第18話 やばい、頭がパンパンだ

「初めましてティナお嬢様。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私はこの家の執事長をしておりますセバスチャン・グートマンと申します。これから王宮での振る舞いについてお教えさせていただきます」


 食事が済んだ後、後片付けが続いている食堂に残って、明日王宮で恥をかかないための勉強会を始めることになった。


「セバス、ティナはまだ足がうまく動かせないようなのだ。あまり無理はさせないようにしてくれるか」


「はい、そういう場合の振舞い方もございます。ご安心ください」


 食堂には私だけじゃなくて、みんなが残って見守ってくれている。


(うう、なんだか恥ずかしいよ)


(ほら、セバスさんが向こうに行くよ。ついて行かなくていいの?)


 おっと、いけない。歩き方を教えてもらわないといけないのだ。

 普通なら王様はみんなが揃った後で入って来るから歩き方とか気にしなくていいんだけど、私は会議が始まってから入る手順になるらしく、王様に見られながら席に着くことになる。失礼があっては大変だ。


「ティナお嬢様。杖は突かれても構いませんので、お一人で歩けるようなら歩いてみてください」


 私は杖を片手に持ち、できるだけ遠くを見るように心がけながら歩いた。その方が姿勢がよく見えると聞いたような気がする。


「ティナお嬢様。そんなに無理されなくてもいいですよ。国王陛下の前で失礼が無ければいいのですからね」


 セバスチャンさんによるとふんぞり返って歩くとか、他の人を威嚇するとかそういうことが無かったら問題ないみたい。


 その後も会議での話し方や答えるタイミングなどを事細やかに聞いて、勉強会は終了した。


(やばい、頭がパンパンだ。デューク覚えてくれた?)


(任せて! ボクがみんなの度肝を抜いてあげるよ)


 なんだか心配になって来たぞ。私がオブラートに包んで話さないと大変なことになるかもしれないな。


「お疲れさまでした。ティナお嬢様。お風呂の用意ができておりますので、ご準備ができましたらお入りください」


 椅子に座って今聞いたことを思い起こしていると、レオンさんに声をかけられた。


「ねえ、レオン。私もティナお姉さまと一緒に入ったらダメかな?」


 フリーデもレオンさんも最後まで付き合ってくれていたのだ。


「それはティナお嬢様次第ですが……」


「私は一人で入るのが危ないからエリスと一緒に入っているんだけど、それでもよかったらいいよ」


「やった! すぐ準備してくるからティナお姉さまは部屋で待っていて」


 そういうとフリーデは、食堂を飛び出して行ってしまった。


「ティナすまんね。フリーデには姉妹がいないので、はしゃいでおるのだ。大変な時期なのに申し訳ないがよろしく頼むよ」


「いえ、私も可愛らしい妹ができたようで楽しいですよ」


 実際に可愛いし、一緒にいたら余計なことを考え込まなくてすむから助かっているんだよね。





 エリスと一緒にお風呂の用意をすませ、部屋で待っているとフリーデがやって来た。


「お姉さま。それでは参りましょう!」


 お風呂はやはり一階にあるというので、先ほどと同じようにフリーデに手を引かれて階段を降りていく。


「ふん、ふ、ふーん♪ ふん、ふ、ふーん♪」


「フリーデ、ご機嫌だね」


 まるで着替えが入った袋を振り回しそうな勢いだよ。


「だって、初めてなんですよ。使用人やお母さま以外とお風呂に入るの」


 そうか、フリーデは九の月から私と一緒に学校に通う予定だったから、修学旅行のようなイベントはこれまでなかったんだ。というか、そういう旅行自体がこちらにはないのかもしれない。


 私だってエリス以外とはいつ以来だろう。うーん……中学の修学旅行の時以来かも。あの時はクラスの女の子たちが騒いじゃって大変だった。そういえばあの後、浴場の外で会った男子がみんな赤い顔して着替えを体の前で大事そうに抱えていたんだよね。あれって、なんでだったのかな?


 それよりも、今日は女の子三人での入浴だ。私にはあいつがついているわけで……


(デューク! わかっているでしょうね)


(もちろん! いつものようにユキちゃん以外は見ない!)


(私もダメ!)


 ここのお風呂が5メートルより小さかったらいいんだけど、カチヤの家でも5メートル以上あったから難しいだろうな。デュークの事を知って初めてお風呂に入ることになるから、改めてエリスに話したんだけど、守り神様に見られるくらい平気ですよって……でもそれだと、私がなんだかモヤモヤするんだよね。

 それに今日はこんなに可愛いフリーデちゃんが一緒なんだから、私がこいつの魔の手から守ってあげなければいけない。


(ねえ、ユキちゃん。ボクの事、悪く考えているでしょう)


(さあ、きっと気のせいだと思うよ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る