総力戦


 数え切れないほどの氷狼たち……氷の彫刻たちは、今にも襲い掛からんと牙を剥いていた。


 もう駄目かと思われた、その時。――たくさんの炎の球が飛んできて、氷狼たちを攻撃する。


 その後すぐに雄叫びを上げ、鎧をつけた戦士たちも駆けつけてきた。


 控えていた魔法使いたちと半魚人たちが、私たちのピンチに動いてくれたのだ。


 魔法使いの少女、ゲルダは叫ぶ。


「カイ!」


 魔王に操られ、氷狼と共に私たちに迫って来ていた勇者カイ。


 カイは魔法使いたちの魔法に巻き込まれて、その姿は見えなくなってしまう。


 私はヘルガに聞いた。


「ねえ、カイを助け出せないかな!」


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃねえ! 氷の塊一匹すら倒せちゃいねえし、まだまだ来るぞ!」


 ヘルガの怒る声……その言葉はもっともだ。


 氷狼たちは強く、簡単には倒せない。


 魔王は、そんな氷狼を無限に呼び出せる。


 反撃どころか、今は凌げるかどうかすらわからない、そんな状況だったのだ。


「なにか、呼ばなくちゃ……」


 ――私は、そう思う。


 その時、ヘルガが討ち漏らした氷狼の数匹が、私とゲルダへと飛び掛かった。


 牙を剥き、飛び掛かってくる氷狼を見上げた私は、声を漏らす。


「あ……」


 その瞬間、私はやられたと思ったのだ。


 でも、そんな私の視界に、不思議なものが映り込んで、それは私たちをピンチから救い出す。



 ――何かが、空中を飛んでいた。


 氷狼たちは急に動きを止めて、その飛んでいく何かを氷の目で追っている。


 その何かをよく見れば、それは二人の……


「女の子? あ! あの兵隊さんだ!」


 飛んでいたのは、小さな二人の妖精だった。


 一人はウエディングドレスを着た、親指くらいの大きさのとても小さな女の子。


 一人は兵隊のお人形……魔王の犬や猪の怪物から気を惹きつけて、私を守ってくれた兵隊さんだ。


「無事だったんだね、兵隊さん!……って、嫁さん連れてくるって、やるじゃないか、兵隊さん!」


 私が叫ぶと、兵隊さんは親指を立てて、無言で返事。


 兵隊さんと手を繋いで飛んでいる女の子が、私に言った。


「カレンさん、今です!」


(そうだ! 何か呼ばなくちゃ!

 ――今、この一瞬がチャンス!)


 そう思い、私は立ち上がる!


 そして、左手を伸ばし力を込める!


 ブレスレットを見つめ、何か強力なのを召喚……


「ピー!」


 その時、ブレスレットに黒い小鳥、サヨちゃんがとまってきた。


「サヨちゃん、今そんな場合じゃ……」


 私の何か呼ぼうとした行動は、突然のサヨちゃんの登場に止まってしまう。


 だけど、ブレスレットは黄金に輝いた!


 そのまばゆい輝きに、私は驚く。


「え? え? え?」


 でも驚いたのは一瞬で、黄金の輝きはすぐにすっと消えていった。


 私はブレスレットに乗る、サヨちゃんを見る。


(あれ? サヨちゃん、こんなだったっけ?)


 私のブレスレットの上に、銀色の、鳥のようなものが乗っている。


 それは、金属でできた鳥型の何か。


 その何かは最初、私の方を向いていた。


 けど、ウイーンウイーンと音を立てて氷狼の群れの方に向きを変える。


(カラクリ?)


 私はわけがわからず、その鳥を見つめていた。


 鳥の背中には、何か文字が書いてある。


「メカサヨナキドリ2ゴウ?」


 意味がわからずぽかーんとしていたら、そこからとんでもない事が起る!


 ドドドドドドッ! っという凄い音!


 金属になったサヨちゃんの口から、オレンジに光る何かが高速で発射される!


「は!? なに、なに、なに!?」


 驚く私をよそに、サヨちゃんはオレンジに光る何かを撃ち続ける。


 それに当たった氷狼たちが、割れる、砕ける、粉々になる!


「なんだこりゃあ!?」


「カレン、ついに魔法を!」


「カレン、なんだそれ、カッコいいぞ!」


「カレン様、凄い魔法です!」


(これか!? これが魔法なのか!?)


 私はわけがわからない……私は、ついに魔法を発動したらしい。


(魔法って! 魔法ってこんなのなのか!?)


 サヨちゃんは首の向きだけを微妙に変えて、方向を変えて撃ち続ける。


 ドドドドドドッ! と撃ち続け、ついに周りの氷狼たちを一掃した!


 私の周りには味方以外いなくなり、遠目には魔王が見える。


 魔王は、その白く美しい顔に、苛立ちを浮かべて叫んだ。


「アンデルセンめ! キチガイなものばかりを生み出しおって!」


 ヒステリックに叫んだ彼女は、さらに氷狼たちを出現させる!


 するとサヨちゃんが、今度はその金属の翼を広げた。


「サヨちゃん?」


 金属のサヨちゃんが、――飛んだ!


 サヨちゃんの尾の部分は筒みたいになっている。


 その筒からはオレンジの光、それが青白く変わりサヨちゃんが加速する……魔王に向かって、飛んでゆく!


 サヨちゃんと魔王の間には、氷狼の群れ。


 だけど飛んでいったサヨちゃんの体当たりに、氷狼たちは抵抗なく砕かれる!


 魔王はサヨちゃんを、紙一重で避けた……


 その勢いのままに飛んでゆき、サヨちゃんは氷のお城にぶつかってしまう!


「サヨちゃん!」


 私は、サヨちゃんを心配して叫んだ。


 けれど、結果は私の予想を超える。


「お城が!?」


「なんという威力……」


「な……!」


 サヨちゃんの体当たりに、氷のお城が音を立てて壊れ始めた。


 サヨちゃんは城を突き抜けた遥か上空で、向きを変えて戻ってくるように見える。


 元々血の気の無い魔王の顔が、余計に血の気を失ったように見える……


 ――私も、血の気が引いていた。


「カレンさん、今です!」


 サヨちゃんの活躍で呆気にとられていた私の耳に、女の子の声が聞こえてきた。


 声の方向を見れば、親指サイズの花嫁さんが、草の冠を持って飛んでいた。


「雪の女王にこれを被せます。いいですか?」


「サヨちゃんだけで倒せないかな?」


「そろそろ燃料切れみたいです。」


 言われて上空を見れば、サヨちゃんの動きがさっきよりだいぶ遅い。


(サヨちゃん、おつかれ! 頑張った!

 あとは計画通り、私が頑張るよ!)


 計画では、私が魔王を取り込むことになっている。


 そのためには、魔王に草の冠を被せる必要があるらしい。


 私は兵隊さんと、彼と手を繋いで浮かんでいる女の子にお願いをした。


「頼んだよ、兵隊さん! 可愛い花嫁さん!」


 私に協力してくれる二人。――小さな二人が草の冠を持って魔王に向かい飛んでゆく。


 魔王はヒステリックに叫んだ。


「何をする気か知らないが、そうそう好きにやれると思うな!」


 魔王は再び、氷狼を召喚し始める。


 ――私も叫ぶ。


「ヘルガ! 花嫁さんを援護して!」


「あいよ!」


「我々も援護するぞ!」


「カレン様、あの小さな妖精たちを援護したら良いのですね!」


 私のお願いに、みんなが答えてくれる。


 みんなが、氷狼たちを抑えに掛かる。


 だけど、魔王の無限に出現させる氷狼の盾は、簡単には崩せない!



 ――その時だ。


「私を呼んで、カレン。」


 さらに、援護の声が聞こえた。


 素敵なご夫婦を襲った、強盗と戦った時、船の上でハンスに襲われた時……


 助けてくれた天使の声が、聞こえてきた。


「天使様! お願い、力を貸して!」


「カレン、私は天使じゃないよ。

 ――でも、あなたのために頑張るね。」


 天使様は優しく答える。


 その瞬間、私は小さな炎を見た気がした。


「雪の寒さに野垂れ死ぬだけのガキが! 小賢しい真似をしおってからに!」


 魔王がまた、ヒステリックな叫びを上げる。


 見ると兵隊さんと花嫁さんが無数に増えた、分身した!


 無数に出現した二人の妖精に、氷狼も、魔王も、狙いが定まらなくなる。


 そして、一組のカップルが魔王の頭に……


 ――魔王に、草の冠を被せたのだった。

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