第32話 依頼
ある日の午後、事務所に電話が掛かってきた。
「もしもし、実はリフォームを考えてまして、一度お話をしたいので、家に来てもらえますか?」
仕事の依頼だなと思い、了承し伺える日時を聞く。
先方のはOさん、日曜日しか空かないとの事なので、次の日曜日に現地に伺う事に決まった。
日曜日、指定の住所へ時間通りに伺いチャイムを押す。
中から70代の老婆が出てきた、伺った旨を伝えると豹変した。
『おたくの息子さんから、リフォーム工事を頼まれまして…………』と言うと
『誰だい、こんな家にリフォームだと、押し売りもいい加減にしろ』と怒られる。
『いえ、50代の息子さんに依頼されたんですよ』と言うが
『うちに息子なんて居ないよ、私一人暮らしだからね』と憤慨
ええ、何だこれ?
凄い剣幕なので駄目だなと思い、その場を辞する。
念の為、玄関の写真を撮る。
少し離れた場所で、依頼主のOさんに電話をする。
『Oさんのお電話でしょうか、本日〇〇時にお伺いする予定の田中ですが、ご不在でしたので時間を置いて伺う予定です』と伝えたら
Oさんが『え?本当に来ましたか、ずーっと待ってましたが来ないから、電話しようと思っていたんですよ』と
おかしい、もう一度行ってみた。
呼び鈴を鳴らすが、出てきたのは先程の老婆。
私を見るなり喚き散らす、警察呼ぶとかね。
『息子さんに今連絡もらって』と伝えたら、
玄関に飾ってあった、息子さんと一緒に写った写真を見せられた。
『息子は15年前に亡くなったんだよ、息子の事を出すなんて、あんたは酷いね、やっぱり警察呼ぶよ!』
ヤバいので逃げましたよ。
そのまま帰るのもなと思い、最寄り駅前に喫茶店があったので、そこに行こうかと思い、駅前のロータリー横にある公園でOさんに電話してみた。
『Oさん、先程再訪問しましたが、いらっしゃいませんでした、なので駅前に戻りまして、喫茶店で待つことにします。なので、都合が宜しければ来て頂けますか』とカマをかけた。
公園から喫茶店の入口を見る、人が入れば解るからね。
二十分後、電話がくる、Oさんだ。
『Oです、いま喫茶店にいるんですが、どちらにいますか?』
有り得ない、ずーっと入口を見ていたんだから。
念の為、店内の何処にいるかを聞く。
店内の奥、大きな絵画の前の席だと言う。
その席は誰も座っていない、店主に尋ねても、私より前に入ったのは、カウンターのサラリーマンだけ。
奥の席に座りコーヒーを頼む。
再度Oさんから電話がくる、『何処に居るんですか?絵画の下の席で待っているんですよ』と
つまり、お互い見えない状態で向かい合っているらしい。
何となくOさんに『喫茶店前の公園でね、入口をずーっと見ていたんですが、確認出来ませんでしたよ』と告げると
『え?駅前のロータリー横は、ショッピングモールじゃないですか、ボケてますか?』と
どうやら、Oさんと私のいる次元やら世界が違った様です。
なので、Oさんにお詫びをしつつ、この話は無かった事にしました。
でもね、不思議なんですよね。
電話は世界を超えて掛かってきている、玄関の写真を撮って、Oさんにメールで送っている、あちらはメールを確認出来て写真を見ている。
その後メールアドレスは、使用不可になっていました。
Oさんが確認した玄関の写真は、微妙に違ったそうです。
この引きの良さ?
仕事はしなかったけど、ネタにはなったので良しとしようと思った次第。
これも、コンビニ版でコミカライズされました。
その内にコミックに編纂されるかも。
了
2022-11-08
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