第09話 黒き箱
バブル崩壊の後、事業に失敗すると、夜逃げをする人が急増したと言う。
そんな折、同業のOから、「車持込でバイトしないか?」と持ちかけられた。
当時、仕事も切れてたので、渡りに船と即了解をし、現場へ向かった。
そこは、都内のマンションの1階部分、4LDKに納戸のある、高級マンション。
Oが言うに、不動産屋からの依頼で、夜逃げの後の掃除だと。
全部廃棄との事なので、トラックへ積み込む、衣類が積まれた山が、何故か気味悪い。
袋に衣類を入れて、出てきたものは、黒い箱。
それは、床置きの仏壇だった。
Oに問うた、「これもか?」とOは答える「全部だ」と。
嫌な感じだったが、これは仕事と割り切って、中身を確かめようと前面の扉を開けてみた。
鋭く睨まれた気がした。
中には、位牌と遺影がそのまま残っていた、夜逃げするにしても、中身くらい持って行けよ。
箱は壊せないので、形のままトラックの荷台へ、見たく無いので、上に廃棄物を積み重ねて見え無くした。
家具や雑品を積むと、2トン車一台分になった。
Oと一緒に、産業廃棄物処分場へと向うが、突然の電話で呼び出され彼は途中下車。
処理費を戴いて、馴染みの処分場へと行ったのだが、そこで問題が発生する。
料金を精算し、重機にて荷台からずり落としこれでお終い。
ほっと一息付いた所で、運転席の窓を叩かれた。
処理場の職員が言う「にーちゃん、悪いんだがよ、縁起ものは受付ねーんだよ。」と。
「アレはよ、こっちだって困るんだよ、悪ーいな持って帰ってくれや。」と。
まあ、当然の事だ。
またアレが乗るのか、荷台に載せられたとき、軽い箱なのにずんと重みが掛かった気がした。
走るのにアレが見えてると、他の車の目を引くし、何より気分が悪くなりそうなのでシートで包んだ。
しばらく仕事に追い回されて、荷台にシートを巻いたアレを載せたまま、あちこち走り回ってた。
時折風圧でシートが捲れあがるので、後方の運転手が目を剥き出しで驚くのを、バックミラー越しに見ていた。
駐車場で、音がすると言われたのは、荷台に載せて一週間位後の事。
誰も居ないはずの車庫から、人の歩く音と壁を叩く音が聞こえると言う。
さすがにこれ以上は無理と思ったので、依頼をしたOに電話をする。
Oは手に負えないから、元の依頼主に聞くから待てと言われた。
約二時間後、Oから連絡が来る。
元請けは不動産屋で、迷信ごとは信じないから遠慮なく持って来いと言われたそうだ。
住所を聞き、不動産屋の事務所へ向かう。
移動の最中も、シートで包んだはずの仏壇が主張するかのごとく捲れる。
冷や冷やしながら到着して、事務所へ伺うと、近くに資材置き場があるから、そこに下ろせと言われた。
社長が資材置き場まで同行して、ビクビクしながら仏壇を包んだシートごと下ろすとき、
「こんな箱如きでビクってんじゃねぇよ」と吠えた
「あとの処分は俺の方でやるってOに言っておけよ」と更に吠える
帰宅してOに電話する、Oも薄ら寒い気がしたようなので、後日お詫びに行くわと告げた。
一ヶ月後
Oから電話がある、「不動産屋から電話あって行ってきたんだ、事務員が対応してくれてさ、社長亡くなったらしいぜ」
「何でさ、健康そうだったじゃん」
「事務員さん情報だけど、資材置き場で片付けやってて、壊した側から燃やしてたんだと」
この当時は、まだ緩かったのでドラム缶等で、焚き火してもお咎めは無かった。
「例の仏壇よぉ、社長がハンマーやらで解体して、火に焚べたらしいんだ」
その時に突然火が吹き上がって、あっという間に火だるまになった。
「側で一緒に作業してた事務員がさ、あっという間の火の回りで、消防と救急車来たときにはもうな」
祟ったとは言えないけど、原因は仏壇だったし、あの状態で元の持ち主から棄てられた訳だから、何かしらはあったよね。
そんなことがありました
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます