第25話 消える。鳥居。

数年前の話。

営業所兼資材倉庫の移転を行った。

人員整理もあって、営業所は無くし、資材倉庫のみ新しい場所への引っ越しだ。

量が多いが、業者に頼める程にはまとめていない。

なので、従業員で手の空いている者と私が出向くことになった。

資材は従業員に任せ、事務所の整理は私になる。

新しい資材倉庫は、海の見える丘の上にあった。

そこまでの移動の道端に、小さな赤い鳥居が草地に多数刺してあった。

鳥居の模型の後ろに長い串みたいな姿、自治体で小便禁止から不法投棄禁止を表すと役所のHPにあった。

荷物の移動に、日に数回移動する際に目に入っていたので、日常の風景になっていた。

そんな時、高校時代の友人から連絡があった。

彼は史跡や社寺を巡るのが好きで、たまたま私の営業所付近を散策していた。

地元の方に、山に分け入った先に、昔のお堂があると聞いて、そこへ行くんだと言って電話を切った。

引っ越ししていたので、彼の事はすっかり忘れていた。

日帰りは厳しいので、近くの民宿に数日泊まり込みで行っていた、夕飯の頃にふと思い出した。

(あいつ帰ったろうな)

そこで電話すれば、事態は変わって居たかもしれないが、お疲れだったのよ。

温泉入って寝てしまったのでした。

翌朝からも、引っ越し作業。

昼頃に友人の母親から電話を貰った、前日に私が近くにいるっぽいと、母親には伝えてあった。

息子が帰って来なかったので、てっきり私と意気投合で泊まったのだと思ったらしいが、

現実は違うし、実際に会ってはいないのだ。

その旨伝えると大騒ぎ。

引っ越しは一旦中止し、従業員たちを連れて捜索することにした。

地元警察と自治体に連絡をして、前日に山中のお堂を教えたのが誰かを聞き出した。

場所を把握して、山中のお堂を目指した。

真っ赤な鳥居の置物(串付き)が、左右の藪に刺さっている。

それに誘われるように、順に追っていくと山中のお堂に着く。

お堂の扉を開けると、彼がイビキかいて寝ていたよ。

突っついて起こす、「おはよう、よく眠れたかい?」

周りの状況をみて、彼は慌てるが傍目に滑稽。

話を聞いてみる、彼が言うには、真っ赤な鳥居を追いかけて来たら、お堂に着いた。

周りをみて写真を撮って、日が沈む前に帰ろうかと思ったら、道を見失ったらしい。

自分の歩いてきた道が無く、全部が藪になっていた。

その藪には、赤い鳥居が刺さっていて、見分けがつかなくなり怖くてお堂に引きこもったと。


惑わされた?でも有り得ないんですよね、そこは彼も承知の上だったらしく、

「ほら証拠だよ」とスマホの画面を見せる、動画になっていて、お堂前でぐるり360度回った動画を見せる。

お堂以外全部藪、赤い鳥居がプスプス刺さっていた。

帰り道が見えない状況だった。

「な、これが帰れなかった原因だよ、俺悪くないだろ」

「いや、ここ電波来てるじゃん、近くにいるんだから俺に電話しろよ、それか家に電話しろよ」

「あぁ、気づかなかったわ、動画撮って満足したし」

それを見ていた地元の方、彼にお堂を教えた方。

「兄さん落ち着けたみたいで良かったよ、それとな、俺が教えたお堂はここじゃ無いんだがな」

まて、謎が増えたぞ。

地元の人々は、ここのお堂のことは広めたく無い雰囲気がしたので、友人を連れて山を降りました。

帰り際、「兄ちゃんまた迷いたくなったら来なよ」と意味深の言葉を吐かれましたとさ。


引っ越しが一日潰れたので、彼も手伝わせたのは言わずもがな。


消えた話・・・鳥居の話でした。


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