意外な再開


 ヘルガに抱えられ空を飛ぶ……私はのんびりと雲を眺めながら、ヘルガに質問をした。


「ねぇ、ヘルガ?」


「なんだよ?」


「遅くね?」


 ――そう、飛ぶスピードが遅いのだ。


「そりゃあ、人一人抱えてんだ。重たいんだよ!」


「重たい言うな! 私は、スリムだ!」


「そういう意味じゃねえよ。おっぱい無いのはわかってるって。」


「おっぱい無い言うな!」


 私はヘルガに胸のところを抱えられ、後ろに柔らかな感触を感じていた。


(くそ……こいつ、あるな!)


 それはともかく、スピードが遅い。


 これでは、魔王の犬に乗ったハンスに追いつけない。


(何か呼んで、助けて貰おう。)


 召喚士の私は、そう考えた。


 私は左手を伸ばして、願う。


「なんか飛べるやつ! 速いやつ!」


 するとブレスレットの宝石、月のように柔らかな輝きの、白い石が光を放った。


 その直後、ヘルガが何かを見つけた。


「おい、カレン。何か、飛んできたぞ!」


 ヘルガに言われて右の空を見れば、白い鳥が八羽飛んで来る。


(白鳥……? いや、アヒルだ。

 ――アヒルって、飛べたっけ?)


 アヒルたちは飛んで来て、そして、私たちの周りを囲んで飛ぶ。


 並んで飛ぶアヒルたち……その顔を見ると、目つきは悪く、何か嫌な感じがした。


「おまえら、みにくいな。」


(え? アヒルが喋った? まぁ、私が召喚したのならありえるか……とにかく助けになってもらおう。――でもアヒルって、役に立つのか?)


 私は助けて貰えるのかを、アヒルたちに聞こうとした。


 だけどその前に、喧嘩が始まってしまう……


 アヒルたちはその嫌味な顔のイメージにぴったり、嫌味な男の声で罵り出す。


「おまえ、みにくいな!」


「おまえ、きたないな、褐色だし!」


「おまえ、アヒルじゃねーんじゃねーのか!」


 言われているのはヘルガだ。


 気の強いヘルガは、もちろん言い返す。


「醜くねーし、アヒルじゃねーよ!

 ――アタイのドレスは白鳥なんだぞ!」


 しかし、アヒルたちは嫌味を止めない。


「おまえ、みにくいな、ブス。」


「おまえ、きたないな、ブス。」


「おまえ、ブスだな、ブス。」


 言われたヘルガは、私を揺らしながら叫ぶ。


「アタイはブスじゃねー!

 ブスって言う方がブスなんだぞ!」


(その理屈なら、あんたは間違いなくブスだよ、ヘルガ……)


 私は心の中でそう思った。


 でも、これ以上喧嘩されても困る……話題を変えようと、アヒルたちに話しかける。


「ねえ、アヒルさんたち! 私たちもっと速く飛んで、早く東の街に着きたいの! どうにかならないかな?」


 私が聞くと、アヒルたちは答える。


「そんなのは簡単だ。」


「俺たちが運んで飛んでやる。」


「しょーがねーけどな。」


「お前ら、アヒルだろ! 速くなんて飛べんのか!

 アタイたちを持って、運べんのかよ!」


 アヒルたちの答えに、ヘルガが割って入る。


(耳元で、うるさい……)


「簡単だ、ブス。」


「今朝も、末っ子を寝ている間に運んだ。」


「お前らよりずっと重いやつだ。」


「運んで、湖に落としてやった。」


「ぴかぴ~」


「ケケッ! あいつ、溺れてたな!」


「スピードもお前ら遅すぎる。」


「スロー過ぎて欠伸が出るぜ。」


(酷い! なんだコイツら、イジメっ子か!?)


 そう私が思う間に、アヒルたちは準備に入る。


 ヘルガのドレスや翼を、嘴で掴む……二匹は私の足を背中に乗せてくれた。


「――行くぜ!」


「俺たちは、音より速いからな!」


「舌を噛むなよ。」


「普通は自分の潜在能力の30%しか使うことができんが、俺たちは残りの70%も使用できる。」


 そう言って、アヒルたちがスピードを上げた瞬間だ!


 風圧が一気に上がる! 私の心臓は止まりそうになる!


 とてつもないスピードでアヒルたちは加速した!


「ぅうう嘘だろおぁあ!

 はぁぁあやすぎんだろろおおおお!」


「ぁあああひりゅ、はえーーーー!!!」


 何かを叫ぶヘルガと私……もうそれ以上は喋れない! 音すら聞こえない!



 ――考える余裕もなく、数分が経ったのだろうか?


 スピードが緩まっと思ったら、もう足下には街が見えていた。


 アヒルたちはゆっくりと、街の広場に私たちを運んでくれる。


 私が地面に降りるとヘルガは疲れ切ったようで、倒れ込み私におんぶされる形になった。


 あまりのスピードにやられて、もう話す力も歩く力も無いらしい……


 ――私は、アヒルたちにお礼を言う。


「アヒルさんたち、ありがとう!」


「礼はいらねーよ、ブス。」


「頑張れよ、貧乳。」


「またな、ずん胴。」


「哀しみを知った先で、また会おう。」


 アヒルたちは私のお礼にそう返した。


 そしてさっと空へと飛び立って、瞬く間、一瞬で消えていったのだ……


(ブス……、貧乳……、ずん胴……!?

 ――絶対あいつら、二度と呼ばねえ!!)




 街に着いた私は、街のみんなに警告をする。


「もうすぐ魔王の犬が三匹、襲って来るわ!」


 そんな私を、街の人たちは意外な反応で歓迎した。


「ゆ……勇者パーティーの一人だ!」


「聖女様を殺した仲間だ!」


 街の人たちは怒りの表情を浮かべて、私に石を投げてきたのだ。


 ハンスは魔王の犬を従える青い布を持ってきた。


 それは、この街の聖女様が持っていた物だった。


 おそらくハンスは聖女様を殺し、青い布を奪ったのだ。――あの男なら、殺しただけでは無かっただろう……


(――痛い!)

 

 いくつかの石が私の頭や肩、身体に当たる。

 

「お前ら、カレンに何しやがる! ぶっ殺すぞ!」


 ヘルガが剣を振って私を庇う……本気で街の人たちを殺す気だ。


 私は、ヘルガを制止した。


「待ってヘルガ! 私は大丈夫だから!」


「だって、ふざけんな! 助けに来てやったのに、こいつら!」


 怒るヘルガを置いといて、私は街の人たちに呼びかける。


「魔王は倒したよ。でも、魔王の犬を連れパーティーを裏切った男が攻めに来るの!

 ――たぶん、聖女様を殺した男!」


「信用できるか!」


「お前も仲間だろ!」


「聖女様をあんなに惨たらしく殺しておいて!」


「槍だ! 誰か槍を持って来い!」


「こいつら殺してやる!」


 街の人たちは、私を信用しない。


 怒りに満ちた顔で、私たちを取り囲む。



 ――街の人たちとヘルガの殺気が頂点に達した……一触即発、その時だ。


 そこに、一人の男性の声がした。


「待ってくれ、みんな! その子は信用できる子だ!」


 叫びながら、人々の間を割って私たちの前に男性が現れる。


 男性は、街の人たちに必死に叫ぶ。


「みんな、この子たちを信じてくれ!」


「町長!」


「しかし、聖女様を嬲り殺し、青い布を奪った男の仲間ですよ!」


「許せません!」


「信用できません!」


「みんな、気持ちはわかる! 私も一緒だ!

 ――だけど、この子は違うんだ! 私を信じて、この子を信じてやってくれ!」


 男性の頼みに、街の人たちは押し黙った。


 みんな、悔しそうな顔……悲しみと怒りを、押し殺した表情で黙っている。


 男性が振り向き、私に話し掛けてくる。


「久しぶりだね、カレン。」


「あ、素敵なご夫婦の旦那さん!」


「素敵だなんて、ありがとう。

 カレン……カケラも手に入れたみたいだね。雪の女王も倒してくれたんだね。」


 男性の正体は、私にこのブレスレットをくれた人だった。


 再会は嬉しかったけど、私は早急にハンスの事を伝える。


「素敵な旦那さん! ハンスって男が魔王から箱を貰って、魔王の犬を従えたの! それで、この街を襲いにくる!」


「カレン、街を助けに来てくれたんだね。

 魔王の犬か……それは、私の罪だ。」


 ――少し、気になる呟き。


 でも緊急事態、旦那さんは振り返った。


 そして、みんなに伝えるために叫ぶ!


「魔王の犬が襲いに来る!

 ――みんな、警戒や避難を早く!」


 そう、旦那さんが叫んだ時だった。


 まだ、復旧も終わっていない街の防壁が、さらに壊される……土埃が立ち込め、街は混乱した。


「来た! 本当に来た!」


「魔王の犬だ!」


「あ、あの男だ!」


「青い布を敷いて犬に乗っているぞ!」


 ハンスを乗せて魔王の犬が!――三匹の巨大な大犬が、街を襲撃しに来たのだった!

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