第17話 ユキちゃんがアーンしてくれたら大丈夫かも
コン、コン!
「ティナお嬢様、お食事の準備ができました」
ノックの後、部屋の外からレオンさんの声がかかる。
「わかりました。すぐに参ります。ティナ様よろしいですか」
「うん、すぐにいこう」
あのあとすぐにエリスが戻ってきて、二人……いや三人でのんびりしていたんだよね。
部屋を出るとレオンさんだけでなく、フリーデも待っていてくれた。
「ティナお姉さま、疲れはとれましたか?」
「うん、ゆっくりできたよ。ありがとうフリーデ」
フリーデはニコニコしながら手を繋いでくる。ほんとに可愛い。
「レオン様、一つお尋ねしてもいいでしょうか? 明日のティナ様のお召し物なのですが……」
「エリス様、ご安心ください。只今奥様の服を仕立て直しております。明日はそちらを召されてください」
さすが執事さんだ、抜かりがない。
「あのー、レオンさん。王様の前でどう振舞えばわからないのですが、教えていただくことはできますか?」
この機会に尋ねておこう。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だからね。
「はい、ティナお嬢様。それにつきましてはお食事の後、父のセバスチャンが時間を取っているようです」
おお、執事長さん直々のご指導をいただけるようだ。失敗するわけにはいかないからしっかりと教えてもらおう。
食事は一階の食堂で行うということで、フリーデに体を支えてもらいながらゆっくりと階段を降りる。
だいぶん歩けるようになっているんだけど、いまいち踏ん張りがきかない。だから一人で歩くときには杖が必要なんだ。
今は杖をエリスに預けて、左手で手すりを持って右手はフリーデに支えてもらっている。
「お姉さまの足はよくなるのですか?」
「うん、ずっと寝ていて筋肉が弱っているだけみたいだから、練習したら普通に歩けるようになるんだって」
カチヤのお医者さんからは、骨に異常がなかったから筋肉さえ付いたら大丈夫だけど、無理して付けちゃうと、骨に負担がかかってしまって将来苦労するよって脅されていた。だから、これまではあまり無理なリハビリはしてこなかったんだけど、先生はカチヤに出かける前の診察で、そろそろいいよって言っていたから、これからはもう少し頑張ろうと思っている。ちなみにこの先生、私がずっと眠っている間も関節が固まらないように、エリスに動かすように指導していたというから、何気に名医なのかもしれない。
「そうなのですね。私もお姉さまの練習のお手伝いをさせてもらってもいいですか?」
「もちろん、こちらからもお願いね」
訓練は同じことを繰りかえすことが多くて、段々と飽きてくる。そこにいつもと違う人がいるだけでも全然違う。だからカチヤではエリス、デュークだけじゃなくて、時折アメリーお母さんにも付き合ってもらっていたんだ。
食堂は階段を降りて一階の左手、玄関のすぐ横にあった。
ここではフリーデの隣の席に案内された。ほんとにこの家の娘のように扱ってくれるみたいだ。
「うちの料理はおいしいんですよ。でも、お姉さまお口に合うか心配です」
「そうなんだ。食べ物は好き嫌いないから楽しみにしているよ」
体重計が無いから今どれくらいの体重なのかわからないけど、背丈が同じくらいのエリスと比べてもまだ少し痩せている気がするから、たぶんもうちょっとでいい感じなんだと思う。ちなみにエリスって、武術みたいなものができるわりに、抱き着いたらふんわりとしているんだよね。ああいうふうになりたいんだけど、どうしたらいいのかな。武術を覚えないといけないとしたらなかなか大変かも。
「待たせたね」
コンラートさんとカミラさん、それに中年のおじさまが一緒に入って来た。
この中年のおじさまもかなりのイケメンさんだぞ、レオンさんに似ているからこの人がセバスチャンさんなのかもしれない。
「食事にしようか。それではセバス頼むよ」
やっぱりそうだ。コンラートさんは椅子を整えてもらいながら、そのおじさまのことをそう呼んでいた。
「畏まりました旦那様」
セバスチャンさんの指示で料理が運ばれてくる。
前菜、スープ、主菜にデザート。料理は食べ終わったら次の料理が運ばれてくるスタイルで、日本の定食屋さんのように一度に運ばれてくるようなことは無い。カチヤの家でもそうだったから、貴族の家はどこもこうなのかもしれない。
「どうですかお姉さま?」
「美味しい! 味付けもしっかりとしてあって、パンともよく合うよ」
カチヤの家は少し薄味だったけど、こちらは濃いめのようだ。お肉を食べた後にパンを一口いただくのがとても美味しかった。こちらのパンは素朴な味だけど、それがまた料理の味に合っていた。
(ユキちゃんばかり美味しい思いしてズルい!)
そうは言われても、デュークにどうやって食べさせたらいいんだろうか。
(食べさせてあげたいけど、方法が無いよ)
(ユキちゃんがアーンしてくれたら大丈夫かも)
それって、あいつがいると思われる場所に料理を運ぶってことだよね。誰も見ることができないあいつのためにそれをやったら、私がおかしな人だと思われちゃうよ。でも、違う方法は思い浮かんじゃった。
(アーンはしてあげられないけど、何かできないか考えてあげるから)
(ほんと!)
でもこれは、できるだけやりたくないな。何か他の方法があればいいんだけどなあ。
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