第18話 ラット
ガッ!ゴンッ!
ロックゴーレムとの打ち合いが続く。
コイツ動きはネズミと同程度だが耐久力がとにかく高い。どれだけ殴っても全く倒れる気配がない。
1時間程掛けてやっと亀裂が入る。
「シューティングスター!」
ドゴォォン!
ふぅ。
それに、この洞窟の馬鹿げた長さだ。
癒しの湯を出てから1年経った。
俺はまだ洞窟の中だ。幸か不幸か一度も死なずにここまで来れたわけだが。
ここ半年程ゴーレムしか見ていない。
くそう。肉が食いたい。
剣戟の音を聞いて仲間がやってきたようだ。
2体か。厄介だな。
もう面倒だ。リスクはあるがあれを試してみるか。
ひのきの棒に魔力を流す。
ロックゴーレムの重量の乗った突きを避け脇腹に棒をぶち当てる。ドゴォン!!
ゴーレムが爆散する。
おおっ!一発で消し飛んだ!想像異常に凄い威力だ。
俺には魔法を使う才能がない。MPが無いからな。でも鑑定のスキルで魔力がある事を知った俺はそれを剣術に生かせないか模索し始めた。そして編み出したのがこの魔装と言うスキルだ。自身の魔力を武器や防具に纏わせる事が出来る。これにより武器の威力を数倍まで引き上げることが可能となった。
だがその代償は。
ぐあっ!
ロックゴーレムの攻撃を正面から受けてしまった。久しぶりだな攻撃を受けるのは。
これが代償だ。
魔力操作には凄まじい集中力が必要なのだ。
1体相手にするのが限界だな。コイツの気配や動きをまるで把握出来ていなかった。
ブォン!
屈んでゴーレムのフックを避ける。
クソッ!動きにキレが無くなってるな。
魔力を使うと体にも負担が掛かる。
どうする?回復するまで避けに徹するか?
いやここは!
「魔装!シューティングスター!」
スパアアアアアン!
細切れになり消滅するゴーレム。
どうだ。強引に決めてやったぞ。
ドッ。足から力が無くなり倒れ込む。
ズゥゥン、ズゥゥン、と地響きが体を揺らす。
運が悪かったねこりゃ。
ガバッ!
おおおお!久しぶりの風呂だ!秒で裸になり湯船にダイブする。
「かああああああ!これよこれ!格別だねオイ!」
テンションが上がってしまう。
「おい小娘!どこまで行けば草原にたどり着くんだ?洞窟が終わらなくてイライラするんだが?石に勝っても肉にはならんからな!」
文句を言ってみる。
返事はない。
さて風呂に浸かっていたらすぐに落ち着いてきた。洞窟など些事に過ぎぬ。それより試してみたい事が山程ある。
娘には悪いがまた暫くここに引きこもらせてもらうとしよう。
『ログイン683年48日目。』
ゴーレムに敗北してから俺は魔装にのめり込んだ。このスキルの汎用性は素晴らしい。
まず武器、防具に纏わせると攻撃力や防御力が上がる。ならば体に纏わせたら?
最初の頃は歩く事すらままならなかった。体の動きと連動させるのがとにかく難しい。
一年程経って宝箱から出た魔導書を溜め込んでいた事を思い出し、何かヒントは無いかと読み漁る。
魔導書にアタリはなかったが、異世界の書物に答えはあった。何でも人体は60兆と言う膨大な数の細胞で出来て居るらしい。
この細胞を魔力で包むイメージを思い浮かべる。
防具でカバーするのではなく体を鍛えあげる。包むと言うより満たす感じか?
この辺は実際やってみた奴しか分からない感覚だな。とにかく細胞を包んだわけだ。
効果は絶大だった。
主にネズミを相手に実験をしていたんだが、ネズミを捕捉すると眼球、脳の魔力が活性化。するとネズミの動きがゆっくり、まさに止まっているかのように見えたのだ。かと言って目が良くなっただけではない。何と回り込んで尻尾を掴む事に成功する。
さぞあのネズミも驚いた事だろう。
そうなのだ。体の動きに合わせて魔力が淀みなく流れているのだ。
ステータスで確認するとレベルは上がっていないのに攻撃力などの身体能力は10倍以上という奇妙な事になっていた。
また魔装を遠隔操作する事にも挑戦している。きっかけは些細な事だ。風呂に浸かっている際、布を取るのに手を伸ばしたのだが微妙に届かない。あと少し、あと少しと指を伸ばした時、指の先端から出たのだ。魔力の糸が。驚愕しつつも糸を操り布を引き寄せる事に成功したのである。
それからは魔力の遠隔操作にハマってしまい、日々色々な実験を行っている。
ラット(ネズミに愛着がわき名前を付けた)の胴体に魔力の糸を巻き散歩したり、ラットの目に魔力を通し視界を奪ったりとか。
最近の遊びはラットに魔力を注ぎ人形のように操る事だ。
俺の魔力を纏ったラットは想像を絶する強さを誇る。俯瞰で操るのも面白いがやはりラット視点だな。まるで自分がそこにいるかのような臨場感を得る事が出来る。
実は既に遠隔ラットを使い洞窟の探索は終え草原エリアにいる。ロックゴーレムを一撃で屠るぶっ壊れ性能を持ったこのラットなら草原エリアもすぐに攻略出来るだろう。
俺は今日も湯船に浸かり笑うのだった。
『・・・・・・。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます