第53話 ミエタモノ

同業者の話

彼は先月まで、関東から離れた北方面で泊り込みで作業をしていた。

観光ホテルの部分改修工事だった。

泊り込み前提だったので、ホテルの従業員宿舎の1部屋を割り当てられた。

その部屋は少し黴臭かったが、文句を言える訳も無く、工事期間の1ヶ月世話になる事にした。

数日は特に何も起きなかったが、夜中に何か違和感があったが、酒で誤魔化して寝ていた。


その日は休日で、部屋でのんびりしていたが、何か違和感がある。

和室6畳二間の部屋だったが、隣との境の壁は棚がありTVが設置されていたのだが、その壁が透けている?

隣が見えているので驚いた。

その部屋にも、自分と同じくらいの男がいて、座卓をどかし座布団を並べて寝転がってTVを見ていた。

彼も『そうだな、休みだし俺も楽にしよう』と思い、

壁向こうの男に倣って、座卓を動かし積んである座布団を敷き横になる。

その日はそのまま自堕落に過ごしたんだとか。

変だったのは、隣の男は食事も取らず寝て過ごしていた。


翌日の昼休憩の時に、ホテルの従業員にそれとなく聞いてみたが、皆話を逸らす。

何かありそうだが、好意で部屋を貸して貰っているのでそれ以上追求はしなかった。

仕事終わり、部屋の前に馴染みになった男性従業員が居た。

『お疲れさまです、今夜お時間ありますか、私が勤務終わったらですが、お話したい事がありまして、いかがでしょうか』

特に問題は無いし、話し相手も欲しかったので了解した。


夜遅くに従業員はやってきた。

『こんばんは、お酒とツマミの差し入れです』

彼はニコニコになる。

従業員が言う話はこんな感じ。

『隣が見えたんですよね?実はこの部屋に入る従業員は漏れなく見ています』

彼はウンウンと首を縦に振る

『それなんですが、隣見た事ありますか?』

『そういえば確認してないな、朝は早いし、帰りもだな』

『でしょうね、この部屋を出て右手、つまり壁の向こうはそのまま廊下の壁ですよ』

驚いた彼は、急ぎ廊下へ出る、確かにドアの右手には、廊下の壁が10m程続いていて、ドアすら無い。

室内へ戻り従業員のいる座卓へ着く

『お隣無かったでしょ、因みに外から見ても部屋は有りませんよ、この部屋が角部屋ですからね』

さすがに夜遅くなので外まで行く気はなかった。

『この話は支配人を通じてオーナーに確認して、話しても構わないと許可を得ました、もし外部へお話される際は、宿の名称と場所を伏せて貰えば構わないとの事です』

そこまで言うと酒を煽る

『尤も、ここは従業員部屋ですから、普通のお客様は入れない場所ですから、問題ありませんけどね』


「それで、その透ける壁と見えた部屋の関係は?」と私が聞くと

『知らん、宿の開業の頃は無かったらしいけど、ここ10年ばかり前かららしいぜ』

との事だった

解明出来ないもどかしさだが

これこそ実話怪談だなと

この同業者の彼もあちこち飛び回る為、色々話を持っている。

また近い内に聞かせてもらう予定です。


ミエタモノでした



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