第12話 暴力衝動
僕は、寒さに負けて再び歩きだした。
少し歩くと、公園の東側のベンチに、昨日の四人組がたむろしているのを見つけた。
僕はここぞとばかりに缶コーヒーを投げつけた。
「おい、なにしてんだお前!」
「ふざけるなよ!」
四人が声を荒げてこちらに向かってくる。
すぐに僕だと気づいたようだ。
「昨日の腰抜けかよ。なんのつもりだ。復讐か?」
ヘアバンドの男が、威勢よく啖呵を切った。
「すみません、わざとじゃないんです……」
僕の誠意を込めた謝罪も聞かないで、ジャージを着た男が殴りかかってきた。
こちらが謝っているのに、聞く耳すら持たない。
間合いに入られる前に、ローキックを飛ばす。
ジャージの男は、膝を折ってうずくまった。
無防備に受けたのだから当然だ。ローキックは動きを止めるのに効果的で、怪我をさせることも少ない安全な技だ。
安全だということは使い易いということで躊躇なくうてる。
残りの三人が身構えて取り囲んできた。一応喧嘩の仕方は知っているらしい。
こうなるともう大技は繰り出せない。一番弱そうな奴を狙って前蹴りを放つ。
つま先が鳩尾にめりこんだ。
左から飛んできた拳をさばいて、懐に飛び込みアゴに軽く肘を打ちこむ。
一人が、顔から地面に落ちた。
立っているのはヘアバンドの男だけだ。
逃げ出すと思ったが構えたままでいる。
動いた。
そう思ったとき、足を掴まれた。
放たれたヘアバンドの拳が、ガードをそれて頬に当たった。
一瞬気が遠くなる。
なんとか持ち直して、足にまとわりつくジャージ男のアゴを蹴りあげた。
次の打撃を仕掛けてきたヘアバンドに向かってジャブを放つ。
浅い。
顔を抑えてかがみ込んだところへ続けざまにストレートと右ハイを打ち込む。
見事に側頭部に決まった。
しゃくに障るヘアバンドが吹っ飛んでいった。
うずくまった四人を見て、僕は急いでその場を立ち去った。
少しやりすぎたかもしれない。
酷いケガをしていやしないかと不安になった。
時間が経つにつれて不安は徐々に大きくなっていった。
公園を出て、暗い歩道を急いで歩いていると、道端にしゃがみこんでいるパーカー姿の女性がいた。
「……千里」
思わず名前を呼んだ。
近づくと、全く知らない女が携帯で話しているだけだった。
女は電話の相手に「変な人に話しかけられた」と言って笑いながら立ち去っていった。
あの子はちゃんと家に帰ったのだろうか。
ふいに悲しいとも懐かしいとも言えないような感情が込み上げてきた。
早く家に帰らないとダメになってしまいそうだった。
ほとんど走るような勢いで、家へ向かった。
エレベーターですれ違った住人が顔をひきつらせた。
ガラスにうつった僕の顔は、赤く腫れ上がっていた。
明日になれば、青黒く変色してもっと目立つだろう。
エレベーターから降りて廊下を進んだ。
部屋の前に誰かが立っていた。
透き通った白い髪。
千里だ。
彼女は僕に気づくと、開口一番にこう言った。
「嘘つき」
言葉に迷いながら歩み寄った。
「……ごめん」
「あなた川俣敏ですよね?」
「え?」
こうして、彼女の訪ね人は見つかった。
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