モンスターの襲来
親父さんのところに泊めてもらった私は、朝から靴屋でお仕事だ。
すると店の準備が終わったくらいに、変なお客さんがやってきた。
「お邪魔するぜ。」
金の髪をした、若い男の冒険者。
後ろには、魔法使いらしい格好の女性もいる。
「あんたか? 昨日、強盗をすげえ魔力で倒したって言うお嬢ちゃんは?」
そして突然に、男はそう尋ねてくるのだ。
(魔力って何? 私は昨日、箒を振り回していただけだぞ。)
「この子で間違いなさそうですよ、カイ。」
「お、ゲルダ、やっぱり強い魔力感じるのかい?」
二人は、そんな風に話をしていた。
でも、私には何がなんだかわからないので、言葉が出て来ない。
そんな様子に気づいたのか、奥から親父さんがやって来る……そして、私の変わりに話し出した。
「なんだい、あんたら?
俺の愛弟子になんかようかい?」
「いやねぇ、昨日強盗をすげえ魔力で倒した娘がいたって噂を耳にしたんで……才能がありそうなら、仲間にしたいと思って訪ねて来たんですよ。」
「カレンに魔力が?」
「今、うちの魔法使いが確認したら、どうやら間違いないらしいです。――俺はカイ。魔王討伐を国王から任されている者です。」
「あんたが、勇者カイか!」
(え!? 親父さん、この人有名人!?)
私は黙って会話を聞き、金髪男の意外な知名度に驚いていた。
そうしていると今度は魔法使いの女性が、親父さんへ話をしだす。
「私たちは、魔王討伐に貢献できる有能な戦力を探しています。そちらのお嬢さんは才能がありそうなので、ぜひ仲間に加えたいと思いまして……」
「カレンはただの靴職人だ。戦いなんてしたことも無いぞ。」
「昨日、強盗三人を一人で倒したらしいじゃねーか? とりあえず俺たちが守りつつ育てて、戦力になるかはそうしながら見極めるさ。」
「しかしだな……」
(なに!? なんの話しをしているの?)
私が頭を混乱させる中、カイという金髪の男は、さらに話しを進めてくる。
「俺が国王より与えられている権限、だいたいわかっていますよね?」
「俺に言われても、俺はこの子の親じゃない。この子の家は隣町だ。」
「――そうですか。」
親父さんと言い合って、にこりと笑う金髪男。
(私、あんまりコイツ好きじゃないな。)
「では、この子の家と話しをつけます。連れて行きますね。」
(こいつ、勝手になんか決めやがった! 私を連れて行く? 人さらいかよ! だいたいな! 私は今、家出中なんだ! 今、家に帰ったら……めちゃめちゃ気まずいわ!)
そう困る私には御構い無しに、私の手をいけ好かない金髪男が握ってくる。
「さあ、行こうか、お嬢さん。」
「私、行かない!」
「悪いけど、君に拒否権は無い。俺には王より魔王討伐のため、その戦力となりそうな者を徴兵する権限を与えられている。」
「徴兵って、私、戦えないよ!?」
「君は魔力をもって強盗を倒したと聞いている。
無意識にやったのならら魔法についておいおいゲルダに教えてもらえばいい。」
「い、家に帰りたくないの!」
「魔王を倒すまでは家に帰れなくなるぜ。家族に挨拶くらいしておきたいだろう。」
(え!? 家に帰れなくなる!?
お母さんに会えなくなるの?)
「勇者かなんか知らんが、さすがに強引過ぎるだろ!」
私が困っていると親父さんが私をひっぱり返して、金髪男から引き離す。
(ありがとう! 親父さん!――よおし、私もはっきり言って断ろう! 私、親父さんの元で修行して、お父さんと同じ、靴職人になるんだぞい!)
「私は行かない! 私はここで………
――ドゴオォォォン!!
私が決意を固めて、人生の大切な宣言をしようとした時に、それを遮る轟音がした。
……え?」
音がした外の様子を見てみれば、街の家々が破壊されて土煙を上げている。
そして巨大な黒犬が、さらに家々をなぎ倒しながら、こちらへと向かって来ているのだ!
家よりも大きな犬の怪物の出現……それを見て、魔法使いの女性が叫ぶ!
「あれは、魔王の犬!」
金髪男も外に出て、臨戦体勢をとり聞き返す。
「魔王直属の召喚獣か!?」
(なんだよ!? 人生の危機かと思ったら、命の危機に急展開かよ!)
大ピンチがダブルパンチでやってきて、私は今日も大混乱だ!!
魔王の犬……
銀色の混じった黒い毛をした、そんな巨大な大犬で、人間なんて一口で呑み込んじゃいそうなくらいの大きさだった。
しかもそんな怪物の後ろを、緑の顔をした人間大の怪物たちも追って来ている。
魔物たちの襲来に、街はパニックになっていた。
「な……なんで、こんな街に!?」
「あいつらだ! 勇者が来たから魔王軍が襲ってきたんだ!」
「ちっ、俺のせいかよ。こっちは魔王を倒すために命賭けてるっていうのによぉ。」
「――呼びな。」
「ゴブリン兵も二十体くらいいるわ! 私たちだけじゃ手に負えない!」
たくさんの声が飛び交っている……
街の人たちと同じで、私だってパニックだ。
(やばいよやばいよ! みんな、死んじゃうよ!)
私は慌てて、親父さんと逃げようとした。
そんな私に対して、長い髪をした魔法使いの女性が、とんでもないことを言ってくる。
「戦力が足りないの! あなた、手伝って!」
それに私は即答する。
「無理です!」
「じゃあ、呼びなよ。」
「それだけの魔力。今は使い方がわからなくても、身を危険に晒せば魔法が発動するかも知れない。一緒に戦って!」
「カレンはただの靴職人の娘だ。戦えるわけねぇだろ!」
「強盗を撃退したという話は聞いています!
駆けつけてる街の憲兵たちだけじゃ、ゴブリンだけでもきついんです! 手を貸して、私とカイを犬に集中させてください!」
「呼びなよ、アンデルセン。」
(なんか色々言われても、私わかんないよ!)
憲兵たちが集まって来て、緑の怪物と戦ってくれている。
けれど、魔法使いの女性の言う通り、それらも簡単には倒せそうにない。
何よりも、大きな犬の怪物が止まらない。
魔法使いの女性が、火の玉を打ち込んで……
金髪男が、なんか凄い風を剣から起こして……
そうして奮闘しているけれど、全然、犬の怪物は止まってくれないのだ。
「逃げるぞ、カレン!」
「お願い! 手を貸して、助けて!」
「呼べよ!」
(逃げる? 助ける? 呼ぶ?)
大犬も迫って来ている……だけどそれより早く、緑の兵士の数匹がこちらに襲いかかって来た!
「――カレン!」
私を守ろうとして、怪物たちに親父さんは立ち向かった。――でも、武器一つ持ってない!
親父さんは大きくてたくましい。
けど、緑の怪物は斧を持っているし、鎧も着ているし、三体もいるのだ!
(どう見たって、やられちゃう!)
――私は叫んだ。
「お願い、助けて!」
次の瞬間……
親父さんが斬られて、その血が飛ぶ。――緑の怪物も斬られて、その首が飛んだ。
波打つ黒い髪と白いドレスが、剣舞を舞った。
緑の怪物から紫の血が飛んで、三体の魔物は倒された……
一瞬の出来事に、ついていけてない私。
その私の前に、誰かが立っている。
天然パーマの長く黒い髪、黒の瞳に褐色の肌、薄い異国の白いドレス。
そんな美少女が前に立って、私を見つめて微笑んでいる。
――魔法使いの女性が叫ぶ。
「援軍!? そこの剣士さん、魔王の犬を手伝って!」
「やだよブス。そんなおっかねぇのとヤレっかよ。」
「ぶ……ブス!?」
「関係ないね。じゃあね、ブス。ほら、アンデル……カレン、行くよ。」
――なんか、私が呼びかけられた。
でも、私はそれどころじゃない……親父さんが斬られて倒れているのだ。
「親父さん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ……。お、お前は大丈夫か……?」
さすが親父さん!――でも、相当きつそうだな。
(どうしよう、どうしよう……)
「なんだい、カレン? そりゃああんたの男かい? 随分と渋い趣味をしているね?」
「アホか!?」
いきなり現れた美少女は、いきなりな大ボケをかましてくる。
それに私は、思わずつっこんだ!
私が見上げると……少女は笑っていた。
――青空と土煙と、暴れる黒く巨大な犬。
それをバックに、黒髮と白いドレスが風になびいて流れている……
そんな絵になる美少女は不敵に笑って、私に言った。
「違うのかい? でも、あんたの大事な人間なんだろ? なら一緒に守ってやるから、見ていなよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます