂けますか。私からもお父さんに話してみます」
「ありがとう。ティナは話が早くて助かるよ」
(コンラートのおじさんって見た目は優しそうだけど、なかなか侮れないよね)
(デュークもそう思う。あれ、地球にこんな職業の人たちがいたような気がする)
(政治家さんかな)
(そうそう、あっちのお父さんが嫌いな人たち)
(うん、おじさんいつもテレビのニュースを見て怒っていたね『こいつらはけしからん。本当に国のことを思っている奴は誰もいやしない』ってね)
(そうだった、懐かしいね。でも、お父さんもコンラートさんなら好きになるんじゃないかな)
(そうだね、コンラートのおじさんはいい政治家さんだね。あっちでは見たことないけどね)
「ん、ティナ。どうかしたのかい。急に笑ったりして」
「あ、ごめんなさい。昨日フリーデたちと話したことを思い出していたんです」
「そうかい、もうすぐ着くからね」
もしかしたらデュークは昔隣に住んでいたお兄ちゃんなのかもしれない。お父さんがテレビのニュースを見るのは仕事から帰ってきた後だったし、その時によくいたのはよくうちで預かっていたお兄ちゃんだ。お隣のおじさんとおばさんがお仕事で遅くなることが多くて、よくうちに来ていた。カレーもお兄ちゃんが好きだからお母さんが作ってあげていたんだっけ。お兄ちゃんは結局……
「さあ、ティナ着いたよ」
私はコンラートさんに連れられて王宮に入り、戦闘報告を行う会場まで向かった。
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