翼をください
「X X X X年 X月 X X日、ボクは死んだ。」
神戸市三宮駅のホームじゃない。
――王子様の足元でだ。
ボクの死骸は捨てられて、そのあとで、王子様の心臓も隣に捨てられた。
大聖堂のルーベンスの絵の前じゃない。
――ゴミ捨て山にだ。
そこに、天使たちが舞い降りてきた。
天使たちはボクらをそっと抱き上げて、天国へと昇っていったのだ……
「異議あり!!」
ここは、天国です。
一匹のツバメが神様に向かって翼を指して、何かを訴えているではありませんか!
「神様、あなたは重大な過ちを犯している!」
「ツバメよ、私が何を間違えたと言うのだ?
それに、せっかく天国に連れてきてやったのに、何が不満なんじゃ?」
神様がそう尋ねれば、ツバメはスネた顔で答えます。
「ボクがお庭で王子様が黄金の町って、なんで二人が別々の場所なんですか!?
だけど、今回はそこじゃない! 神様、あなたはもっと重大な間違いを起こしてる!
ボクは神様を『転生法』違反として、訴えようと思います!!」
あらあら、たいへんなことになりました。
こうしてツバメの訴えにより、神様は裁判にかけられてしまったのです!
――裁判が始まりました。
裁判長の神様は、原告側の席にいるツバメに尋ねます。
「それでツバメよ。神様が『転生法』違反をしているという証拠はあるのかね?」
「ハイ、あります! こちらのVTRを見てください!」
そう言ってツバメはメモリカードを出しました。
ツバメが差し出したVTRを流すと、そこにはツバメの死骸と王子様の心臓が天国に連れてこられた時の映像が映し出されたのです。
「あ、もうちょっと巻き戻してください。」
ツバメがそう頼むと、映像は巻き戻ります。
画面はツバメが王子様の足元に、ポトリと落ちて死んでしまう直前まで戻りました。
――ツバメは王子にキスをすると、地面にポトリと落ちて死にました。
神様も傍聴席の天使たちも、その映像を真剣に見ています。
ツバメはほおを赤らめながら映像を見て、その後、もう一度言いました。
「もう一回、巻き戻してください!」
ツバメの言う通りに映像はもう一度巻き戻り、また同じシーンを映し出します。
――ツバメは王子にキスをすると、地面にポトリと落ちて死にました。
神様も傍聴席の天使たちも、その映像を真剣に見ています。
ツバメは鼻血を垂らしながら、その後、もう一度言いました。
「もう一回、巻き戻してください!」
ツバメの言う通りに映像はもう一度巻き戻り、また同じシーンを映し出します。
――ツバメは王子にキスをすると、地面にポトリと落ちて死にました。
そんな風に、何度も繰り返して同じシーンを見ていたら、裁判長の神様が、被告側の席まで走ってから言いました。
「異議あり! 裁判長、意味がわかりません!
これは、時間の無駄では無いでしょうか!?」
そして裁判長の席に戻って答えます。
「異議を認める。――ツバメよ、このシーンに何か意味が?」
すると、ツバメは顔を真っ赤にしながらニヤニヤした口を抑え、いろんな方向を見て答えます。
「見たぁ? チュッだって! ボクのキスで王子様、心臓が割れるくらいに喜んだんだよ♡」
「ヘンタイだ……」
「BLだ……」
「アホだ……」
傍聴席の天使たちは、騒ぎ出します。
「異議あり! 全く意味がありません!」
「異議を認めます! 裁判、終わり!!」
神様は被告側の席まで走り叫んで、また裁判長の席まで戻っては、そんな風に言いました。
「ああ、すいません、すいません! つい、思い出のシーンを見返してしまいました。
――問題のシーンは、もっと前なのです!!」
ツバメがあわててそう言えば、神様はしぶしぶ裁判を続けます。
映像はぐんぐんと巻き戻り、とあるシーンを映し出しました。
「裁判長、問題のシーンはここなのです!」
――王子は言いました。
「私が生きていて人間の心を持っていたころは、昼から夜まで遊んで暮らしていた。
――みんなは私を『幸福な王子』と呼んだよ。
私も実際、幸福だった。快楽を幸福と呼ぶのならね……。死んでから私は街の真ん中に……」
その映像を見て、ざわざわとした空気になります。
ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ… ざわざわ…
「異議あり! やっぱり意味わからんぞ!」
被告側の席から、神様はそう言います。
だけど、傍聴席の天使たちは気づいたみたい。
みんながざわざわ言い出したのです。
「ニート転生だ!」
「王子は転生しているぞ!」
「しかも、人外転生だ!」
「なぁぁにぃぃいいいい!?」
神様も気づいて、わざわざ被告側の席で叫んでから、裁判長の席に戻ります。
そして、分厚い法律書をめくって、書いてある法律を読み上げるのです!
「転生法第一条及びその三項、転生者にはチートを与えなければならない。人外転生の場合は絶対であり、かつ、基本的には人型への変身が必要である!!」
神様が読み上げたところで、ツバメは自信満々に翼を広げて訴えます。
「そう神様! この物語は間違っている!
物語は、こうでなくてはならないのです!」
そして……叫んだツバメは飛び立ちます。
天国から地上へと、今も間違いだらけの物語へ飛び込むのです!
「X X X X年 X月 X X日、僕は死んだ。」
神戸市三宮駅のホームで、男の子が倒れています。――その場面へ、ツバメは大急ぎ。
「せつこぉおおお! じゃねーんだよ!!」
そう叫びながら、ツバメは男の子の横に降りました。
「き、君は!? 妹が寝込んじゃった時、栄養ドリンクをくれたツバメさん……!?」
そう聞いてくる男の子に、ツバメは栄養ドリンクを渡しながら言いました。
「さあ、君も栄養ドリンクを飲むんだ!
ビタミンと漢方の力で、元気になるんだ!」
ツバメが差し出した栄養ドリンクを、男の子はグイッと飲み欲します。
「もう一本、いっとくぅ!?」
ツバメはまた栄養ドリンクを……
そうして、男の子は元気になります。
「ありがとう、ツバメさん。
さぁて、今日も24時間働かなくちゃね。」
こうして、元気になった男の子。
可愛い妹にドロップを買ってあげるために、今日も昭和のブラック企業で働くのです。
ある国ではこの物語を、夏休みの登校日に学校で子供たちに見せました。
だからその国では、「妹萌え〜」の文化が広まったのでした。
また……、ツバメは飛び立ちます。
天国から地上へと、今も間違いだらけの物語へ飛び込むのです!
一人の男の子と一匹の犬が、大聖堂のルーベンスの絵の前で抱き合っています。
天使たちが迎えにと、彼らに向かって降りていきます。
「ぱとらーっしゅ! じゃねーんだよ!」
そこに、ツバメは大急ぎ。
叫びながら、天使たちを追い越して降り立ったツバメは、また栄養ドリンクを差し出します。
「さあ、君たちも栄養ドリンクを飲むんだ!」
ツバメにもらった栄養ドリンクを飲んで、男の子も犬も元気になりました。
そして、ツバメに言うのです。
「ありがとう、ツバメさん。でも僕、風車小屋に火をつけたと村の人たちに疑われてて……
絵画コンクールにも落ちちゃったし……」
「大丈夫、疑いは晴れてる。審査員も君の才能に気づいてる。ざまぁの準備は完璧だから。
それにね、例え才能がなかったとしても、創作をやめる必要は無いんだよ。」
ツバメの言葉を聞いて、男の子はやる気を出します。
愛犬のパトラ……犬を連れて村に戻って、また絵描きの夢を追いかけたのです。
ある国ではこの物語を、世界名作劇場として子供たちに見せました。
だからその国では、素人であっても創作を楽しむ人たちが増えたのでした。
それから天国に戻ったツバメは、神様に向かって訴えます。
「どうですか! これが正しい物語です!」
そして、こう叫びます。
「だから、本来のボクらの物語のタイトルはこうなります!
『街の像に転生した元ニートの王子、本人にチートは無いけどIQ300のツバメ(恋人※ここ最重要!)に最強スーパーロボットに改造されて、世界中を目立たずのんびり(チラッ)スローライフな旅行をする。〜ボクたちとっても幸せです〜』なのです!」
神様は、そんなツバメの訴えを認めたみたい。
だけど、困った顔で言いました。
「し、しかしだな……お前たちの物語は終わってしもうた。もう、取り返しがつかないではないか?」
「いいえ、可能です神様! 死海文書をちょっとだけ書き変えてください。そうすれば近い未来に、記した内容を深読みした人たちが、世界をLCLの海に一度変えるでしょう。
そして、世界は再び構築されますから、その時にもう一度やり直せばいいのです!」
この提案を神様は承諾。
ツバメの思惑通り人類補完計画は遂行され、物語をもう一度やり直せるようになったのです!
――『わがままな王子と小さなツバメ』開幕!
(※都合によりタイトルを短くしております。)
ある街の真ん中に、王子様の像がありました。
その王子様の像を目指して、一匹のツバメが歌を歌いながら、ゆっくりと降り立ちます……
「いま〜♪ わたしの〜♪ な〜らば〜♪
……今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ。」
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