第35話 ううーん、むにゃむにゃ
ギッギギギギー、グググググー
ギッギッギギギギーー、グッグッググググー
しばらくして目が覚めた。まだ、船の揺れは収まっていないようだ。
体を乗り出し下のベッドを覗き込んでみると、うっすらと見えるエリスの体は規則正しく上下している。まだ、眠っているのかな。
あいつの気配は? っと……当然いるな。
(デューク、おはよう!)
(おはようユキちゃん。今日もいい寝顔だったよ)
(ばか。それよりも外がどうなっているか気にならない?)
ギッギギギギー、グググググー
ギッギッギギギギーー、グッグッググググー
船が
(えー、ユキちゃんの顔を見ていた方が楽しいよー)
(いいから早く行ってこい!)
(はーい)
デュークが外までいけるように、ベッドの一番奥まで行って壁を背にして座る。
しばらくするとデュークがすごい勢いで戻って来た。
(すごかった! ほんとすごかった!)
(ちょっと、落ち着いてよ。どうすごかったの?)
(あのね、雨がこっちにビュンと真っすぐ飛んできてね! 波も目の高さまであったの! ほら見て! ボクもビショビショだよ!)
一生懸命に身振り手振りで教えてくれているようだけど、ぼやっとしかわからない。それに、ビショビショといっても雨も風も通り抜けるから濡れないだろうに……。
どどのつまりは、雨も激しく降っていて、風がものすごく強いってことか、結構大きな嵐なのかも。
(船は大丈夫そうだったの?)
(うーん、帆をたたんでみんなバラバラに泊まっていたよ)
流されてぶつからないようにしているのかな。ということは、ここで嵐が過ぎるのを待つつもりなんだろう。
「ふあぁ、おはようございます、ティナ様、デューク様。すぐにランプをつけますね」
デュークの気配にエリスも起きてしまった。
窓がないこの部屋はランプを消していたらかなり暗い。廊下のランプがついていたら漏れてきた明かりで少しは明るいんだけど、嵐で倒れたらいけないので全部消しているようだ。
エリスは、慣れた手つきで暗闇の中でもランプに火を灯していく。エリスは夜目が効くみたいで、こういう場所でも苦にしないんだよね。
部屋の中のランプは傾いて倒れないように、壁から突き出ていている棒に吊り下げるタイプだ。
「ねえ、エリス。船長室に行ってみない?」
デュークに外の様子は見てもらったけど、実際にこの船が大丈夫なのかを聞いておきたいよね。船長室までは甲板の近くを通らなくていいから、いけるんじゃないかって思っている。
「そうですね。何も知らないうちに沈んでいたというのは困ります」
まあ、知っていても何もできないかもしれないけど、何かに祈ることくらいはできるだろう。
エリスと一緒に部屋のランプを持って廊下へと出る。
床の所々には水に濡れたような場所があった。天井をランプで照らしても雨漏りしている様子はないから、嵐の中でも甲板と行き来している船員がいるのかもしれない。
階段を登り一階層上へと向かう。
ギッギギギギー、グググググー
ギッギッギギギギーー、グッグッググググー
船の軋む音は絶え間なく聞こえ、床自体も右に左に前に後ろにと常に動いているかのように揺れているから、真っすぐ歩くことさえ難しい。
「ティナ様、私にしっかりとおつかまりください」
うんと頷き、エリスの右腕にしっかりと腕を絡める。一歩一歩ゆっくりと歩を進め、ようやく船長室の前まで到着した。
コンコン!
「どうぞ」
あれ? キースさんの声だ。
「失礼します」
「おや、ティナ様にエリス君じゃないですか。どうかしましたか?」
キースさんは机の地図の上に薄い紙を敷いて、そこに何かを書き込んでいた。
「いえ、外の状況がわからないので、教えてもらえないかと思ってきました」
「そうか、それは心配をかけたね。嵐の方は何とかなりそうだよ。本来ならお世話係の彼が報告に行くべきなんだけど、あの有様だからね」
キースさんが視線を向けた先には何かが転がっていた。
「クライブ!」
「ううーん、むにゃむにゃ」
何だ、寝ているのか。
「って、床に直!」
皇太孫殿下であるはずのクライブは、船長室の床で直に寝ていたのだ。
「戦闘が終わって、緊張が切れたんだろうね。船長と君たちの部屋に行って帰って来てからずっとだよ」
あれからずっと寝ていたのか、私たちとほぼ一緒じゃん。
「それで船長さんはどちらに?」
「船長は操舵室にいっているよ。船が流されないように指示を出しているんだ」
そうか、帆を下げて錨を降ろしていても、風と波で船が流されるんだ。
「それって、見ることは出来ますか?」
「ダメダメ、あそこはいつ窓が吹っ飛ぶかわからないからね。みんな体をロープで縛って作業しているんだよ。そんな所に軍師殿はやれないよ」
もう、軍師は止めて欲しいけど、そんなに危ないのなら仕方がないか。
「風の動きを見ているんだけど、嵐が収まるまでもうちょっとかかりそうなんだ。怖いだろうけど部屋で待っていてくれないか。そして、よかったら彼も連れて行って欲しいんだ。さすがに殿下をこのままというわけにはいかなくてね。かと言って僕も他の船員も手が離せないんだよ」
そう言ってキースさんは、持っていたペンを使って床で幸せそうに寝ているクライブを
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