作戦会議


「カレン、カケラ全部取り戻したんだな。

 ――なのに、何してんだよ? 早くあの親父さんと、料理の上手い女将さんとこ帰ろうぜ?」


 そう言ってくるヘルガに、私は命じる。


「魔王をやっつけにいくぞ。手伝え!」


「えぇ、マジかよ〜。結局、あのクソ男二人とブス二人の手伝いする気かよ〜。」


 ブーたれるヘルガ。


 私はとりあえず説得してみる。


「カイたちは関係ないよ。あっちにいる魔法使いの人たちは魔王に呪いをかけられてるの。私はそれを解いてあげたいんだ。」


「他人なんてどうでもいいだろ? それより早く帰ろうぜ。飯食おうぜ。」


「どうでもよくないよ! 助けなきゃ!」


「えぇ? カレンはいつから正義の味方になったんだよ。いいじゃん別に助けなくても……アタイはそういうのって虫唾が走って好きじゃないんだ。」


(さっき、助けてくれたくせに!)


 そう思ったけれど、まぁ嫌なら仕方がない。


「いいよ、私一人でも行く気だから。」


 私は、嘘半分でそう言った。


 するとヘルガは呆れた顔になり、ため息とともに諦めるのだ。


「はぁ……。あいかわらず呑気なくせに頑固だな。

 ――行くよ、行く。アタイも行くよ。インゲルとハンスにお礼もしないといけないしな。」


 やっぱりヘルガは、私が行くとなるとついて来てくれるみたい。


 でもついでに、足を斬られた仕返しをしてやろうとも考えているみたいだ。


 私は、ヘルガに伝える。


「ヘルガ、インゲルは死んだよ。」


「マジか!? あのブス死んだか! そりゃあいいや!」


 そう言って、ヘルガは笑う。


(コイツ、ホント性格悪いな。まあ、あんな目に遭わされのだから、わからないわけじゃないけれど……)


 そう思っていたら、ヘルガはもう話していた私の目を見てなくて、なぜだか私の頭の上の方を見ていた。


(あぁ!)


 どうやら私の頭の上に乗る、サヨナキドリのサヨちゃんに気づいたらしい。


「なんだ、この鳥?」


「ピーッ!」


「うわ!? いてぇ! いてぇ! いてーぇ! 何しやがる!? 斬るぞ!」


「ピーッ!」

 

 ヘルガが何かをしようとしたのか、サヨちゃんがヘルガをつつき出した。


 そこからは二人はケンカになって、ヘルガは剣を振り回し、それをかいくぐってサヨちゃんはヘルガをつつきまわす。


(うん、うん、仲良くなれそうだな!)


 じゃれ合う賑やかな二人は放っておいて、私はほかのみんなの元へと向かう。


 行ってみると、魔法使いの女性たちも裸のおっさんも、エリザちゃんが傷を治してくれていた。


「エリザちゃん、ありがとう。」


 私はお礼を言いながら、その黒髪を撫でる。


 エリザちゃんは、優しい微笑みで返してくれた。



 ――裸のおっさんの傷は治っていた。


 だけど、やっぱり顔色が悪い……


 それに、その場で走ってる。


(いったいどうしたんだろう?)


「おっさん、大丈夫か?」


 私がそう聞けば、おっさんは私の後ろに目線をやる。――そして、その人物に尋ねた。


「娘、お前は大丈夫なのか?」


 私が振り向けば、後ろにはサヨちゃんとの喧嘩を終えて、ヘルガがやってきていた。


 サヨちゃんはまた、私の頭に乗ってくる。


「アタイが? 大丈夫か?」


 ヘルガはおっさんの問いかけに首をかしげる。


 ――でも、何かに気づいたみたい。


 ヘルガも顔色が悪くなった……そして、おっさんと同じように、その場で走り出したのだ!


「冷たい! 冷たい! 冷たい!」


 そう叫んで走り回るヘルガ。


(なんだ、雪が冷たかったのか……なら二人とも、――履けよ。)


 自業自得だと思う。


 でも、その場足踏みをする裸族二人を見て、半魚人たちや魔法使いたちが言ってくれる。


「私の靴をお貸ししましょう。」


「私の靴を履いてください。」


「大丈夫だ、兵士よ。余はこれしきのことで……」


「ありがて〜! 貸してくれ!」


 おっさんは強がったが、ヘルガは素直に魔法使いから靴を借りた。


「パンツも貸……」


 私は別の頼みごともしたかったけれど、やっぱりそれは言わないことにしたのだ。




 私たちは、ここから先の作戦を話し合った。


 魔王の城までは、もうすぐのようだ。


「魔王……雪の女王は、氷狼を無限に呼び出せるのです。」


「無限って、反則じゃん!」


 女性の一人が言うには、魔王が無限に召喚できるので、氷狼を全部倒すのは無理らしい。


「カレンよ。勇者が敗れた場合、魔王とどう戦う気なのだ? ――余でも倒せぬ相手だぞ。」


 おっさんも、そんなことを言ってくる。


 やっぱり、魔王をやっつけるというのは、とても大変なことらしいのだ。


「う〜ん……、半魚人の……」


「カレン様、半魚人ではありません! 人魚姫と呼んであげてください!」


 呼び方を間違えた私に、すぐに修正が入れられる。――私は、言い直す。


「えと、人魚姫が魔王を、私の魔力でこのブレスレットに取り込めば良いって。

 やり方は、よくわかんないけど……」


「それは……。カレンよ、それは魔王もお前のものにするということだぞ。」


「私のものに……する?」


「……、いや、余は反対しない。

 全てはお前のものだ、カレン。」


 おっさんは、なんだか歯切れが悪い。


「私にできるかな?」


「お前がいつも余にやっていることを、強制的にやるだけだ。」


「え? 私、いつもやってるの?」


 私はちんぷんかんぷんだった。


 すると、そんな私の肩を、誰かが急に優しく叩いてくる。


 目をやれば小さな少女……エリザちゃんが私に、何かを言いたかったらしい。


 ――エリザちゃんの手には草の冠。


 いつもの白鳥を騎士にするやつよりは少し大きいくらいの、草で編んだ冠を持っている。


「余で試してみよか……。カレンよ、その冠を余にかぶせ、余を強制的に取り込んでみよ。」


「おお!? 練習!? やってみるよ。」


 エリザちゃんの頭を撫ぜながら、冠を受け取る。


(痛い! この草あれだ! あの触ったら、シュって切れるやつ!)


 少し屈んでくれたおっさんに、私はその冠を載せてみる。


「おっさん、似合うな! なんか王様みたいだ!」


「そうか?」


 おっさんは嬉しそうに、ポーズを取り始める。


 私は教わったように、魔力でおっさんを包むよう意識した。


 すると……


「ぐおおお!」


 おっさんの激しい叫び!


 一瞬だった。


 草の冠から草が一瞬で伸びて、おっさんを包む!


 裸のおっさんは草にその肌を斬られてしまい、全身から血が出てしまっている!


「おっさん、大丈夫か!?」


「大丈夫だ! カレンよ、取り込め!」


「えと、えぇと……!? 私は、おっさんを取り込みたい!」


 ――私は願った。


 すると、ブレスレットの紫の宝石が光る。


 そして、おっさんは消えたのだった。



「おっさん……、大丈夫かな?」


 私が不安に思っていると、声が聞こえた。


「大丈夫だ、余は心配ない。だが、しばらくは出れぬ。すまぬな、カレン。」


「おお! 良かった! なんとかやってみるよ。ありがとう、裸のおっさん!」


 安心する私の腕を、エリザちゃんが引っ張った。


 エリザちゃんはまた、草の冠を私にくれる。


 そうしてから微笑んで、エリザちゃんも消えて、帰っていった。


(この冠を魔王に載せて、今みたいに……魔王にこれ、載せれるかな?)


 不安は少し残ったけれど、私は魔王を倒す手段を手に入れたのだ。




 魔王に近づくのは少数で……ということになった。


 私とヘルガ、半魚人と魔法使いの一人づつが、こっそりと近づく……残りは離れて、氷狼を召喚されたときに対応する。


 そういう作戦だ。



 街を歩いていく、雪がさらに深くなる……


 ――そして、ついに辿り着く!


 氷の城に近づけば、カイたちと白い衣装を着た女性……魔王の姿が見えたのだ。

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