第40話 流れ

東京都23区外、西の方に行った現場での話。

その現場は、知り合いからの依頼で、あるサロンのカウンターの修繕との依頼で伺った。

店主と依頼者立会にて打合せる、内容的には、

雨漏りか湿気でやられたカウンター、それの補強と、天板と側面の張替え。

ただ、張替えると、下地も傷むので作り替えになる為、張り増し、つまり重ね張りにした。

そっちは、本職さんの建具屋さんに任せるので、後日再訪して採寸の約束を付けた。


そして、再訪の日、店主立会の元に行われた。

業者が採寸している間、店主から聞かれた。

『お兄さんて、床の方も頼まれているんでしょ』

「聞いていませんが、何かありましたか?」と聞きますと

『なんだ違うんだ、そうかぁ、でも見てくれないかな』と奥へ案内される。

奥の控室の床に900mm角の大きな点検口があった。

『ここなんだけどさ、見てくれないかな』と店主が蓋を開ける。

床から30cmくらい下、水が流れている。

まるで川の様に激しく流れていた。

店舗入口から、建物裏手まで流れている。

ポカーンとしましたよ、これナニ?と

カウンターの湿気って、これが原因か?と思ったけど、待て待て、有り得ないから。

だってね、この水の湧く場所が無いし、消失点つまり水の捌ける場所、覗けないから、GoProを突っ込む。

水流の元、上流にあたる店舗入口に向ける。

基礎のコンクリートが見える、不思議なのは基礎のコンクリートは濡れていない、湿りすら見受けられない。

???

てことは、手前に突然湧く?ありえん

次に、下流の消失点に向ける、反対側の基礎が見えるが、そちらも同じく濡れていない。

つまり、基礎に当たる前に消えている?

流れが急なのだ、例えるなら、散水のホースの先端を摘むと水圧上がりますよね、あのイメージです。

眼の前で、かなりの水量が移動しているけど、始点も終点も見えない。

店主も訳が解らないと、水道管を疑い大家さんに頼み業者を入れて調べるも異常無し。

ただ、床下の水は依然流れている。

もう訳解らずに、大家さんも放置を決め込んだ。

自分の所のメーター回っている訳じゃありませんからね。

折角相談も受けたし、何より面白そうと思ってしまいましてね、悪い癖です。

その時持っていたGoPro2台を、点検口から始点と終点に向けてセットして一晩撮影した。

翌日、カメラ回収して、チェックする。

全部チェックしたが、ひたすら水が流れているだけでした。

店主も映像を確認して、『流れているだけですね』と納得し、そのまま封印するかの様に蓋を閉めた。


自分の管轄、カウンター仕事は終了し、代金を頂いたが、少し多い。

依頼人に確認すると、店主からの心付けだった。

カメラ仕掛けて見て納得されたとのこと。


後日、私の会社以外の業者が、床を張り替えたそうだが、じんわりと水気があった模様。

業者が適当に処理して、終了したと聞いた。


そして、一年程経過したある日。

店主から連絡が来た、挨拶の後に聞いた。

『店畳んだよ、何せ店開けなくなったからね、大家さんもお見舞い金出してくれたから潮時だね』

なんでも床がそっくり抜けたとか、綺麗に床が落ちたのだとか。

有り得ないんですよね、構造的にね。

『それでね、大家さんの別の物件を借りて、店再開するから来てよ』とお誘いも受けましたが、未だに伺っていません。


なんせ、大家さんがね。

『あの店主に物件なんて紹介してないよ、床抜けた話は聞いたよね?』

「はい、聞きましたよ、床下に水流れていましたものね」

『床下に水無かったわよ、カラカラに乾いてたもの』

あれ?何かおかしい。

「その後、店主はどうなったんですか?」

『あの人、失踪したらしいよ』


なので、水の事も店主の事も、一切解らずに終わりました。

店舗は既に、別の業者によって復旧し、貸店舗に戻っているそうです。


意味不明な現場に遭遇する確率の高い事、

慣れてはいけないんですが、慣れましたよ。


この話は、数年前のお話でした。

今回はこの辺にしましょうかね。



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