第2話 イヤン、魔物の洗礼!?

 僕が必死に下をのぞき込んでいた……

 その時だった。


 足首にピリッとした痛み。

 見ると、緑色のゼリーのようなものがまとわり付いている。



「キャアッ! ヤダァ、何これ」


 慌てて脚をバタつかせて振り払った。


 ってか、キャアッって……

 僕の順応力の高さに驚きだ。



 足元では、緑のゼリーがプルプル震えている。


(これ……スライム?)


 ふーん、ここはそういう世界観か。

 言われてみれば、LV1のフィールドっぽい。



 このシチュは……戦うべきだよね。


 何しろ、最弱と言えど魔物は魔物。

 足首の皮が溶けかけてヒリヒリしてるって事は、僕を捕食ほしょくするつもりだったに違いない。



 待てよ?

 という事は……

 これ、服も溶けるのでは?


 ほほぉ〜う、エロ系のRPGにはありがちな設定だ。


 じゃあ、じゃあ……

 このあと、村娘が襲われてイヤ〜ン。

 なんてイベントがあったりして!?



 フフフ……

 これは先に進めるしかないでしょ。


 それじゃ遠慮なく、ザコは経験値になってもらいましょうか。



 とはいえ、武器がないことには始まらない。

 しかも今は防具どころか、一糸まとわぬ生まれたままの姿。


 チュートリアルからの全裸スタートなんて、これまでやったエロゲにはなかったよなぁ……。

 まあ、いきなりオール肌色スキンなんて、CEROには通らないだろうけどね。



 取りえず、何かないかと辺りを見回すと……


 お、ちょうど手頃な棒切れ。

 LV1らしく、たぶんヒノキなんだろう。

 防御はともかく、攻撃の方はこれで何とかなるかな?



 僕はヒノキの棒を手に、スライムにそっと近付いて……

 思いっきりブッ叩いた。


「え〜い!」


 ポコン……。



 僕は元々運動が苦手な方なんだよね。

 そのうえ女の子になって更に弱体化してるから、チョー弱っちい。


 戦士に転職したからって、体力ステータスにボーナスが付いてる訳ではないってことか……。

 こりゃ最弱同士の戦いだな。


 まあそれでも、相手はスライムだからね。

 見ると、ゼリー状の身体が真っ2つに割れている。



「ふう、よっしゃあ……アレ? 何もなし?」


 てっきりチャリ〜ンとか、テッテレーとか、ファンファーレが鳴ってお金や経験値が手に入るもんだと思ってたんだけど……


 全く変化なし。


 よく見ると、2つに割れたスライムは、まだモゾモゾと動いている。

 なんだよ、分裂しただけじゃないか。



「コノヤロ。死ね、死ねっ、死ねぇ!」


 ポコ、ポコ、ポコ……。


 スライム相手に一方的なタコ殴り。

 プルプル動く姿はちょっと可愛いらしいからさ……

 見るからに動物虐待ぎゃくたいっぽい気がする。


 けど、モンスターってだけで罪悪感が皆無かいむになるのは何なんだろうね。



 それでも何度か攻撃すると……

 何体にも分裂した!?


「ウソォ、物理は効かないのぉ?」



 普通なら跡形もなく潰しちゃうんだろうけどさ、非力な僕の攻撃じゃ……ね。


 でもこれじゃあ、らちが明かない。



 そこで僕は思い出した。

 そういやさ、あの変な犬が魔法戦士になれって言ってなかったっけ?


 魔法……ふふふ、そういうことか。

 転生にはチートスキルの付与が定番だもんね。


 焼き尽くしてやる。



「ファイヤーッ!」


 ……。



 あれぇ?

 ひょっとしてメラメラの方かな?

 それとも、ハメハメハ?



 知ってるかぎりの呪文をとなえてみたけど……

 火の玉どころか、マッチ1本すらともらない。


(クソッ、僕の知らない術式か……いや、そもそもLV1では使えないとか?)


 まあ、よくよく考えてみたら『○○を獲得しました』なんて言われた覚えはない。

 レベルアップか、それとも魔法の書みたいなアイテムを手に入れなきゃならないんだろうか……。



 ちょっと待ってよぉ〜……

 こんな調子で冒険なんて、ムリゲーだよ。


 それにだよ?

 防具を買おうにも、こんな格好じゃ街にも行けないじゃないか。


 詰んでんじゃね?



「もぉヤダァ……」


 僕は疲れて座り込んだ。

 もちろん女の子らしく、カエル座りだ。


 すると──



「イテッ……」


 足首にピリッと痛みを感じて下を向く。


 マジか……

 分裂したチビスライムがへばり付いてるじゃないか。



「ヤダもう……」


 足をフリフリして振り飛ばす。


 スライムめ、反撃する気だな?


 致命傷にはならないにせよ、地味にダメージを食らってるじゃないか。

 まあこっちは防御力ゼロだしね。



 その時、背中にゾクッと電流が走った。


「ハゥ……」


 こ、こいつら、今度は何を!?


 見ると……

 ソコを隠すように貼り付いている、緑のゼリー。



「キャアアッ!」


 僕は顔を赤らめながら、慌ててその不届き者を振り払った。


「ヤダッ、このっ! ヘンタイッ!」



 乙女の大事なトコロに、なんて事を……。


 ヤダァ、溶解液でトロトロに!?

 何だか変な気分になっちゃうじゃないか。


 痴漢、ダメ。絶対。


 それにさ、ジャンボフランクに負けるのならいざ知らず、こんなピクルスみたいなチビにイカされたとあっちゃあ、末代までの恥だ。



「もーっ、許さないんだからっ!」


 そう言ってはみたものの、気が付けば編隊へんたいを組んだチビどもに囲まれて……

 数の上では圧倒的に不利。


 おまけにコイツらはヘンタイなんだから更にタチが悪い。

 満員電車でおっさんに囲まれたJKになった気分だよ。


 ヤバいな……

 ここは一時撤退てったいかな。



 と、その時、背後にもっとヤバそうな気配を感じた。


 大きな影が僕を包み込む。


 恐る恐る振り返ると、そこには……

 僕をにらんでいる巨大なスライム。



 いや、本当に睨んでるんだって。細い切れ長の目があるもの。


 でも何だか既視きし感が……

 ひょっとして、転生ブームを巻き起こした……

 あの有名な魔王様?

 チートスキルの元祖?

 転生の大先輩!?



 だとすると、ヒノキの棒なんかじゃ太刀打ち出来るわけがない。

 仲良くしといた方が良さそうだな……。


「あの、コイツらが痴漢をですね……」


 僕が説明をしようとすると……

 チビ共が声もなくピーピーと訴えているようにも見える。

 

(あ、痴漢の前って……見た目は動物虐待……だったっけ)



「あの、いや、その……これはですね……」


 仲間がやられてちゃ、オコ……ですよね。



「あわわっ! ヤバ、ヤバ……」


 きびすを返して慌てて逃げる。



 全力疾走──

 のつもりだけど、胸がバルンバルンって……


 走りにくっ!


 やっぱり大っき過ぎるのは問題だよ。


 あのスイカップのグラビアアイドル。

 こんな不安定な身体でんだり走ったりって……

 よくやってたよなあ。尊敬に値するよ。



 飛びねる様はじっくり観察したいところだけど、今はそんな余裕はない。


 せっかく女の子になったんだ。

 まだヤリたい事が沢山ある。


 こんなところで死んでたまるか!



 意気込みだけは十分だった。

 でも、まだ女の子このカラダに慣れていない僕は……

 片乳がブンと横に振れた拍子に、バランスをくずして盛大にズッコケた。


 頭が岩にゴチンと──



「痛ってぇ〜」


 うずひたいを押さえてうずくまっていると……。


 背後に殺気。



「ゲッ──」


 ゴォォォ……ピシャアッ!



 ああ……やっぱりね。

 僕って、こういうキャラなんだよ。



 次の瞬間、僕はまばゆい雷光に包まれていた……。

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女だらけの異世界転性 〜 男なのに女魔法戦士として女の子の街に召喚されたらエロいオークを退治して百合ハーレムを目指すしかないっしょ 藍空 和恩 @aizorawaon

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