第26話 馬の話

仕事のお得意様の旦那から聞いた話


仕事で伺った際に、「若旦那は、怖い話が好きで集めているんだっけな?」

と、聞かれたので、満面の笑みで「大好きです」と答えたら、この話をしてくれた。


「昭和30年代の話なんだがな」と話始めた。

E氏は北海道出身で、若い頃に、競馬の騎手に成るために、本州へやってきた。

騎手って、小柄が前提だったが、「食事が美味くてなぁ」

「田舎じゃ、飯もろくに食えなかったしな」と、懐かしむ。

場所は覚えているが、敢えて地名等は配慮として、濁させて頂く。

本州で海の見える西のエリア。

騎手候補生だったが、体が大きくなってしまい、規定より縦にも横にも育った結果。

馬に関わる別の職に着くことになった。

手先が器用なのと、たまたま蹄鉄職人の親方に気に入られた為、小僧として見習いに入った。

親方の友人が、牧場を経営していたので、そこに弟子入りとなった。

馬関係は朝早く、あがりも早いが、小僧時代はとにかく覚えることも、やることも多くて、慣れるまで大変だった。

そんなある日の夜、久しぶりに明日お休みを貰え、夜更かしをしていたら尿意がやってきた。

当時、トイレは外にしか無く、宿舎から外に出た、怖いより尿意に勝るもの無し。

外に出たら、満月の月が凄く大きかったのを良く覚えているそうだ。

トイレに入って用を足している時に、外で何か聞こえた、それも日常に聞いている音、この時間に聞こえるはずの無い音が聞こえる。

外に出て、音の方へ歩いていくと、コースに白い半透明な馬が走っている姿を見た。

ここの牧場では、栗毛や黒の馬が多く、白い馬は居ないので変に思ったが、

馬の走りをみていると、違和感を感じなかった。

一つ不審に思ったのは、その馬の足の運びと、耳に聞こえる馬の足音がズレている。

ものの数分、それを見つめていたら突然消えた。

E氏は、良いものを見たと思い、宿舎へ帰りぐっすりと寝た。

翌朝、牧場主と親方に、夜中に半透明の白い馬を見た話をしたところ。

「また出たのかい、あれは3年前、俺がここに牧場を開いた時に現れたんだよ」と言う。

親方も「俺は見たこと無いんだが、あれを見た奴は殆ど出世するんだよな、お前も見込みあるのかもな」と。

ここが牧場に成る前は、山林だったと聞いている、なので馬が居たとは聞いていない。

その馬を見たお陰か、E氏はその分野で最高の職人となり、かなり前に引退をした。


その後も、何度か見たらしいが、敢えて親方には言わず、牧場主にだけ伝えてたと。

「何でですか?」と聞くと、「親方がやっかむんだよ」と苦笑いで話を終えました。


こんな昔話もありました。



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