ギンギラギンにさりげなく
「ツバメさん、雪がとっても綺麗だね。」
「良かったですね王子様。でも、ボクにとって雪はトラウマなのですが……」
――とある雪の降る街。
そこにツバメを乗せて、スーパーロボットの王子様がやってきました。
王子様が雪の景色を喜んだので、この街で休憩をすることにしたのです。
「すげー! ロボットだ!」
「わあ! 王子様よ!」
王子様が街の公園に降り立つと、街の子供たちが喜んで寄ってきます。
子供たちに囲まれて、王子様も嬉しそうです。
そこでツバメはポチッとスイッチを押して、王子様を遊園地モードに切り替えます。
王子様の体から機械の乗り物がたくさん飛び出して、公園は遊園地に早変わり。
子供たちがそれらに乗って、楽しそうに遊び始めました。
「ありがとう、ツバメさん。子供たちがとっても嬉しそうに遊んでいるよ。」
「どういたしまして。じゃあボクは雪は嫌いなので、嵐の映像を見ています。」
そう言って、ツバメは王子様の中で休憩です。
コタツに入りホットブルを飲みながら、テレビを見て過ごすのでした。
「ジュンくん、マツゲ素敵……ニノ♡」
雪の街の公園……そこは王子様の遊園地。
たくさんの子供たちが元気に遊んでいるところに、なんだか怖い感じの男の人たちがやってきまた。
「お前ら、誰に断ってここで商売してんだ!」
「ここはオレらの縄張りだぜ!」
「アニキを怒らせる前に、出すもん出しな!」
男たちはそう叫んでいますが、王子様には意味がわかりません。
だから、王子様はツバメに尋ねます。
「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん!
なんだか男の人たちがやってきて、何かを言ってるんだ。どうしたんだろう?」
「ショウちゃん……ニノ♡ ……え? ああ、それはハチさんとキュウさんとサンさんですね。」
「ハチさんとキュウさんとサンさんなのかい?」
「はい、王子様。いちいち三人呼ぶのは面倒だから、合わせてヤーさんと呼んでください。」
「ヤーさんなのかい!?」
「ナニ、ぶつぶつ話してやがる!」
「なめてんじゃねーぞ、このヤロー!」
「金だよ金! ショバ代出せや!」
状況がわからず、王子様がツバメに確認している間に、ヤーさんたちが暴れ出しました。
子供たちはびっくりして、逃げ出しています。
そのことに、王子様はとっても悲しそうです。
「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん……」
「大丈夫です。今から消します。」
「待っておくれ! そうじゃないんだ、ツバメさん。」
「……え?」
ツバメはヤーさんたちを破壊光線で原子にまで分解しようとしましたが、王子様が止めました。
そして、王子様は涙を流して言うのです。
「私は見ていたんだよ、ツバメさん。
彼らは行く所が無いんだよ。いろんなとこで追い出されてしまっていたんだ。」
「まあ、対暴法が厳しいですからね。」
「彼らはお金がないんだよ……」
「まあ、下っ端で口座は犯罪に使われて、もう作れませんしね。」
「それなのに、彼らには仕事も無いんだ!」
「自業自得と思うのですが……」
「うわぁあああ! やめろぉおおお!」
「同情なんてしてんじゃねぇえええ!」
「同情するなら、金をくれぇえ!」
王子様とツバメの会話を聞いて、ヤーさんたちは泣き出します。
そして、どこかへと走り去っていくのです……王子様は心配そうに、その背中を見ていました。
ツバメはヤーさんたちが二度と現れないように、追撃弾を撃とうと思いました。
でも、サンさんがちょっとニノ似だったので、見逃してあげることにしたのです。
夕方、遊園地の閉まる頃……
王子様がまた、ツバメを呼び出します。
「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん、見ておくれよ!」
「マーくん、ニノ♡
――え、なんですか王子様?」
「あの女の子を見ておくれよ!」
「ボクは女の子に興味ありません。」
ツバメはそう答え見てはくれませんでいたが、王子様は遠くを見ています。
王子様の見つめる先には、雪の中でマッチを売る一人の少女がおりました。
…………
「マッチ、いりませんか?」
「は? ライターあるからいらねーよ!」
…………
「マッチ、いりませんか?」
「俺、電子タバコだから。」
…………
「マッチいりませんか?」
「会社もパチ屋も禁煙だぜ。タバコなんて、もうやめちまったよ!」
…………
そんな女の子を見て、王子様はいつものわがままを言い出します。
「ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん!
あの子はマッチが売れなくて困っているみたいだ。助けてあげておくれよ!」
それを聞いて、ツバメはしっぽをキュッと上げて立ち上がり、叫ぶのです。
「タッキーが社長になる時代ですよ!
マッチが売れるわけがないでしょう!!」
――だけど結局、ツバメは王子様のお願いを聞いてあげます。
ツバメはさっと飛び立つと、女の子の持つマッチの入ったカゴの中に何かを入れました。
「……マッチ、いりませんか?」
「いらねーよ!
今の時代にマッチとか、
でも、やっぱりマッチは売れません。
「ツバメさんツバメさん、小さなツバメさん……」
「王子様、何から何までやってあげなくても、人は自分で立ち上がるものです。
少し、様子を見てみましょう。」
――そうして、夜になりました。
あれからマッチは一箱も売れることはなく、女の子はおなかがすいて元気をなくしています。
そしてとうとう、雪の上に座り込みました。
…………
「もうダメ……寒い……もう、無理だ……」
女の子は弱りきり、寒さを少しでも逃れたくて、マッチを一本擦りました。
「……え? これは、あの時の……?」
女の子はマッチの小さな火の中に、遠い昔の幻を見ます。
それは、女の子のお父さんやお母さん、おばあちゃんが生きていた頃の、いつかのクリスマスの光景です。
「……ダメ! 消えないで!
――もう一度、もう一度だけ!」
でも、そんな幻はマッチの火と同じように、すぐに消えてしまいます。
だから女の子はマッチを擦り、また幻の中に浸るのです。
「ああ、お父さん、お母さん、おばあちゃん……」
美味しいごはん、暖かい暖炉……幸せだった日々の幻が浮かんでは消えていきます。
「……お願い、もう一度だけ!」
女の子は最後、全てのマッチに火をつけます。
そうして燃えたマッチの火の中には、女の子の大好きだったおばあちゃんの幻が……
女の子に優しく、温かく話しかけるのです。
「――もう、疲れたろう。良く頑張ったね。」
おばあちゃんは優しく、女の子を抱きしめて語りかけます。
「もう、休んでもいいんじゃよ。
あたしと一緒に、暖かい天国へ……」
おばあちゃんの言葉に、女の子は涙を流して泣いています。
泣いて泣いて涙も枯れて、とうとう疲れきって目を閉じてしまいました。
そんな女の子の手を、おばあちゃんが温かな両手で握ります……そして、言うのです!!
「――だけど、マチ子!!
あんたのマッチ売りの少女としてのプライドは、こんなところで終わるのかい!?」
おばあちゃんの瞳は、情熱の炎でメラメラと燃えています!
「あんたは時代に負けるのかい!?
あんたはそんなものなのかい、マチ子!!」
おばあちゃんの熱い言葉に、熱い両手をマチ子も握り返して叫ぶのです!
「いいえ、おばあちゃん、負けないわ!!
私は時代を超えるマッチ売りの少女! 私は負けない、負けないわ!」
そう叫んだマチ子が立ち上がると、幻は消えていて、夜の雪の上に一匹のツバメがいるだけでした。
「まあ、栄養ドリンクでも飲んで元気出しな。」
そのツバメはそう言って、雪の上に栄養ドリンクを置いて去っていきます。
マチ子はその栄養ドリンクを飲むと、マッチの燃えカスを見て呟くのです。
「……これだ。」
――しばらく経ったある日。
街の真ん中に、マチ子は立っておりました。
マチ子の周りには、たくさんの人盛りができています。
「さあ! 私アロマッチイリュージョニストこと、マチ子によるマッチイリュージョン!
――皆様ご覧なさい! とくとご覧なさい!」
マチ子がみんなの前でマッチに火をつけると、不思議な香りがしてきます。
そして、人々の目には色々な色の炎が浮かび上がり、青いウサギの跳びまわる、摩訶不思議な光景が現れたのです!
――そう、これは幻です。
マチ子は燃えカスの成分を研究し、栄養ドリンクから抽出した成分でそのマッチを再現して、幻覚作用のあるマッチを作りました。
これが後に話題となる幻覚マッチ「ミッドナイト・シャッフル」の登場です。
「お前、誰に断ってここで商売してんだ!」
「ここはオレらの縄張りだぜ!」
「アニキ、違うッス! そうじゃないッス!」
そんなマチ子の元に三人の男たち……ヤーさんたちがやってきました。
「何よ、あんたたち……!?」
警戒するマチ子に、ハチさんは尋ねます。
「なあ、あんた……、それは、合法なのか?」
マチ子は答えます。
「もちろん、合法よ!」
するとヤーさんたちは急に雪の上に座って、マチ子に対して土下座をしました。
そして、マチ子に向かい訴えるのです!
「俺たちを雇ってください!」
「一緒に、そのマッチ売りましょう!」
「売れますよ! ルートありますから!
――俺たち、芸能界と繋がりあるんです!」
こうして、ヤーさんたちと組んだマチ子は芸能界へと進出します。
ヤーさんたちはマッチを売り捌き、マチ子はマッチアイドルとしてデビューします。
マチ子は瞬く間に人気を博し、マッキーと組んで歌手デビューしたり、マーシーと組んでバラエティに進出したり、CMではマッチとの共演も果たします!
マチ子の名乗ったアロマッチイリュージョニストは、その年の怪しい職業ランキング1位に選ばれるほどの大フィーバーを見せたのです!!
ヤーさんたちの頑張りでアロマッチも売れに売れ、麻薬をする人はいなくなります。
好きな俳優さんやアイドルがいなくなることも、好きなバンドのメンバーが減ることもなくなって、みんながみんな喜びました。
王子様は、そんな喜ぶ人たちを見て言うのです。
「ありがとうツバメさん。
あんなにさりげない行いでも、こんなにたくさんの人を幸せにできるんだね。」
だけど、ツバメはテレビに夢中で、王子様の言葉を聞いてはいません。
なぜか……泣きながら叫んでいます。
「ありがとう……ありがとう!!
――――大ちゃぁあああああんンンン!!」
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