裸の王様


(剣の形って、色々あるなぁ……)


 カイのは真っ直ぐで、太く大きい、片手じゃとても使えない大剣だ。


 ヘルガのは少しカーブしてる。――斬るのに特化した片手剣だ。


 インゲルのは斬るより突く感じ、細くて真っ直ぐな片手剣。


 そして……


 ――現れた黒いフードの男。


 その両手に握られた剣は短く太い、炎を思わせる形。――変わった形の大きなナイフ?


 カイの大剣も防げる頑丈さ。


 炎の形の凹みを利用して、ヘルガなんて剣を取られて投げられちゃった。


 そんな変わった剣を扱う男に、私たちは苦しめられていた……



 ――男の動きは、すごかった。


 ハンスも合わせて四人がかりの攻撃……でも、全然当たらない。


 それどころか、みんなの攻撃やゲルダの魔法を上手に利用してる。


 私たちは、味方の攻撃が味方に当たってしまっているような状況だ。


(……ピンチじゃん!)


「こいつ、俺たちの攻撃を完全に読んでやがる!?」


「くそぉ、当たんねー!」


「読めますよ。あなた達の動き、攻撃、連携、全て読めます。計算済みです。」


 黒いフードの男は良くしゃべる。


 戦ってる最中なのに余裕綽々だ!


「全て計算済みです。あなたたちが死ぬのも、あと数分。それも全て、私の計算の内なのです。」


(あれだ。頭いいけど、ウザいやつ。)


 そんなことを考える私だけど、戦闘に参加していないわけじゃない。――私の仕事は回復役だ。


「インゲル、大丈夫!?」


「また、少し斬られちゃった。カレン、お願い。」


 私はインゲルの傷に、瓶に詰めたカエルさんのヌルヌルを塗ってあげる。


 夜な夜な現れるカエルさん。


 彼女のアドバイスで、ヌルヌルを瓶に詰めたら、それが役に立った。


「インゲル、少し休んだら……」


「ダメ。あのクソ女も戦ってる。ボクは引くわけにはいかない!」


 そう言って、戦場に戻るインゲル。


 インゲルはとても軽装だ……だから斬られたら傷を負う。


 だけど、普段はそんなことは無い。


 インゲルはすごい剣の達人らしい。


 動きが超素早くて、普通に攻撃は当たらない。


 今まで魔物が襲ってきた時、インゲルはヘルガと競うように、ものすごい速さで魔物を倒してた。


 総力戦なんて、これまで無かった。


 私たちはパーティ全員での戦いを、初めて強いられていたのだった……



 ――衝撃波。


 黒いフードの男が隠し技を放った。


(コイツ、剣だけじゃない!)


「弱過ぎますね。さて、トドメといきますか……」


 男はそう言って、再び衝撃波を放つ。


 全員が飛ばされて、意識を失う。


 もう戦えるのは、私とゲルダだけだ。


「カレン! 召喚使えない!?」


 ゲルダが叫んだ。


(召喚……召喚か!)


 私は何かを呼べる召喚士らしい。


(でも、どうやって呼ぶんだ?)


「余を呼ぶがよい。」


(いや、そう言われても……カエルさんは寝た時に現れるから、寝たらいいのか?

 ――いや、この状況で寝れないよ!)


「余を呼べ、アンデルセン。」


(う〜ん、呼ぶ? 呼んだらいいの?)


「誰か、呼んだら来てくれる?」


 ――私は呟く。


 すると、私の左腕のブレスレット。


 紫の宝石が輝いた。



 黒いフードの男が迫る。


 ゲルダが私をかばい、男の前に立つ。


 男はまた衝撃波を放って、ゲルダを攻撃した。


「カレン……ごめんなさい……」


 ゲルダはそう言って、意識を失う。


(ゲルダー! 「ごめん」は私だ!

 役に立たなくて、ごめんなさい!)


 フードの男が私に言った。


「さあ、最後はお前だ!」


「アンデルセン、望みを言え!」


「私、コイツ、倒したい!」


 ――私は、誰かの声にそう答えた。



 答えた瞬間、私の意識は飛ばされて……




 刺繍の細やかな絨毯……



 カーテンは良い生地だ……



 良い服を着た偉い人たち?



 鎧を来た兵隊さんたち……



 ここは……



 王宮?



 ――玉座の前で、男が語る。


「これが最も皇帝に相応しい衣です。」


 男は言うが、その手には何もない。


 家臣たちは、そんな男に対し怒っていた。


「貴様、皇帝を愚弄するか!」


「何も無いではないか!」


 それに対して男は語る。


「おやおや。この衣は愚か者、忠誠心の無き者には見えない魔法の衣ですよ。皇帝、この者たちどうやら……」


 男のかたりに、家臣たちは狼狽ろうばいする。


 ――その時、皇帝は笑った。


「はははっ! 機織りよ、お前はわかっておらぬな。忠義とは盲目、愚かな者の証よ。

 それに、我が民も愚か者ばかりよ。新しき衣が今着る衣よりも良く見える。余はそんな、愚か者たちの王なるぞ。」


「そんな!? 皇帝は聡明なお方。

 聡明な貴方には、この衣が見えるはず!」


「騙るな機織りよ、退がるが良い。」


 男に退室を命じる皇帝。


 だが、家臣たちは納得しない。


「この無礼者、詐欺師です。

 ――今すぐ殺してしまいましょう!」


 その声に、皇帝は答えた。


「生きて帰してやれ……だが!」


 皇帝の答えを待ち、男も、家臣たちも固唾を飲む。


 皇帝は言った。


「二度と騙れぬよう、舌を切れ!」



 ウェーブした長めの髪、精悍せいかんな顔つき。


 筋骨隆々な肉体に、白い衣を羽織る……


 そんな皇帝は、一人考える。


「そこにおるのか、アンデルセン?」


(私は、アンデルセンじゃない。)


「欠けておるな、お前は……」


(欠けてる?)


「民と同じ愚かさも民を導く賢さも……

 寛大さも、厳しさも、国を治め守っていくのに全ては必要な宝だ。」


(全ては必要な宝……?)


「お前が余にくれたものではないか。

 ――お前が欠けているのなら、今度はお前に全てを戻すため、余が力を貸そうぞ。」


(助けて、くれるの?)


「もちろんだ! なあ、アンデルセンよ……

 お前がくれた余に相応しい衣、憶えておるか?」


(相応しい衣?)


 衣?


 ころも……




 ――私の意識は戻った。


 黒いコートの男の、脅威の前へ……だけど、コートの男は驚いている。


 コートの男に堂々と背を向けて、私の前に一人の男が立っていた。


 その男は大きく、その背は私の倍くらい大きい。


 その男は大きく、鍛え上げられた身体が光っている。


 その男は、上に何も着ていない。


 その男は、下に何も着ていない。


 あそこは紫の魔方陣が光って見えない。


 けれど、私が見ていたら、にょきっと魔方陣が少し上がった。


(「ヘ」 「ン」 「タ」 「イ」 だ!!

 ――欠けているのは、あんただよ!?)


「余の相手は、後ろの小物か?」


「誰!? あんた誰!?」


 私は大男を見上げ、叫ぶ!


「お前が呼んだのであろう。アンデル……いや、カレンよ。」


 私は、呼んでしまったらしい。――召喚士の私は、呼んでしまったのだ!


 カエルの次は……全裸のおっさんを!!



 コートの男が叫ぶ!


「なんだ、貴様は!?」


(いや、ヘンタイだよ。)


「余はお前を倒す者……覚悟せよ。」


 裸のおっさんは振り向く。


 そして、コートの男に殴りかかる!


 コートの男は避けれない。


 なすがままに殴られる!


「読めぬ!? 貴様の動きが! 貴様の考えが! なぜだ!?」


(いや、ヘンタイの考えは読めないよ!

 あんたは正常だよ、大丈夫!!)


 裸のおっさんは、コートの男を連打!


 そして、空へとぐんぐん上がっていく!


 猛烈な連打とスピード……遥か彼方へ消える男たち。――私は彼らが空に消えるまで、それを目で追っていた。


(いや、裸のおっさんを目で追うな! 追うんじゃない、私!)


 そんなことを思っていたら、青空に紫の魔方陣が光るのが見えた。


 ――そして、青空には何もなくなったのだ。




 ………



 みんなにヌルヌルを塗っていたら、段々と、みんなは目を覚ました。


「……やられたね。」


「あの、あの……男は?」


「あいつはどうした!?」


 ――私は答えた。


「なんか、帰ったみたい……」


 みんなは不思議そうな顔で、私を見る。


(いいじゃないか、助かったし!)


 ――私は、嘘をついた。


 裸のおっさんを召喚したこと……私はそれを、自分の胸の奥にしまい込んだのだった。

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