優柔不断な神さまの世界
ある世界に、いつも悩んでばかりいる、優柔不断な神さまがおりました。
その世界はまだできたばっかりで、まったいらな陸地と何も無い海が、半分半分あるだけです。
陸地と海のその間は、汚い泥地になっています。
優柔不断な神さまは、その泥地を陸地にしようか海にしようか、とても悩んでおりました。
神さまが悩んでいると、陸地に住む動物たちが話しかけてきます。
「神さまぁ!」
「どうしたんだい? 動物たちよ。」
「そこは、陸地にするのが良いと思います。」
「どうしてだい?」
「海では上も下も右も左もわからないから、迷ってしまうんです。自分がどこにいるのかわからない。
迷うのはとっても怖いこと。だから、陸地にしてしまいましょう。」
神さまは動物たちの話を聞いて、なるほどと思いました。
だけど、この神さまはとても優柔不断です。
神さまは決められなくて、今度は海の魚に相談することにしました。
「魚たちよ。動物たちは陸地にしたら良いと言っているが、そなたたちはどう思う?」
「神さま、動物たちの言うことはもっともです。ぜひ、陸地にしてしまいましょう。
海では、自分がどこにいるのかわからない。迷うのはとっても怖いこと。陸地なら、地に足がついていて、安心することができます。」
「でもそれだと、そなたたち魚の生きる世界が減ってしまうが、大丈夫かの?」
「いいえ、神さま! いっそのこと、海は全て陸地に変えてしまいましょう!
私たちの命などいりません。私たちの命が、生きる場所を間違えているのです。
全ての生き物たちが迷うことのない、安心できる世界のためなら、間違えている私たちは犠牲になっても構いません!」
その言葉に、神さまは驚きます!
動物たちも魚たちも、同じ意見じゃありませんか。
しかも魚たちは、自分たちの命を犠牲にしても、陸地の方が良いと言っています。
これには神さまも、陸地にしようと考えました。
だけど、この神さまはとても優柔不断です。
「陸地に……でも、魚たちを犠牲にするのは……困ったなぁ……悩むなぁ……」
やっぱり決められない、優柔不断な神さま。
悩んだ神さまは、今度は陸地と海の間の汚い泥地に住んでいる、蟹に相談することにしたのでした。
「なあ、陸地と海の間に住む蟹よ。動物たちも魚たちも、海を無くして陸地にしてしまおうと言っておる。泥に住むそなたは、どう思うのだ?」
「ボクは陸地が大好きです! 海も大好きです!
安心したいと言う動物たちも大好き! ほかの生き物のためなら命を捨てても言うという魚たちだって大好きです!」
「なら、どうしたら良いと思うのだ?」
「ボクは、大好きなものが無くなるのは嫌だなぁ……」
「嫌って言われても……」
蟹がそんな風に答えるものだから、神さまはますます迷ってしまいます。
神さまは結局、どうするかを決められません。
そしてそれから数百年、数万年、数億年、悩み続けてしまいました。
その間に、世界は変わってしまいます。
海の水からは雲ができ、その雲が陸地に大雨を降らせて、大きな川を作って、動物たちを押し流してしまいます。
――神さまが、決められなかったせいです。
雨は土に染み込んで、大地はくずれたりへこんだりしてしまい、まっさらだった陸地には山や谷ができました。
――神さまが、決められなかったせいです。
流れ出した川の流れは海にも流れを生んで、それは世界中の海を駆け巡り、魚たちを押し流してしまいます。
――神さまが、決められなかったせいです。
海の流れは陸地を削り、呑み込んで、砂浜や岩の洞窟、海の中に山々を作って、世界を複雑な形に変えてしまいます。
――神さまが、決められなかったせいです。
そして複雑になった世界には、いろんな動物たちや魚たち、虫たちや鳥たちが生まれて、それぞれがそれぞれの場所で、生きるようになりました。
神さまが、決められなかったせいなのです!
さて、優柔不断な神さまは、まだまだずーっと悩み続けていて、未だにみんなに意見を聞いて周っておりました。
「山が一番ですよ。俺の意見が正しいです!」
「谷が一番ですよ。私の意見が正しいです!」
「川が一番ですよ。僕の意見が正しいです!」
陸地の生き物たちは、それぞれ自分の住む場所が一番良いのだと言ってきます。
海の生き物たちは、どうでしょうか?
「海中が一番ですよ。俺の意見が正しいです!」
「海岸が一番ですよ。私の意見が正しいです!」
「深海が一番ですよ。僕の意見が正しいです!」
――その昔、魚たちは言っていました。
「海では、自分がどこにいるのかわからない。」と……でも、今は違います。
海には流れが生まれ、海岸や海底の形も複雑になって、目印があるから、みんな自分がどこにいるのかをわかっています。
だから、陸地の生き物と変わりません。
自分の住む場所が一番良いと言ってくるのです。
「うわぁああああ! わからんぞぉおおおお!
みんな違う意見を言っておる。こんなことならあの時に、全て陸地にしておけば良かった!
あの時はみんな同じ意見だったのに、迷って決められなかったせいで、余計に難しくなってしもうた!」
もう、神さまはどうしたら良いかわからなくなって、思わず叫んでしまいました。
神さまが悩みすぎてフラフラで歩いていると、泥の中に蟹の姿が見えました。
神様は、その蟹に相談します。
「なあ、蟹よ。みんな、意見がバラバラじゃ。そなたはどう思うのだ?」
「みんな、自分の住む場所が良いって言っているんですよね?」
「そうじゃ。」
「じゃあ、みんな良いんですよ!」
「でも、どれか決めないと……誰の言っていることが正しんじゃ?」
「みんな、自分が正しいって言っているんですよね?」
「そうじゃ。」
「じゃあ、みんな正しいんですよ!」
「それじゃあ、困るんじゃ! 迷うのは不安で怖いんじゃ! 蟹よ、そなたはどう思うのだ?」
「ボクは陸地も海も、山も谷も、海岸も深海も、みんなみーんな大好きですよ!
動物たちも魚たちも、虫たちも鳥たちも、神さまも、みんなみーんな大好きです!
この今の世界が、とっても、とーっても大好きなのですよ!」
「それじゃ、困るんじゃぁああああ!
どうしたら良いのじゃぁぁああああ!?」
また、神さまは叫んでしまいます。
結局、この優柔不断な神さまは決めることができなくて、ずっと、ずーっと悩み続けるのでした。
陸地と海の間にある泥地の上を横向きに歩きながら、一匹の蟹は言いました。
「前に向かってまっすぐ歩くのは、とっても難しいことだなぁ……」
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