「彼シャツ」

波瀾に満ちた朝だったが、なんとか一馬の誤解を解くことができた。

「蓮、今日は体育で50M走あるけど忘れずに体操服持ってきたか?」

「もちろんだよ一馬。僕をなんだと思っているんだ一体…」

僕らがそんな会話をしていると不意に横から視線を感じた。

柚月だ。僕に手招きをしているけどどうしたんだろう?

「悪い一馬。ちょっとトイレ行ってくるよ。」

「はやくいって来いよ、もうすぐ次の時間がはじまるぞ?」

「わかってるよ。じゃあね」

そう言い残して僕は柚月のいる所に向かった。




僕が柚月のところへ行くと、柚月が僕の耳元で手で口を隠していった。

「あのね、蓮くん…お願いがあるんだけど…。ってそんなに驚かなくてもいいじゃん!」

しかたないだろ!急に呼び出されて耳元で可愛い声で囁かれてみろ!

びっくりくらいするだろ!

あくまで平静を装いつつ、僕は聞いた。


「いったいどうしたんだ?もうすぐ次の時間が始まるぞ?」

僕は当たり障りの内容に言ったつもりだったが、なぜか顔を赤くして柚月は答えた。


「そ、そのね、驚かないで聞いてほしいんだけど…体操服が欲しいの蓮の…」

は、はい?体操服が欲しい?何言ってるんですか柚月さん!

「た、体操服が欲しいの?僕の…変なからかいはやめてくれよ柚月」

今度こそ真っ赤なリンゴのようになると柚月は急いで訂正を始めた。


「ち、違うんだよ蓮くん!すこしテンパって言い間違ったんだ!ほんとは、体操服を貸してくださいって言おうとしてたんだよ!!」


なるほど、そういうことだったのか。一瞬納得しかけたが僕は一つ疑問に思ったことを聞いた。

「でも柚月。僕じゃなくて、ほかの友達に借りればいいんじゃない?」

「そ、それもそうだけど…あ、あれよ、ほかに借りれる人がいなくて仕方なく蓮くんに頼んでいるの!そう!し・か・た・な・く」

仕方なくならしょうがないな。

僕は二つ返事で答える。

「はいはい、わかったよ柚月。それなら次の授業が終わったら貸してあげるよ」

なにか大事なことを忘れている気がしたが時間がなかったので急いで教室に戻った。





次の時間は体育。女子は前の時間だったはずだ。はやく柚月から体操服を返してもらおう。

そう思い教室の前で待っていると、制服に着替えた柚月がやってきた。


「いや~ありがとね蓮くん!蓮くんの体操服とっても匂いがしたよ!あれかな?こういうのって世間ではって言うんだよね!」


天使のような笑みで渡された体操服を見ながら僕は先ほど思っていた違和感の正体を確認した。

あぁ…さっきの違和感の正体はのことだったのか。

聞いたことがある、彼シャツとは「彼女が彼氏のシャツを借りて着ること」だったよな?

でも待てよ?僕たちは彼氏彼女の関係じゃなくないか?

いや、彼氏彼女の関係じゃなくても「彼シャツ」は成立するのか?

わからない…いかんせん僕には恋愛経験が少なすぎる…

さっきは「彼シャツ」のことで精一杯だったからわからなかったけど、良い匂いののところがおかしかった気がする。

僕が頭の中で議論をしていると、


「いいから早く着替えてきたら?次の体育遅れるよ?男子は50M走なんでしょ?

頑張ってね!」

やはり柚月は天使だ…これなら次の体育でも頑張れる!。

僕はすぐに考えるのをやめて次の50M走に切り替える

「そうだな。それじゃ僕は着替えてくるよ。またあとでな!」


そう言って教室に戻っていく途中、柚月が何か言ったような気がする。



「バカ、すこしは反応くらいしてよ。この鈍感…」





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しばらくは18:00に投稿します。


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