「無自覚ハイスペックな体育」

「どこ行ってたんだよ蓮。早く着替えねぇと、次の体育始まっちまうぞ?

 ただでさえお前はぬけてるっつーか、天然みてぇーなとこあるからな。」

「一体、僕のどこに天然要素があるんだ?失礼なやつだなー」

「はいはい。そういうとこだよ。」


教室に戻ってきた僕は、一馬と話しながら次の体育のために体操服に着替えていた。

そういえば、この体操服さっきまで柚月が着ていたんだよな...

仄かに花の匂いがするし、まだ体操服が温かい...

僕は頭に過るよぎる煩悩をなんとか消し去り、体操服を着る。


「なんで体操服着んのにそんなに時間かけないといけねーんだよ。別にやましいもんなんかないだろ?それともその体操服を着るのを躊躇うことがあったのか?」


一馬は妙に鋭いところを付いてくるから反応に困る。

「そんなものはないよ、ただ少し考え事をしていてね。」

「そうかよ。じゃあ早く着替えて校庭にいくぞ。」

一馬は僕の言ったことを信じてくれたみたいだ。

心理学でよく言われるだろう?「嘘をつくときに事実をまぜることでその嘘の信憑性を上げることができる」っていうやつだ。

まさか本当に納得してくれるとは思ってなかった。

そして体操服に着替え終わった僕は、足早に校庭に行くのであった。






校庭に出た僕たちは高校に入ってはじめての体育を受ける。

「一年の体育の授業を担当する。鬼塚だ。よろしく頼む」

ジャージ姿に黒髪がよく似合う女性だ。

漫画とかじゃこういう人は竹刀を持ってるんだよな~。

そんなことを考えていると、

「おい、そこのお前。なにボサっとしている。きちんと話を聞いておけよ?」

噂で聞いていたが鬼塚という名前だけあって迫力がある。

また頭の中でそんなことを考えているとさらに圧を感じた。

マジ怖いっす鬼塚さん。マジ反省してるっす。


「それでは早速だか50Mのタイムを計っていこうと思う。

大体高校生の平均は7,4秒くらいだ。白南風学園の生徒たちだ。期待してるぞ?」

運動に自信のなさそうな人たちが震えている…

僕も全力で走るか。

「それでは各自で準備運動をしてくれ。10分後に出席番号の早い順から3人ずつ走る。」



「いや~蓮、しょっぱなから飛ばすね~。尊敬するわ」

「うっせーな、そんなことよりお前は大丈夫なのか?タイム切れそうか?」

「何言ってんだよ蓮、中学のときは6,3秒だったんだぞ?さすがに俺のこと舐めすぎだ。」


そういえばそうだった。一馬は動神経抜群でサッカーの名門高にもスカウトされるような奴だった。なんか最近はそういうのを感じなくなっていた。

「それじゃ、蓮。お互い頑張ろうぜ。」

「当り前だよ、先生にも目を付けられちゃったからね。全力で走るよ」




結果からいうと僕のタイムは5,8秒だった。

先生が言うには高校生の上位0,2%なんだそうだ。

あれ?もしかして僕ってすごい?

ふと校舎の方を見ると、柚月が窓からこっちを見ていた。

僕と目が合うと、笑顔で教室から手を叩いていた。

やっぱ柚月可愛いな~。さすが学園の天使と言われることはあるよな。


「おーい蓮、どこ向いてるんだ?あ…なるほどなるほど…やっぱりそういう関係だったか…」

やばい、、一馬に見られた。またこいつニヤニヤしてるよ…

「違うんだ一馬、これはそう…目があったんだ。たまたま、ね?」

「ふーん。ま、そういうことにしとこう。そういや蓮タイムはどうだった?今回はお前に勝った自信がある!!」

「僕のタイムか?今回は5,8秒だよ。結構早いと思うが一馬には遠く及ばないと思うよ?」

「お、お前なー…俺だからいいけど、他の人にはそういうこというなよ?」

僕の何がいけなかったのだろうか?

「そういうとこだよ!!まったく…今回は勝ったと思ったんだけどな。ちなみにタイムは6,0秒だ。」

「じゃあ僕の勝ちだね。約束通りジュース奢れよ?」

「そんな約束はしてない!!」


まったくこいつとはほんとに馬が合う。




そうして僕たちは教室に戻っていった。




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