第33話 友引
祖母から聞いた話
生前の祖母は、怖いもの知らずでしたが、そんな祖母が『あれは肝が冷えた』と言ってた話になります。
絶対『怖い』とは言わないんだよね。
祖母の次男、父の弟、私の叔父になります。
若かりし頃より付き合いのあった、幼なじみが亡くなった。
享年22歳、早い別れでした。
単車にて、山のカーブを曲がりきれずの単独事故。
ガードレールを突き破り、下方の川へ落下、運悪く大きな岩の転がる岩場でした。
打ち身と致命的ダメージが原因でした。
この事故の日に、叔父も同行する予定でしたが、
原因不明の腹痛で動けず行きませんでした。
それが生死を分けたんでしょうね。
不思議なことに、叔父の腹痛が収まった時が、彼の死亡推定時刻だったとか。
そんな彼の遺体が、無言の帰宅をし、日を置いて通夜、葬儀となりました。
叔父も通夜に参加しましたが、彼の母親から行かなかった事に対して恨み言を言われましたが、敢えて反抗はせずに黙っていた。
翌日の葬儀も参列したが、母親から、火葬場へは行かせないと言われた叔父は、仕方ないと諦め帰宅することにしました。
帰り道にある踏切で、後ろから声を掛けられた。
振り返ると何もいない、あるき出すとまた聞こえた、少し遠くで叫んでいるそんな感じ。
その後、2度呼びかけられて振り向くが変化無し、3度目は前から聞こえた。
懐かしい友人の声で『行こうぜ』と。
それに釣られる様に、歩を進める直前、後方から大きな声で、『今夜はスキヤキよ』と祖母の声がしたんだとか。
「スキヤキ!」と叫んで振り返ったんだよな、と叔父。
その刹那、目の前を列車が通過した。
前からの友人の声は、叔父を連れて行こうとしたんだろうね。
友を失った悲しさより、食い気が勝手しまったようです。
帰宅した叔父は、祖母に「母ちゃん今夜はスキヤキだろ」と聞いたが、祖母は、『何言ってんだい、そんなわけ無いわ』と。
その後、祖母に聞いても、『スキヤキの下りは知らないねぇ』と言いながらも笑顔でしたから、思うところがあったのかも知れません。
既に鬼籍に入ってますので、真実は闇の中でございます。
以上『スキヤキ』…………じゃなくて、『友引』でした。
了
2022-11-19
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます