シーズン・イン・ザ・サン


「もしもしかめよ〜♪ かめさんよ〜♪♪

 せかいのうちで〜 ふんふふふふん♪」


 空を飛ぶスーパーロボットへと改造した王子様の中で、楽しそうにツバメは歌を歌っています。


「……どうしてそんなにのろいのか♪

 ――ひざに、矢を受けてしまってな……」


 そんな風にMMOをしながら歌っていたら、急に王子様がツバメを呼びました。


「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん!

 ――アレは、いったい何なんだい?」


 モニターでツバメが、王子様の見ているものを確認すると、そこにはロウで固めた鳥の羽根で空を飛んでいる男の人が映っていました。


「王子様、それは脳筋です。」


「脳筋さんなのかい?」


「はい、脳筋さんです。」


「脳筋さんは何をしているんだろう?」


「IQ300のボクには、脳筋さんが何がしたいのかはわかりません!」


 そうツバメが答えていたら、王子様がいつものようにお願いをしてきます。


「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん、見ておくれよ! ロウで固めた鳥の羽根のロウが溶けて、脳筋さんが落ちてしまうよ!

 ――助けてあげてよ、ツバメさん!」


 ツバメはしょうがないな〜という顔をして、タンク役をやっていたボス戦中のMMOを途中でやめて、王子様を操縦します。


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!」


 そして、王子様の手でキャッチして、落ちる脳筋さんを助けたのでした。


「大丈夫ですか、脳筋さん?」


「はい、大丈夫です!

 助けてくださり、ありがとうございます!」


 そんな風にお礼をする脳筋さんに、王子様は尋ねます。


「何をしようとしていたのですか?」


「私は、太陽まで飛ぼうとしていたのです。

 でも、途中で羽根が溶けてしまって……」


 そう答えて悲しい顔をする脳筋さんを見て、優しい王子様も悲しくなってしまいます。


 王子様はまた、ツバメにお願いをします。


「ツバメさんツバメさん、お願いだ! 脳筋さんを太陽まで連れていってあげておくれ。」


「う〜ん、二人の旅を邪魔されるのは……それに太陽なんて、暑いだけだし……」


「ツバメさん……」


 ツバメは乗る気でないようでしたが、泣きそうな声で王子様に名前を呼ばれ、やっぱりこう答えるのです。


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!」


 こうして王子様の中に脳筋さんを乗せて、三人で太陽に向かうことにしたのでした。


「あ! すいません。その前に栄養ドリンク買いにコンビニ寄ってもいいですか?」





 スーパーロボットになった王子様が大気圏を超えて宇宙空間に出ると、ツバメがポチッとボタンを押します。


 すると、王子様はワープして、そこはもう太陽のすぐ近く。


 みんなサングラスをして、燃え盛る太陽を見ていました。


「ああ! 憧れていた太陽だ!

 ――なんと、なんと大きくて美しい!」


「良かったですね、脳筋さん。う〜ん、IQ300のボクには、何がいいのかサッパリわかりません。」


 そう脳筋さんとツバメさんが話をしていると、王子様が何かを見つけたようです。


「ツバメさんツバメさん、見ておくれよ!

 ロケットを持った変な髪型の男の子が、苦しそうな顔をして飛んでいるよ!」


「まさか!? こんなところに男の子なんて!?」


 王子様がまぼろしでも見ているのかと疑って、ツバメはモニターを見てみました。


 でも、確かにそこには王子様が言った通りに、ロケットを持って飛んでいる男の子が映っているではありませんか!


「ああ、小さなツバメさん……男の子が今にも溶けてしまいそうだよ。あの子はどうして、あんなに頑張っているんだろう?」


「太陽活動が活発になって地球が滅びそうだったので、太陽活動を抑えるロケットを太陽に届けるために頑張っているのですよ。」


「とても良い子じゃないか!

 ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん、お願いだ! あの男の子を助けておくれ!」


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、優しいロボット、それも男の子は必ず助けると決めているのです!」


 ツバメはそう答えて、王子様を操縦。


 男の子からロケットを受けとります。


「これはボクたちが太陽まで届けます。君は地球に帰って大丈夫ですよ。」


「ありがとう。だけどぼく、もう燃料が残っていないんだ。」


「そう、じゃあちょっと体をいじらせてね。」


 ツバメはそう言って、男の子のロボットをニコニコしながら改造し始めます。


 そして、改造が終わってから言いました。


「これで永久機関的な動力を付けたから、燃料の心配はいらないよ。

 あと、体は全て壊されても自動修復するナノマシーンにしておいたから、なんか悲劇っぽいお話に巻き込まれたって大丈夫! 次週の放送までには治るから!」


「何から何まで、本当にありがとう!

 ――ツバメさんと王子様!」


 男の子のロボットは嬉しそうに、地球へと帰っていきました。


 王子様もそんな男の子のロボットを見て、とってもとっても喜びました。




 その後は、色々な太陽を見て回りました。


「ツバメさん、どうして普通の星じゃなくて、太陽ばかりを回るんだい?」


「バラの花とけんかした、王子様とかぶるのを避けたのです。」


 そんな風にお話をしていたら、また王子様が何かを見つけたみたい!


「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん、見ておくれよ!」


 王子様の声にツバメもモニターを見てみると、一台の宇宙船が太陽に向かって飛んでいます。


 王子様はツバメに聞きました。


「ツバメさん、あれはいったい……?」


「あれは、女の子が太陽のそばを飛んで死ぬ気なのです。」


「どうしてそんな……!?」


「脳を宇宙人に寄生されたのです。でも、その寄生した宇宙人と友達になったのです。

 だけど、宇宙人はこのままだと、友達になった女の子の脳を食べちゃうし、増えてしまってほかの人も寄生されて危ないから基地には帰れないのです。

 ――だからこれが、たった一つの冴えたやり方なんですよ。」


 ツバメに事情を聞いた王子様は、またまた泣いてしまいます。


「ツバメさん、ツバメさん、小さな……」


「はいはい、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!」


 ツバメは王子様の言葉を途中で切って、いつもの台詞を言いました。


 それから王子様を操縦して、女の子の宇宙船を回収します。


 そして宇宙船の中に乗る、女の子と話し出しました。


「王子様が助けにきたよ、もう大丈夫。太陽に突っ込むなんてことはやめなさい。」


「で、でも……こうしないと……」


 困ったように話す女の子に、ツバメは大声で言いました。


「ツベコベ言ってんじゃねー!

 自己犠牲なんて、クソ喰らえなんじゃあ!!」


 ツバメは女の子に怒ります!


 なぜだか、ガチギレしています!


 それからツバメはいつもの冷静な感じではなく、熱く熱く語り出したのです!


「お前たち、友達になったんだろう! 女の子と女の子の関係? いいじゃない! 男の子と男の子の関係? 問題ないね! 地球人と宇宙人? だからなんだ! 人間と鳥? 関係ないね! それが例え、生き物と無機物だって構わない!

 脳に寄生しているから? 構わないね! 体に入って操縦したって許されるんだ!

 そう……、『愛』は全てを許すものだ!」


 ツバメのなんだかわからない熱弁に、王子様も脳筋さんも、女の子も、女の子に寄生している宇宙人も一緒になって拍手します。


 それからツバメさんは、女の子に寄生している宇宙人を引きはがし、宇宙人とその胞子を脳筋さんに寄生させて、知能と脳筋力を融合させました。


 そしてさらに、宇宙空間にも対応できる身体に改造してしまいます!


 そう、ツバメさんは科学の力を結集し、強さと知能を持った、勇気一つだけじゃない、究極完全生命体イカロスを作り出したのです!!


「さあ、究極完全生命体イカロスさん。

 これでどこにでも、好きに飛び回れますよ。」


「ありがとう、ツバメさん!」


 究極完全生命体イカロスさんは、とってもとっても嬉しそう。


 それを見て、王子様もとってもとっても嬉しくなります。


「さあ、これで二人仲良く、会いたいときはいつでも会えるよ。」


「ありがとう、ツバメさん!」


 女の子も、とってもとっても嬉しそう。


 それを見て、王子様もとってもとっても嬉しくなります。


「あ! 私、他人名義のクレジットで借金があるの! それも、どうにかならないかな!?」


 女の子が何か困りごとを言ったようですが、王子様は聞こえていないみたい。


「ねえ、クレジット満額まで使っちゃたの!

 ど……どうにかならないのかな!?」


 女の子がまた、何か困りごとを言いましたけど、ツバメも聞こえていないみたいです。


 女の子は何かを訴えながら、究極完全生命体イカロスさんと一緒に仲良く帰っていきました……



「今回もありがとう、ツバメさん。」


「いえいえ、お任せください、王子様!

 ボクは、あなたのお願いを聞いてあげるために生まれてきたのです!――でも、久しぶりにたくさんしゃべったのでノドが渇きました。栄養ドリンクを買いに、コンビニに寄らせてください。」


 そんな風に二人はお話をして、地球に帰ることにしました。


 ――帰る途中で、王子様は言いました。


「さっきのツバメさんの言葉、胸にグッときて、私の鉛の心臓が割れてしまいそうだったよ。

 きっとツバメさんは太陽のように、熱い恋をしたことがあるんだね。」


「まあ、そうですね。熱い恋でしたけど、最後は寒さで死んだような……」



 ――こうして、二人の冒険は続きます。


 優しい王子様と小さなツバメさん、二人の旅はこの次は、どんな風になるのでしょうね?

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