第46話 手

一目見た時、それはマネキンに見えた。

ソレに遭遇したのは、あるマンションでのこと。

知人の不動産営業からのオファー

「今決めかねている物件があるから、内見他付き合ってくれ」と

私を呼ぶってことは、曰く付き物件て事だ。


当日、早目に伺う。

午後からだと心許ないと泣くから。


オーナー立会で、所有されているマンションの一室を開放してもらう。

リフォーム済なコンクリート打ちっぱなしの室内

つまり、壁紙無しの、コンクリート面がそのままの部屋。

灰色で埋め尽くされた、薄ら寒い感じの部屋だった。

遠目に天井吊りのペンダントが見えた。

あれ?照明あるのかと思った。

が、あり得ない。

ジーッと見ていると、ソレがクネクネと動く。

まるで『触れ』とアピールするように蠢いた。

連れの営業には見えていない、部屋のオーナーも見えていない。

オーナーは、営業に押し付けたいのか必死にアピールする。

賃料も、そこのマンションの、ロークラスの賃料だと言う。

『何か』があると云わんばかりの価格。

同じ階の三分の一の賃料だもの、疑うよね。

即決即断は死を意味するので、持ち帰りとした。


帰りの車内

営業は、『価格が魅力なんすよ、アレ行けませんかね、俺は行きたいっす』と言うので

「爆死したいなら構わんが、巻き添えはゴメンだね」

『えー、でも………』

ごねるので、

「事務所戻って社長采配だかな」

で、締めくくる


不動産会社の事務所

社長に売り込む営業を白い目で見ていたら、

聞き終えた社長から、私の意見を問われる。

「何かありますよね、あの立地であの金額は有り得ませんから」と

なので、素直に答える

ここの不動産会社には、お互い持ちつ持たれつの関係なので、営業が爆死しようが、どうでも良いが、社長に不利益は出させる訳にはいかない。

あの部屋で見たモノと、アレを消し去るには、例の人を導入。

持ち出しが多すぎるので、今回は流すことに。

社長が、営業に釘を刺す。

「俺の承諾無くやった場合は、クビを覚悟しろよ、その際は漏れなくお前の欲しがる物件を付けてやるがな、今後一切関わるなよ」

どう見てもフラグだろ


一月後

社長から連絡を貰う

「あの後、ヤロウ独断でやりやがった、契約寸前にウチを辞めてよ、個人間で売買したらしいぜ」

あの営業は、確か宅建持っているから出きる。


さらに一月後

営業から留守電が入っていた

『お願いです、助けて下さい、アイツがく………』で切れていた


その数日後

社長から電話を貰う

「ヤツ(営業)が死んだよ、警察から照会が来た。ウチに居たときの名刺かららしい、ヤツは何にやられたんだろうな、俺はもう関わり合う気は無いよ」


無闇に触るのは良くないって事です





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る