沼地の王の娘
でかい犬が家々をぶっ壊しまくって、辺り一面は土埃と瓦礫だらけだ。
波打つ黒髪に褐色の肌の美少女。――いきなりやってきた、白いドレスの女剣士。
彼女は長い髪をなびかせて、剣を片手に犬の怪物へと飛びかかる!
――凄いジャンプ!!
跳躍一つで家よりも高く飛び上がり、彼女は大犬の顔に正面から斬りかかった!
そして……
大犬の手に弾かれた美少女は、どこか遠くに飛んでいったのだ……
「えーー!!」
「なんだ? あの子いきなり来て、いきなり飛ばされていったぞ!?」
「あいつバカなの!? 魔王の犬に正面からいくなんて!?」
色々つっこまれている女の子。
私は親父さんの応急処置をしながら、その女の子が飛ばされた方向を見ていた。
(あ! 戻ってきた!)
「ちょっと、やられたね……」
そう強がっている少女の顔は、鼻血まみれで美人が台無しだ。
褐色のすらっとした足に、裸足はセクシーなんだけど、その足も瓦礫を踏んで血だらけ。
いろんなところが痛々しいので、私はつっこむ。
「鼻血! 裸足!」
「しょうがねーだろ、あの犬強いんだよ。まあ、なんとかするからさ、見てなよ。」
「見てられるか!」
私は少女に駆け寄った。
そして、自分の衣服で、鼻血やらなんやらを拭いてやる。
その後、私は自分の靴を脱いだ。
「これ、履いていって!」
「なんだよ、自分のだろ、良いのかよ?」
「瓦礫踏んで血だらけじゃない!」
「――じゃあ、履かせてくれ。」
私は、少女に靴を履かせる。
白いドレスのスリットから、褐色の足を出す美少女……靴を履かせようと跪いた私に、彼女はその艶やかな足を差し出してくる。
そして、私は見えてしまった……
(え、こいつ、パンツ履いてない!? 靴だけじゃねーのかよ!?)
――色々、つっこみたかった。
だけど、私は靴を履かせるのに集中する。
(良かった! ぴったりだ!)
私の靴が、彼女にぴったり。
それに喜んだ瞬間、不思議なことが起こる。
靴が赤い!
茶色だったのはずなのに、少女に履かせた靴は今は赤色で、なんだか光っている!
「なんで赤に!?」
「そんなの知るかい。あんたが赤くしたんだろ?」
(ダメだ……わけわからん。)
「と、とにかく履けたよ!
でも、あんな大きな怪物、どうにかなるの?」
「正直わかんないね。アタイはやるだけやるだけさ。やられた時はやられた時。アタイが死んだ先のことは知らないね。」
(なんじゃそりゃ!?)
「じゃ、じゃあ、一緒に逃げよう!」
「もう無理だよ、そのオヤジもいるしね。」
そう言って、彼女は走り出す。
白いドレスと赤い靴を身につけた褐色の少女は黒い犬に向かって一っ飛び!
――青空に舞ったのだ。
再び斬りかかられた大犬は、その大きな手で飛んでくる少女を振り払う。
しかし、少女は空中で再び跳躍。
大犬の頭上、その青空に逆さに立つように、少女は停止した。
静かな唸りを上げながら、頭上を見上げる黒犬の怪物。
見上げる形で見下ろしている、黒髪を垂らした白いドレスの逆さまに立つ少女。
――少女の足には、赤い靴と青い空。
少女の足場には赤い靴を中心に、赤い光で大きな……魔法陣?
何かの文字が書かれた丸い絵が、青空に描かれている。
(なんで逆さで宙に立てるの!? ドレスめくれない!? 大事な所が見えちゃうよ!!
――あれはなに……!? 赤い、魔方陣?)
そう思ったら……
私の意識は何処かへと飛ばされて……
…………
空……
青い空……
白……
白い……鳥?
三羽の白鳥が、沼地へと降り立った。
その白鳥たちは、三人の少女へと姿を変える。
「お父様を治す秘薬はこの沼にあるのね。」
「お姉様、沼に入って探してきてください。」
「わかったわ。」
そう話し合う、三人の少女。
その中で最も美しい少女が、白いドレスを脱ぎ裸になった。
その美しい白い肌を晒し、少女は沼へと足を入れる。――そして、沼の奥へと進んでゆく……
彼女がその場を離れたのを見計らい、残った二人が悪事を働いた。
「お姉様、さようなら。」
「この白鳥のドレスが無ければ、もう飛ぶことはできない……これは、もらっていくわね。」
二人の姉妹が、彼女のドレスを持ち去ってゆく。
――慌てる裸の少女。
「なぜ!? どうして、そんなことを!?」
「だって、これで私達が女王になれる。お姉様が女王だと、潔白過ぎて居心地が悪いのよ。」
「お父様は!? ご病気のお父様はどうなるの!?」
「え? 何言ってるのよ、お姉様。――早く死んだ方が、都合がいいじゃない。」
「あなたたち……!」
少女は悲痛に叫ぶも、二人の姉妹は悪意に満ちた笑みを浮かべ、彼女を残して大空へと飛び立っていったのだ。
残された裸の少女が絶望に暮れていると、黒い肌をした大男が現れる。
「女……」
「い、いや……」
「オンナー!」
少女の細い腕を、男の太い腕が掴んだ。
「やめ……やめて、いやぁ……」
そうして大男は、裸の少女を沼へと押し倒す。
「いや! 離して! いや……いやぁ!」
こうして少女は乱暴に、底無しの沼へと引き込まれたのだった。
――少しだけ大人になった少女が、おなかを抱えて横たわっている。
(苦しい……の?)
「大丈夫よ。」
(ほんと?)
「この子もいるし、大丈夫。もしかして今は幸せ……なのかな?」
(あの男、まだいるよ。)
「あの人は、私の夫になった。」
(乱暴……した。)
「最初はね。でも段々と、私を一人の人間として扱うようになったわ。」
(あの姉妹たち……は?)
「わからないわ。」
(何か……してほしいこと、ある?)
「えぇ、あるわ。」
(な……に?)
「この子のこと……」
(子供……あなたの子供だから、きっと可愛い、キレイな心を持った女の子。)
「この子は、私と彼の子供よ。」
(あの男……)
「そう……悪い心と醜さを持った、私の夫。」
(悪い心と醜さ?)
「そうよ。私は彼と触れ合いながら、悪い心と醜さ、それを理解していったの。
彼もまた私と触れ合いながら、私のことを理解していって、今は立派な王になったわ。」
(それは……良いこと?)
「ええ、大切なことよ。
だからアンデルセン、私たちの子供、この子にも、全てを与えて欲しいの。
美しさも醜さも、良い心も悪い心も……」
(全て……?)
「ええ、全て。美しさも醜さも、良い心も悪い心も、今の私は知っている。今の私なら、私を残して去っていった姉妹たちの気持ちがわかる。
それこそ、あのワガママな振る舞いが羨ましいと思えるくらいにね。」
(恨んで……ないの?)
「恨んでいるけど、理解もできるわ。
もっと早く理解してあげれば、こんな結果にならなかったかも……」
(やりなおし……たいの?)
「それもあるけどね。そんな私の気持ちを、この子に託したいのよ。
――ちゃんと全てを知った、この子に……」
(わかったよ♪)
「ありがとう……アンデルセン。全ては大切な宝物よ、大切にね。あなたが宝物を亡くした時には、あなたの生んだ魂が、きっとあなたを助けるわ。」
(よく……わからないな。)
「ふふっ。でも、私が見つけた全ては、あなたがくれたものなのよ。だからこの子にも、お願いね。」
その子は……
彼女は……
彼女の名前は……
――私の意識が、元の世界に帰ってくる。
意識が戻った私は、黄色い光に気がついた。
左腕のブレスレット。
そこについた一つの黄色い宝石が、強い光りを放っている。
何故だろう?――私は叫んだ。
無意識に、無自覚に、私は叫んだのだ!
「ヘルガ!」
青空には、赤い魔方陣を背にした少女。
私が叫んだ瞬間に、その赤い魔方陣が強く光り って輝いた。
空に立つ、少女が叫ぶ。
「きた! きた、きたぁあ!!」
彼女の白いドレスから大きな白い翼が生えて広がった!
そこに居合わせた人々が、声を上げる。
「なんだあれは!?」
「とてつもない魔力!」
「て、天使なの!? 天使様が助けに来てくれたの!?」
そう注目された少女は叫ぶ。
「覚悟しなよ、化け犬!」
空に描かれた、輝く赤い魔方陣。
少女は翼を広げて剣を構えて、真下の、――黒く大きな犬へと斬りかかる。
羽ばたく翼と、振り下ろす剣撃……
それは疾風に変わって、辺り一面に吹き荒れた!――瓦礫が風に吹き飛ばされてゆく!
「な、なんちゅぅ威力だぁ!!」
大犬の一番近くにいた、金髪男は吹っ飛んでいった。
「カイ!」
魔法使いの女性が叫ぶ。
「ぐ、おおおぉぉぉぉぉ……」
大犬は低い唸りを上げながら、真っ二つに切り裂かれたよ
大犬の赤い血が空に上がる!――と思った瞬間に、大犬はその姿を消して……
その代わりに、大量の硬貨が飛び散って……街には平和が訪れたのだった。
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