第42話 あるマンションの話
同業者Sからの依頼で、同行現地調査をした。
施主が寺の住職だと事前に聞かされていたから、社寺の仕事かと思っていた。
現地へ着いて、内容を聞いて驚いた。
匂わせて騙し討ちとも言う。
同業者S曰く、この住職が広大な墓地を、3✕3の9分割にして、真ん中にマンション。
北側に入り口等を造ったとのこと。
但し、完成してから三年、住人が一人も住んで居ない為、この度リフォーム工事をして、今のブームに沿った部屋づくりを希望らしい。
所在はJRの某駅から徒歩5分、国道より20mほど階段下に位置する。
交通条件に関しては誠に素晴らしいが、立地が問題で、地元の不動産業者も手を引く物件。
ネットを介して勧誘するも、現地内覧になると、エントランスを見ただけで、
土地に足を踏み込むこと無く帰る。
それは、当然かと思われる。
広大な墓地の中心に建つ物件で、どの部屋からも眼下には墓所が見えるのだから。
それでいて、事故物件等では無いので、家賃はその地元の相場のままである。
この物件は、同業者Sが施工した。
図面を確認したが、特に問題の無い物件である。
土地を除いては…。
一番の懸念があるので、同業者Sに聞いてみた。
建物の場所も、元は墓地、過去の航空写真をみても、
墓地だったから、どこに移動をしたのかが問題なのだ。
住職曰く、墓地では無く、敷地内に納骨堂を用意して移設したとか。
納骨堂の場合、期限が切られ、最終的には合祀されるのだ。
それも計算尽くなのだろうね。
工事に際して、土地のほぼ中央に、水源である井戸があった。
元々、真ん中に水屋と井戸があった筈。
予想だが、移設しなかったのかと。
つまり、埋まって………か?
これも要因の一旦なのかも知れない、幾つもの結果が重なったのだろうね。
内見するのに、エントランスホールに入った感想。
放置していたからか、空気の入替えすらやってない。
その態度が原点であるのも、気付かないのがマイナス。
どんより、ひんやりしたね。
部屋までの廊下は、内廊下で、照明も最低限なので薄暗い。
昼間でも灯りを付けないとだね、多分タイマーかセンサーだから、夕刻までは暗いままだね。
現状を知る為に、1階の部屋に入る。
良くあるワンルームの造り、玄関から左手ユニットバス、トイレと並び、右手はミニキッチンと冷蔵庫置き場。
トイレは別の造りはまだ良し。
正面部屋側への開き戸、開けて入る。
フローリングだと思ったら、和室だった。
薄型の畳に、
ベランダを見る、目の前に広がる墓地、洗濯機置き場もあった。
まさか全部か?と他の部屋も確認する。
普通のワンルームの部屋もあった。
つまり、ランダムで和室だったりする訳だ。
何だよこれ………
うん、無理。
相手にしない事にした。
リフォームの仕様が多すぎて、それでいて見積する前から、「安くしろ安くしろ安くしろ」と
適度に流し、同業者Sには、にっこりしつつ「次は無いからな」と軽く脅しておいた。
余談ですが、その後、同業者Sは消えたんですよね。
どうしたんだろうね、怖い所にもこの案件持って行って………。
気にしない気にしない。
結局、全てが有耶無耶になりました。
この物件は、現在も空室で、夜に見ると墓所の真ん中に立つ、巨大な墓石に見えますよ。
外装は真っ黒な吹き付け仕上げでしたから。
「安く安く」の元に造られているので、外装塗装も、色褪せてきて、黒から灰色っぽく、さらに墓石感近くなっていますね。
今回は、「こんな物件もあるんだよ」な話でした。
了
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