第3話 スタンドプレイ
グラウンドへ行くと生徒は皆一カ所に集められ、体育教師浜中の犬となっていた。
生徒達は、指示がでるまで行儀良くお座りさせられている。
ホイッスルを合図に一斉に立ち上がり、浜中のかけ声が響いた。
「体操はじめ!ほれ、いっちにっ!おいっちに!」
かけ声にわせて手を右へ左へ振りまわす。
浜中は、意のままに動く生徒を見て、己の権威を再確認するかのように光悦としていた。
僕は、浜中のその嫌らしい表情を見るたびに、クソを投げつけてやりたいという衝動に駆られた。
彼は純情な生徒に反社会的な感情を抱かせる罪な存在だ。
魔の時間はまだまだ続く。
「よしっ、二人一組になれ!」
これは人に残酷さを植えつける呪いの言葉だ。
命令とともにクラスメイト達は、我先にと片割れを探しだした。
一組、二組と出来あがる頃、もちろん僕は余っていた。
すると近くで争いが始まる。
増田率いる仲良し三人組が、仲間外れを回避するために、内ゲバを始めるのだ。
そして負けた方が憎まれ口を叩きながら僕と組むことになる。
いつものことだった。
しかし、今日は少し様子が違った。
三人でやりたいと浜中に直訴しだしたのだ。
さらにあろうことか、浜中はそれを認めてしまった。
これが社会の理不尽さであろうか。
この三人組のチンケな友情を守る為に、僕を苦しめ続けた二人一組というルールは曲げられてしまったのだ。
僕はルール変更の犠牲者になった。大いに犠牲になった。
しかし、この男は微塵も罪の意識を感じていない。
そればかりか、手を挙げて喜んでいる。
それが許されるなら僕だって、是非とも一人で体育をしたいと訴えても良かろうものだが、僕が一人だというだけで、その正当な訴えは不当な訴えとして却下されるだろう。
「なんだ、川俣一人か。それじゃあ俺と組め」
これだ。
浜中の無神経さには本当にうんざりする。
こいつは僕が余ることをわかっていて三人組を許可したのだ。
「なんだ」では無く当然の結果だとわかっているはずだ。
こうした理不尽さの数々が、日々着々と積み重なり、僕の中におぞましいモノを作り上げていく。
それは点画のようなもので、僕には何が描かれているのかまるで分かりやしないが、他人からは、そのドットの集合体が何を形成しているのか良く見えているのだろう。
そいつが反映されたものこそが、千代から見た僕の姿って訳だ。
最近切実に考えるようになっていた。
社会との縁を切らなければ、僕はとんでもない存在を心の内に抱え込むことになるのじゃないかと。
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