第40話 香辛料ですか……
「ティナ様、遅くなりました。申し訳ございません」
「そんなに早く帰って来なくても、明日の朝、船に来てくれたらよかったのに」
カチヤで久しぶりの一夜を明かした翌日、エリスは朝から男爵家に戻って来たのだ。
「いえ、私はティナ様にお仕えするのが楽しくて仕方がありません。
そう言われると嬉しいよね。
「それで、おじさんたちはどうだった。ケガとかしてなかった?」
「はい、家族みんな元気にしていました」
よかった。お父さんから亡くなった人はほとんどいなかったけど、ゼロではないしケガした人はいたと聞いていたから心配していたんだ。
「それで、クルの話をしたら、是非とも作り方を調べてくれないかって言われたんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
ハンス船長に尋ねたら教えてくれるかな。
あれ? クルってカレーと同じ味だったよね。となると材料にあれが必要だけど……
「エリス、たぶんクルっていろんな香辛料が必要だと思うんだけど、カチヤで手に入るの?」
「香辛料ですか……カチヤは港町ですから多少は入りますが、そんなに多くの種類はなかったと思います。……そういえば、南部の方にはたくさんの種類があると聞いたことがありますよ」
「南部って王国の?」
「はい、南部は最近……といっても20年くらい前になるのですけど、王国に帰属したばかりなんです。元々開拓されてない上に、有力な貴族もいないのであまり交易も盛んではありません」
そうなんだ。そういえば御前会議のときにも南部の担当の人はあまり発言してなかったかも。
「道の整備はこれからで、港も小さなものしかないようなので船で運ぶのも大変みたいです」
もしクルの材料の中に南部で採れるものがあるのなら、たくさん作るってことは難しいかもしれないな。
「王都までの間に、海軍ではどうしているのかハンス船長に聞いてみようか」
「はい、お願いします。それでティナ様、今日はどうなさいますか?」
エリスが尋ねているのは毎日の歩行訓練のことだ。この数日は訓練しなくても十分に歩いたからよかったけど、今日は出かける予定はない。それに、もしここで休んでしまったら、また足が弱くなるかもしれないんだよね。
「今日はお屋敷の階段で訓練をやるよ」
「わかりました。すぐにご用意しますね」
やっと、杖が無くても歩けるようになったんだから。頑張ろう!
「私も手伝わせてもらおうかしら」
「あ、お母さん」
エリスと二人で階段を上り下りしていると、アメリー母さんがやって来た。
「はい、お願いします」
三人で話をしながら階段を上る。急ぎはしない、じっくりと足に負荷をかけるように、一歩ずつ確実に歩を進める。そして、三階まである階段を何往復も繰り返す。
「ねえ、ティナ、少し休まない」
あれ、今日はお母さんの方が先に疲れたみたいだ。あ、そうだった、お母さんも教皇国の人に見張られていたって言っていたから、まだ疲れが残っているのかもしれない。
「はい、エリス休もうか」
三人で食堂まで向かい、エリスはお茶の準備を行う。
「どうしてうちには執事さんがいないのかな」
「ああ、カミラ姉さまのところにはセバスチャンがいるものね。ここは西の果てだからほとんどお客様もお見えにならないし、カチヤの町には代官を置いているでしょう。屋敷のことはあの人だけで十分なのよ」
そうか、コンラートさんは国の大臣さんだった。領地は無くても王都ではよくお客さんが来るようだし、執事さんがいないと仕事が回らないのかもしれない。
「ただ、カチヤは攻められてしまったから、これからどうなるのかしら……」
確かに、今回の件でカチヤの町が、教皇国との争いの前線になってしまったかもしれない。ほんとどうなるんだろう。
(このままではダメだろうね。少なくとも港は整備して、大きな船が付けられるようにしないといけないし、すぐ近くに軍艦の基地も必要になると思う)
(基地までいるの?)
(うん、いつ教皇国の人たちが来るかわからないから、定期的に見張りを出す必要があると思うんだ。毎回王都からだと効率が悪いよ)
そういうものなんだ。でも、これってうちの家でやれることなんだろうか……
「ティナ、そんな顔をしないで。王都にはお姉さまもいるし、何とかしてくれると思うわ」
そうだ、国王陛下のお嫁さんはお母さんのお姉さんだった。軍務大臣のコンラートさんもいるし、何とかしてくれるかもしれない。
「奥様、ティナ様。お茶をお持ちしました」
「ありがとう、エリス。あなたも一緒に座って頂きましょう」
「よろしいのですか?」
「あなたはティナの大事なお友達ですからね。これからもティナをよろしくね」
お父さん、お母さんとたくさん話をした私は、翌朝早くにエリスと一緒にカチヤの町の港まで向かった。
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