第61話 背後
昨今オンラインでの打ち合わせが増えてきた。
これはそんな打ち合わせの時に体験した話だ。
打ち合わせ相手の大森氏、彼はクリエイターで、色々やってもらっている。
こちらの原作を理解し、曖昧な表現や微妙なラインを形にしてくれる腕の良い職人だ。
打ち合わせに際して、我が家のカメラは相性が悪く、いつも使えない。
なのでこちらはノーカメラ
大森氏は、背後にクロマキーを使うこと無く、そのまま部屋を見せている。
背後は四枚の襖戸で、引手のある中央部に、紺色の太めの横ボーダー、下半分は水墨画風の岩山と水場に船が浮いている昭和な襖絵だった。
初回に気付いた、自分の画面の右手から、何かが移動している。
襖の中央ボーダーより上で、襖天辺よりは下あたりをふわふわ動いていた。
どんなと表現は難しいが、ラップをぐしゃぐしゃに丸めて、しわしわにして広げた感じ?
それが人っぽい形だった。
そいつがふわふわしながら、画面の右から左へ、襖と大森氏の背後を抜けていった。
つい、目線が行ってしまい、ぽかんとしてしまった。
反応が鈍くなったのが解った大森氏「何かありましたか?」と聞いたが、
これは言ったら拙いと思い曖昧に答えておいた。
それから、5日に一回のペースで打ち合わせを続けているが、回を重ねる度に、ソイツは明確にはっきりと見えて来ている。
先日、六回目の打ち合わせの時は、ある程度はっきりとしていた。
歳の頃60代、白っぽいTシャツ、アイボリーカラーのスカート、髪は肩までの白髪交じりの黒髪。
そこまで見えてきたが、六回目の時、右手から移動してきて、大森氏に被った辺りで歩みを止め、再度動き出し氏の影から出る前に再度停まる。
それが何を意味するかは知らないが、そのタイミングでこちら、つまり氏のカメラへ振り向き視線を向けたらとても怖い。
そして、初回から総じて横向きなのだ、画面右手から現れ左手へ消えていく。
その日は、つい聞いてしまった。
「私の画面右手、大森氏の左側って窓ですか?」と
「こっちはベランダですよ、アパートの2階ですから」
「では逆側はドアですか?」と聞いた
「えぇ、水回りやら玄関へのドアですけど、何かありました?」
と不審がった為、当たり障りない程度に濁しておいた。
ふと思い出した振りをして最後の質問をした。
「そちら、一人住まいでしたよね?」
大森氏は「そうですよ、なんでそう思われました?」
と聞かれたが、曖昧にしておいた。
訝しげな顔だったが、これは言ってはいけないと思ったからだ。
次の打ち合わせで、また変化があったら、書こうと思う。
追記
ここまでなら、私が変なモノを見ただけの話だから、独り善がりで終わると思う。
私達二人の他に、もう一人いる。
総括をしている方、H氏の存在だ。
打ち合わせの記録は、毎回H氏へと共有している。
なので、見えたアレに関しても共有しようと考えた。
報告の際、ふわっと言ってみた。
「大森氏のカメラを通して部屋を見ていると、毎回右手から左手へ歩く何かを見ましてね」と振ってみた。
H氏もドキッとした顔で「ひつじさんも見えたんですか!?」と言う
不思議とH氏の時は、私のカメラも正常で動いている。
なので先に自分が話してしまうと、齟齬が起きてもと思い、H氏に話して貰った。
聞くと概ね私が見たものと同じだったが、何点か違う点を書いておく。
女性の姿はほぼ同じだったが、H氏は足元まで見えたそうで、黒っぽいスリッパを履いていた。
移動する姿を目線で追って、再度右手を見たら2回目が始まった。
ループしているのか、生身なら有り得ない話だ。
他、些細な点だったが、私の見聞を伝えて、結果は大森氏へは漏らさないことにした。
大森氏の住む物件に問題があるのかは不明だが、実際に見てしまうと本人には言えないものだ。
この話の公開にあたっては、大森氏には見せないとして、H氏と決めたので公開とした。
公開したら見られてしまうのでは?と思うだろう、そこも注意を払うので一応大丈夫と言っておく。
以上
「背後」でした
あと数回打ち合わせするので、後日譚は折を見て出す予定は未定。
過去の記録を紐解く 工務店さん @s_meito
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