強すぎ! モーセおじいちゃん!
昔々、あるところに、モーセというおじいちゃんがおりました。
モーセおじいちゃんはもう120歳。――そろそろ天国に召されてもおかしくない歳です。
そこで天の神様は、モーセおじいちゃんを迎えに行くように、天使たちに仰ります。
「天使たちよ。モーセは生きている間にとても良いことをした人間だ。――ぜひ、天国に招きたいから、誰か迎えに行っておくれ。」
それを聞いた天使たちですが、テキトーに理由をつけては断ります。
「わ、私はちょっと用事がありまして……」
「も、モーセのような素晴らしい人物を迎える役など、私にはとんでもない! べ、別の誰かに。」
「わ、私にも荷が重いです……」
そうやってみんなが嫌がるので仕方なく、サマエルという「死」を司る天使が、一人でモーセおじいちゃんを迎えに行くことになりました。
サマエルは死を司る天使なので、命を奪うのがお仕事です。
歳をとって体が動かなくなった生き物、病気で苦しんでいる生き物が、もうどうしようもなくなった時に、その命を奪って天国に連れて行くのがお仕事なのです。
「いや、そりゃあさあ……。歳をとったじいさんを天国に連れて来るのはオレの仕事だけど、モーセはなぁ……」
だけどサマエルは、このお仕事には浮かない顔をします。
そして、普段は何も持たず、ふわっと地上に降りて優しく命を奪うだけなのに、なぜだか今回は、剣やら銃やらを持ち出して、鎧まで着ての完全武装をしています。
「モーセぇええええ! 死ねぇええええ!」
そしてサマエルは地上に降りると、いきなりモーセおじいちゃんに襲いかかりました。
だけどモーセおじいちゃんは、サマエルの振り下ろした剣を指二本で止めてしまいます。
「ふん!ふん!ふん!ふんふん!ふん!」
それからモーセおじいちゃんは、サマエルに殴りかかって、鎧を粉々にして、サマエルをボコボコにしてしまうではありませんか!
「うぎゃああああ!!!!」
モーセおじいちゃんに返り討ちにされ、サマエルは泣きながら天国に帰っていきました。
天国に帰ったサマエルは、ぐちぐち言います。
「――ありゃあ、無理だぜ! またダメだ!
なんだよ、あのバケモノジジイ! 歳とるたびに弱くなるどころか、強くなってるじゃねーか!!」
――そうなのです!
サマエルは「死」を司る天使なので、モーセおじいちゃんが80歳の頃から何度も迎えに行っているのです。
ずっと前からちゃんと、お仕事をしているのです。
だけど、モーセおじいちゃんはまだまだ死にたくないと駄々をこねては、サマエルを追い返していたのでした。
そんなサマエルをバカにするように、二人の天使の声が聞こえてきます。
「ふっ……、サマエル無様だな。」
「言うな、兄者。やつは四天王の中で最弱……我らが天使の面汚しよ。」
バカにしてきたのは、アフとへマーという「破壊」を司る天使の兄弟でした。
サマエルはいつ自分が四天王になったのかもわかりませんが、とにかく自分の仕事を頑張って来たのにバカにされて怒ってしまいます。
「じゃあ、おまえらが行って来いよ!」
「よかろう。我らの格の違いを見せてやろう。」
「本当の四天王の恐ろしさ、見せてやろうぞ。」
怒ったサマエルが言い返すと、アフとへマーは自信満々にそう答えます。
そうして今度はアフとへマーの兄弟が、モーセおじいちゃんを迎えに行くことになったのでした。
「世界を破壊する我らの力を……」
「ふん!ふん!ふん!ふんふん!ふん!」
「強大なる我らの力を……」
「ふん!ふん!ふん!ふんふん!ふん!」
「破壊を司る天使、我ら兄弟の……」
「ふん!ふん!ふん!ふんふん!ふんふん!
ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふん!ふんふんふんふん……
どりゃああああ、あ! ぬりゃああああ、あ!
あぁタタタタ、タタ、タタ、タタ、タタ、タタ、タタ、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄ァアああああ、――アチョぉぉぉう!!」
「ぐわぁあああああ!!!!」
「ぐわぁあああああ!!!!」
でもやっぱり……
モーセおじいちゃんが強すぎて、アフとへマーも返り討ちにされてしまいます。
アフとへマーの兄弟は、言動は小物っぽいですが、本当に「破壊」を司る天使です。
二人が負け帰ったのを見て、天使たちはもう諦めてしまいました……
「――さあ、天使たち、まだかね?
モーセを天国に誰か迎えに行っておくれ。」
――また、神様がそう仰ります。
しかし、天使たちは神様に言い返すのです!
「無理です神様。あのじいさん強すぎます!」
「強すぎるって言っても、人間であろう?」
「あのじいさん、昔、海割ったじゃないですか!」
「それは、わしが力を貸したから……」
「違うっス! コブシで海割ってたッス!」
「あなたが岩を割る力を貸してあげた時だって、結局はあのじいさん、岩をチョップで割っていたじゃないですか!」
「………………」
そうして、天使たちに断られてしまった神様。
困った神様は考えて、天国に住むある者に、モーセおじいちゃんを迎えに行くように仰りました。
「――モーセを迎えに行っておくれ。
そなたの言うことなら、モーセも聞くだろう。」
「わかりました、神様。
わたしもそうしたいと思っていたところです。」
それは先に天国に行っていた、モーセおじいちゃんのお嫁さん……おばあちゃんです。
おばあちゃんは地上に降りると、モーセおじいちゃんにキスをして、優しく微笑んで言いました。
「おじいちゃん、もう頑張ってたくさん生きたじゃろ? あとはもう天国で、わたしと一緒に暮らそうや。さあ、一緒に行こう。」
「――うん、
そうしてモーセおじいちゃんは安らかに、静かに眠りにつきました……
それからはモーセおじいちゃんは天国で、大好きなおばあちゃんと末長く一緒に暮らしましたとさ。
――めでたし、めでたし。
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