第28話 カレーだ! いや、やっぱりクルだ!
私はエリスに支えてもらって、船倉の狭い階段をクライブの後ろをついて降りていく。
「すごいね、ティナはどこであんなことを勉強したの?」
「どこでって……夢?」
「ふーん、教えてくれないつもりなんだ。別にいいけどさー」
クライブは皇太孫殿下だけど、話してみるとクラスの仲がいい男の子って感じだな。
「クライブは王宮でもこんな感じなの?」
「王宮には爺やがいるから……」
うわ、調子にのって怒られている光景が目に浮かぶようだ。
「ま、まあ高貴なる義務ってやつだから頑張りなよ」
「あーあ、兄上が元気ならこんな苦労しなくてよかったんだけどな」
「お兄さんどうしたの?」
「うん、病気で……」
そうか、お兄さん亡くなっちゃったんだ。
「それは大変だったね」
「だからさ、この作戦が終わっても僕たちだけの時はこういう感じでいてくれると嬉しいんだけど」
王族なりの苦労があるんだろうな。私たちだけでも気が抜ける場所になってあげようかな。
「わかった、エリスもいいよね」
「ティナ様がそう言われるのであれば、私は構いません」
「ありがとう二人とも、それじゃ、食事の時間になったら呼びに来るよ」
ちょうど部屋の前だったので、クライブと別れ部屋に入る。
「ティナ様、お疲れ様でした」
「うー、疲れたよ。エリスもご苦労様でした」
エリスはさっき少し寝たので元気になりましたと言いながら、私をベッドで寝かせて足をマッサージしてくれている。
今日はほんとに大変だった。朝から王宮での御前会議に出て、その後すぐに軍務省で作戦会議をやって、ウェリス家に戻ったと思ったら王様からの手紙が来て、お昼を食べたか食べないかで港に連れてこられた。そして、なんの説明もないうちにこの船に乗せられて、今は軍師として仕事をしている。まあ、カチヤを取り戻してお父さんとお母さんを助けるんだから、少しくらいは我慢しないといけないはわかるけど……いきなりハードすぎるよ。
「お腹すいた。エリスはどう」
気が抜けたからだろうか、急にお腹が減ってきた気がする。
「私もペコペコです」
「船の食事ってどんなのだろう。知っている?」
「わかりません。お魚でしょうか?」
情報屋のエリスでも知らないんだね。
お魚なら新鮮なものが食べられるだろうけど、釣る暇とかあるのかな…………
コンコン!
「ティナ、エリス、食事だよ」
うっ、ちょっと寝てたかも。エリスのマッサージが気持ちよくて、うつらうつらしてた。
エリスと二人で互いに見た目を整えて表にでる。
「ゆっくりできたみたいだね。それじゃ、行こうか」
食堂が上の階層ということなので、先ほど下りてきた狭い階段を再び上らないといけないみたい。エリスに掴まりながらなのは変わらないけど、マッサージしてもらったからだいぶん足の調子もいい。
「クライブ、今日の夕食は何か知っているの?」
「きっと開戦前に食べる特別料理だよ。僕は久しぶりだから楽しみしているんだ」
へぇー、特別料理っていうのがあるんだ。どんなのだろう。
上の階層に上がり船長室と逆の方向へと向かう。……食堂に近づくにつれなんだか懐かしいような匂いがしてきた。これって、まさか……
クライブの後を意味もなく慎重に進んで行く。クライブが立ち止まり、ドアノブに手をかけたところで『待って』と声をかける。
「ティナ、どうしたの?」
「ごめん、ちょっと心を落ち着けたいの」
二人とも私の事を変な奴だと思っているかもしれないけど、ここは深呼吸が必要だ。
スーー、ハーーー。よし!
「クライブ、ドアを開けてくれる」
「もういいの? わかった」
クライブに開けてもらったドアからはやはりあの匂いがしてきた。思わず中を覗き込む……あった! あの色は間違いない!
「カレーだ!」「やっぱりクルだ!」
「え、ティナ、今なんて言ったの? クルだよ。特別料理のクル。あそこに書いているよ」
前方のカウンターの脇にはクル、お代わりは一人一杯までとの張り紙が貼ってあった。
名前はカレーでもクルでも何でもいい、あのフォルム、そしてあの色、食べている人たちから流れ出る汗。間違いない、香辛料がたっぷり効いたカレー、もといクルに間違いない!
「ねえ、早く食べよう!」
「うん、そうだね。僕もお腹ペコペコなんだ。場所は……お、あそこが空きそう」
クライブが指さす先には、四人が手に持った皿を持って立ち上がるのが見えた。
「こちらいいですが?」
「お、これは軍師殿。私たちは終わりましたから、ごゆっくりとどうぞ」
私はその船員さんにお礼を言って、二人を手招きする。
「驚いた、あっという間に行くんだもん。何事かと思ったよ」
「そういうことは、私にお申し付けください」
「ごめんね、居てもたってもいられなくなって、それでここはどうやって食べるの?」
「えっとー、あそこから貰ってくるみたいだね」
クライブが指さした先には綺麗なお皿が並んでいて、それを持ってカウンターに向かっている人たちがいた。そこで注いでもらうのだろう。
「お嬢様、危のうございますのでここは私にお任せください」
行こうとするのを止められてしまった。そうだった、まだ足がもつれることがあるから両手が塞がるのは危険だ。
「量はどれくらいなさいますか?」
「たくさん!」
「畏まりました」
エリスとクライブは、何か話しながらカウンターまで向かって行った。
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