1話完結連載作品

わがままな王子と小さなツバメ

ラブストーリーは突然に


 ある街の真ん中に、王子様の像がありました。


 体には金箔が着せてあって、瞳は青いサファイア、持っている剣には赤いルビーの輝いた、それはそれは美しい像でした。


 だけど、一番美しいのはその心です。


 この王子様の像には心があって、その心はとっても優しくて、街に住む苦しんでいる人を見ては、助けてあげたいと思っているのです。


 けれども、王子様の像は動けません。


 だから王子様は、悲しくて泣いてしまいます。


 動けない王子様がぽろぽろと涙を流していたら、どこからか声が聞こえてきました。


「王子様、どうして泣いているのです?」


 その声は、空の上から聞こえてきました。


 見上げると一匹のツバメが飛んでいて、泣いている王子様を見て話しかけてきたのです。


 王子様は答えます。


「やあ、小さなツバメさん。見てみておくれよ。」


「どこをです?」


「あの向こうにいる親子だよ。」


「母子家庭ですね。」


「子供が病気なんだ。」


「本当だ。苦しそう。」


「でも、お母さんは働かないといけない。」


「ナマポじゃないのは感心します。」


「貧しくて、子供にお水しかあげられない。」


「栄養ドリンクをあげたいですね♪」


 王子様はそんな風に、助けてあげたい母子の家を伝えます。


 それから、ツバメにお願い事をするのです。


「ねえ、小さな小さなツバメさん、お願いだ。

 私の剣についたルビーを取り出して、あの貧しい母子に届けておくれよ。」


「王子様、一つしか無いルビーをあげちゃうんですか?」


「このルビーがあれば、あのお母さんは働かなくてよくなる。」


「残念ですがそうはなりません。勤労の義務というものがあります。」


「でも、子供にはお水以外に、お薬だって買ってあげられるよね。」


「そうですね。給食費も払えるでしょう。」


「じゃあ、お願いだよツバメさん!」


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!」


 ツバメはそう答えて、王子様のお願いを聞いてあげます。


 王子様の言う通りに剣についたルビーを取り出して、どこかへと飛んでいきました。



 ――それから、何日かが経ちました。


 ツバメはルビーを持って行って、どこかへと去ったまま……なのに、あの親子は貧しいままです。


「もしかして、貴金属買取詐欺だったかな?

 いや、あの小さなツバメさんは優しいツバメさんのはずだ。必ず帰ってきてくれる……」


 王子様が詐欺に遭ったのかと疑い始めた頃でした。


 母子の家に、あのツバメがやってきます。


 そして、病気の子供の枕元に沢山のお金と、桃缶と、栄養ドリンクを置いていきます。


 それを見つけた、子供とお母さん……


「きっと、神様が届けてくれたのよ!」


 二人は神様が助けてくれたのだと思って、とってもとっても喜びました。


「王子様、戻りました!」


「ああ、小さなツバメさん。おかえり。そして、ありがとう。あの親子はとても幸せそうだ。」


「はい! 金をせびりに来ていたDV男も始末しておきましたから、もう大丈夫でしょう!」


 ツバメのおかげで幸せになった親子を見て、王子様もとってもとっても喜んだのでした。



 でも、街には貧しい人はたくさんいます。


 だから、王子様はまた泣いてしまうのです。


「王子様、どうして泣いているのです?」 


「やあ、小さなツバメさん。見てみておくれよ。」


「どこをです?」


「あの向こうに住む青年を。」


「一人暮らしの無職ですね。」


「彼はもう、何日もうどんしか食べていない。」


「好きなんでしょう。」


「仕事が見つからず貧しいからだよ。」


「前職のブラック企業で心をやられて、笑顔が作れずに面接に落ちまくっているんですね。ニートじゃないのは感心します。」


「本を書こうとしているけれど、寒くて字も書けないらしい。」


「小説投稿サイトで書きましょう。」


「貧しくて、暖房も無いようだ!」


「王子様、ボクも寒いです……」


 王子様はそんな風に、助けてあげたい青年の家を伝えます。


 それからまた、ツバメにお願い事をするのです。


「ねえ、小さな小さなツバメさん。お願いだ。

 私の瞳のサファイアを取り出して、あの貧しい青年に届けておくれ。」


「片目がなくなってしまいますよ?」


「このサファイアがあれば、きっと青年は夢を叶えられる。」


「書籍化したって生活はできません。」


「でも、寒さはしのげるよね。」


「そうですね。人の温もりに触れれば元気になるかも?」


「じゃあ、お願いだよツバメさん!」


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!」


 ツバメは、王子様のお願いを聞いてあげます。


 王子様の言う通りに、サファイアを持ってどこかへと飛んでいきました。



 ――また、何日かが経ちました。


「もしかして、途中で可愛い彼女を見つけて、愛の逃避行に出たのだろうか……?」


 王子様が、ツバメの浮気を疑い始めた頃でした。


 王子様が気にする青年の家に、あのツバメがやってきます。


 そして青年の机の横に、沢山のお金と、スマホと、栄養ドリンクを置いていきます。


 それを見つけた、本を書く青年……


「きっと、神様が届けてくれたんだ!」


 貧しかった青年は神様が助けてくれたのだと思って、とってもとっても喜びました。


「王子様、戻りました!」


「ああ、小さなツバメさん。おかえり。そして、ありがとう。あの青年はとても幸せそうだ。」


「はい! ブラック企業被害者を救うNPOにも連絡しておきましたから、もう大丈夫でしょう!」


 ツバメのおかげで笑顔を取り戻した青年を見て、王子様もとってもとっても喜んだのでした。



 でもまだまだ、街には貧しい人はたくさんいます。


 貧しくて苦しんでいる人を見ては、またまた王子様は泣いてしまうのです。


「小さな小さなツバメさん、お願いだよ!」


「はいはい、王子様、お任せください!」


 そんな風に王子様は、苦しむ人のために自分の宝石や金箔を、ツバメに運んでもらいます。


「王子様、戻りました!」


「ああ、小さなツバメさん。おかえり。そして、ありがとう。みんな、とても幸せそうだ」


「はい! 天下りと消費税は撤廃し、資産税と法人税を増やして、タックスヘイブンを地上から消しておきましたから、もう大丈夫でしょう!」


 そんなことを繰り返し、そうして冬になりました。


 雪が積もるころには王子様はみんなに、宝石や体の金を全てあげてしまい、今はボロボロの汚い像に変わってしまっています。


 だけど、もっとひどいのはツバメです。


 ツバメは王子様のお願いを聞いて、毎日毎日飛び回りました。


 本当は夏の間しか街にいられなかったはずなのに、寒い冬まで街にいてしまいました。


 だからツバメはボロボロで、白い雪の上にバッタリと倒れてしまったのです!



「ああ、小さな小さなツバメさん。

 ごめんよ……ごめん……私のお願いを聞くために、こんなになるまで頑張ってくれて……」


 王子様は、ツバメが可哀想で泣きました。


「ごめんよ……ごめん……。

 私は街の人ばかりを見て、一番頑張っている君のことを見ていなかった……」


 王子様は、自分に後悔して泣きました。


「ごめんよ……ごめん……。

 どうか、神様。優しいこの小さな小さなツバメさんを、どうか元気にしてください……」


 王子様は、神様にお願い事をします。



「……はいはい、王子様、お任せください。」


「……え?」


 見ると、ツバメは生きていました。


 そして、栄養ドリンクを飲んでいます。


 眠○打破、ユ○ケル黄帝液、レッドブルー翼をください、モンスターエジソン……


 それらをグイグイ飲み干して、ファイト一発ツバメは立ち上がります。


「――つ、ツバメさん!」


「王子様、大丈夫ですよ。

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのですから!」


「良かった……良かった……」


「ちょっと失礼。ポチッとな。」


「ツバメさん、何をしてるんだい?」


 泣いて喜んでいる王子様に、近づいてきたツバメは何かをしています。


 王子様が不思議に思って見ていると、ツバメは王子様の体の中に入ってしまうではありませんか!


 ――そして、王子様の体の中。


 そこにはツバメの生活スペースと、操縦のための設備ができあがっていたのです!!


「どういうことだい、ツバメさん?」


「はいはい、大丈夫です王子様。

 心配しなくていいですよ。この中は冷暖房完備で食料もありますから!」


「いや、そうじゃないんだツバメさん!」


「細かいことは、後で説明いたしましょう。

 とりあえず、出発しましょうか。」


「出発ってどこへ?」


「さあ? あてのない旅もいいでしょう。

 ――では王子様、行きまましょう!!」


 そう言って、ツバメはボタンを押します!


 すると王子様の体の各所が光り、そして、王子様が空に浮かび上がったではありませんか!


「どうなってるんだい、ツバメさん!?」


「王子様のお願いをそのまま聞いていては、前と同じになっちゃいますからね。

 宝石や金を高○質屋に持って行って、換金した一部で材料を買わせてもらいました。」


「材料?」


「ちょっと改造させてもらったんですよ!」


「改造!?」


「はい、王子様を改造したんです。」


「どうして!?」


「だってこれなら、いつまでも一緒にいられるじゃないですか! ――愛する王子様!」


 そうして、王子様は高速で大気圏を突破!


 一瞬で、宇宙に飛び立ちます!


 そうです! 王子様を空飛ぶスーパーロボットに、ツバメは改造していたのです!



 ――こうして、二人の冒険が始まりました。


 優しい王子様と小さなツバメさん、二人の旅はこれから、どうなっていくのでしょうね?



「あ! 忘れてた!

 王子様、すいません。栄養ドリンクを買いに、ちょっとコンビニ寄らせてください!」

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