甲板の上で


 この国を出る最後の夜……私は、夜な夜な作業した。


「回復薬を詰めた瓶を、みんなの分作ってくれ。」


 私はカイに、そう頼まれた。


 だから、カエルさんのヌルヌルを詰めた瓶を、私は全員分用意したのだ。


 インゲルは喜んでくれた♪


「これで、ボクでもケガが直せるね。」


 ハンスも喜んだ♪


「これで、カレンがいなくても安心だ。」


 ゲルダもお礼を言ってくれた♪


「カレン……ありがとう……」


 ヘルガだけは受け取らなかった。


「アタイがそれをもらうわけないだろ!」


(いや、あんたが一番ケガするだろ!)




 ――次の朝、私達は船に乗った。


 私にとっては初めての船旅……海を見るのも久しぶりだ。


 お父さんが生きてた頃に、一緒に見に行ったきりだ……ぐぉえ、おえ、ぶっ!!


 げえ! げろげろ、はぁ……


「……はぁ、はぁ、はぁ。」


「はははっ、カレン船酔いかよ!」


「ぅぐるさい、ヘルガ……」


(これが船酔いか? 死ぬ、死ぬ、死ぬ!)


 お母さんもよく、酒呑んで吐いてたな……こんなになって、何が楽しいんだ?



 私が船に慣れた頃には、もうすっかり夜になってしまう。


 その夜、私はカエルさんと一緒に甲板の船へちで、夜風に当たっていた。


「ゲロゲロ……げろ、げろ〜」


「カエルさん、大丈夫?」


「げろ……ごめんなさい、迷惑かけて。

 ――もう、だいぶいいみたい。」


 そんな風に私がカエルさんを介抱していた時、急に誰かが後ろから抱きついてきた。


「寒くないかぁ? カレン、俺が温めてやるよ!」


 野太い男の声……ハンスだ。


「離して!」


「そう言うなよ、俺も寒いんだ、温め合おうぜ。」


 ハンスはそう言って、私の胸や腰を触ってくる。


 私は力を込めて逃げようとする。


 でも、この赤毛の大男の力は、相当強い。


(やばいな……乱暴される。)


「誰かたす……んん」


 ――ハンスの手が、私の口を押さえた。


 そして強引に私の向きを、自分の正面に向けてから言うのだ。


「悪い口は、俺の口で塞いじまおうなぁ。」


「呼んで。」


「ん〜、ん〜」


「呼んで、アンデルセン。」


(あぁ、あの時の天使の声だ……素敵なご夫婦が強盗に襲われた時の。――でも、口を押さえられて呼べないよ。キスされた時に呼ぶしかないかな……)


「カレンを離して!」


 私が作戦を練っていた時、カエルさんがハンスの顔に飛び掛かる!


「――な、なんだぁ!?」


 ハンスは叫んで、カエルさんを払おうと私から手を離した。


(よし、隙ができたぞ!)


「助けて!」


 ハンスが怯んだ瞬間に、私は叫んだ。


 すると……小さな炎が、小さく揺れた。


 そんな、気がした……




 ボシャン! ボシャン!


 何かが水面から飛び出る音。


 海から何かが数体、船に飛び乗って来た。


(人間……?)


 ――でも、肌は青く腐ってる。


(ゾンビだ! 私は……私は裸のおっさんに引き続き、ゾンビを呼んだのか!?

 ――私の召喚は、なんなんだ!?)


「うわぁああああ!!」


 ハンスが叫ぶ。


(そりゃあ、怖い。呼んだ私も怖い。)

 こいつら、私にも噛みついてくる。)


 ゾンビを呼んだ張本人……私あろうことか、今度はハンスに助けを求める。


「タ……ズケ……テ」


(あれ? 私の声、変じゃない?)


 私を見て、ハンスがさらに叫ぶ。


「うわぁあ、あああ!!」


(あ! 私の肌も腐ってる。)


 どうやら私も、ゾンビになってしまったらしい。


「ドブシ……ヨウ、ハンズ」


 私は、ハンスに抱きついた。


「うわぁああああ!!」


 私にだきつかれたハンスはさらに叫び、夜の海に男の声が響き渡ったのだった。



(……あれ?)


 気づくと、ゾンビは居なくなっていた。


 私の肌も玉の肌に戻ってる。


 ハンスは泡を吹いて倒れてる。


(おぉ! 強盗の時と同じだ。ありがとう、天使様♪

 何かしてくれたんだね、ありがとう♪)


 私はファーストキスを奪われる危機をなんとか脱し、気絶したハンスをほったらかして、船の中へと逃げたのだった……




 ――船が到着、私たちは魔王の国に着く。


「ここが最後の街か?」


「魔王の犬さえ退ける、聖女が守る奇跡の街……」


 カイとゲルダが呟くように話してる。


 どうやら、ここまでが魔王に支配されていない街 場所らしい。


 着いた瞬間に魔物の群れに襲われるのではないかと思ってた私は、安心する。


 ――ここは、まだまだ人の街。


(よかった、よかった♪ よし、今日はここで、ゆっくり休もう! 明日から、魔物の巣窟だ!)


 私がそんな決意を固めた時だった……


 街を守る石壁、それが、轟音とともに崩れ落ちる!


「早速、出やがった!」


「二匹!? 嘘でしょ!?」


「魔王が来てるってこと!?」


「ほかの魔物も、ついてきてるぜ!?」


「え〜!? あのおっかねぇ犬は無理だぜ。」


 ――魔王の犬、家々の三倍はある犬の怪物。


 それが、二匹同時に現れたのだ!!

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