第1話 2人の友人:ツン

 僕は今、パンをかじりながらヴァイヤ大学行きの馬車に揺られている。初めて乗った馬車に気分が高揚しているのはもちろんのこととして、成人したという事実も嬉しかった。もっと小さい時に、都での成人の儀に参列したことがある。儀式の間の神聖な雰囲気、おごそかに行われる父から子への杯の授受、成人した証として与えられる真名。物心がやっとつきはじめた頃だったけど、密かに憧れていた。

 けれどもやっぱり、一番嬉しいのは大学で学べることだ。父さんの本を読み漁って、ワリトナクラズに魔術の話を聞いていた頃からずっと夢見ていた大学への入学。今まで生きてきたなかで一番大きな夢がこれから叶うのだから、嬉しくないはずがなかった。大学ってどんなところだろう、どんなことが学べるのだろう、どんな先生がいるんだろう、一緒に学ぶ友達もできるだろうか。そんな期待に胸を膨らませながらパンの最後の一口を食べ終えた時だった。


「やあ、君も入学許可証をもらって大学へ行くのかい」


 そう話しかけてきたのは隣に座っていた蛇人の子だった。と言っても蛇人はぱっと見て年齢を判断できる要素が身体の大きさくらいしかないので、子供かどうかはその時点ではわからなかったけど。ともかくその子は、まぶかにかぶったローブのフードの下からそう話しかけてきた。


「うん、そうだよ。荒地の都から来たんだ。君は?」


「僕も同じくさ。沼の王都出身だ。人間なのに荒地の都出身とは珍しいね、名前はなんて言うんだい」


「ダ=ルーカンって言うんだ。君はなんて言うの」


「ツンって呼んでくれればいいよ。ところで、名前も鳥人族の名前なんだね。本当に珍しいこともあるもんだ。」


「ああ、僕は元々孤児でさ。荒地の都の首長の父さんが名前をつけて、育ててくれたんだ」


「ははあ、ヘブの族長の子は養子だとまでは聞いてたんだけどまさか人間だったとはね。知らなかったよ」


 こんな調子で、ツンというその蛇人族の子はよく喋る子だった。都でいろんな人からは蛇人はみんな無口だと聞いていたから、この時僕はちょっと面食らった。とにかく、よくよく聞く話から描いていた蛇人像とはかなり違う子だったから僕の方も彼に興味がわいて、いろいろと聞いてみた。


「ツン、君はどうして大学に?」


「ああ、僕は父さんが沼の王都の大臣をやっててさ。父さんの蔵書を読んだり王宮付の魔術師に魔術を教えてもらったりしてたら、ある日突然大学から入学許可証が届いたんだよ。君も、見たところその年齢で入学ってことは、同じようなもんなんじゃないかな」


「驚いた。僕もまさにそんな感じで、父さんの本と都の術師から魔術を学んでたんだ」


「ははは、やっぱり。君とはいい学友になれそうな気がするよ」


 そんな奇妙な偶然に驚いていると、前の席から身を乗り出して話しかけてくる子がいた。


「君たち、その話本当なの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る