第3話・表が裏となってまた表になる
4月1日。
「眠っ……」
現在時刻午前6時。
俺は、メンバーを募集するために珍しく早起きしたのだ。
日差しに照らされる通りを歩き、ギルドの扉を開ける。
「あ、あのレアルがこんな朝早くに……。今日は雪が降るかも」
「おいそこのお前、聞こえてっぞ!この俺にそんな事言って、どうなるか分かってるんだろうなぁ?」
そう言いながら指を動かすと、女冒険者は無言で走り去った。
俺は掲示板にメンバー募集の紙を貼り、近くの椅子に腰を下ろす。
「っし、目指すはハーレムパーティーだ!」
そう意気込み、俺は暇潰しのために持ってきた小説を開いた。
***
数時間後。
「何で誰も来ないんだよ!」
全っ然来ない。
マジで来る気配すら無い。
いやいやいや。フリーの冒険者なんて結構いるのに、興味を持つ人すらいねえのはおかしい!
そう頭を抱えていると、近くで酒を飲んでいた悪友が歩いてきた。
「そりゃそうだろ、お前の悪評はかなり広まってるからな。お前とパーティー組みたがる奴なんて、お前を知らない奴か変人、もしくは同類くらいのもんだろ」
「クソっ!ちっとばかりセクハラとか当たり屋したり、喧嘩したり金借りただけなのに……!」
「それがダメだって言ってんだ。まっ、がんばりな」
そう言い、悪友は手をヒラヒラと振りながら立ち去った。
クソ、こんなに優しくて誠実な俺なのに。
こんな事なら冒険行って飲み代稼げば良かった。
最近は、たかってもなかなか奢ってもらえないのだ。
と、その時。
「____ちっと良いか」
「あ?悪いが、ハーレムパーティーを目指す俺としては……」
俺が振り向くと__そこには、屈強な男がいた。
緑色のモヒカンで、いかにも荒くれ者の一言が似合いそうな男が立っていた。
「チ、チッス」
このタイプの人はギルドに多くいるので見慣れているのだが、どうしても敬語になってしまう。
「張り紙を見て来たんだが、パーティーに入りたくてな」
そう言い、快活な笑みを浮かべる男。
気さくな人なのかもしれない。
「も、もちろん良いっスよ。まずはお試しって事で……」
「ああ、構わねえ。オレはアドラストってんだ。よろしくな」
そう良い、懐をまさぐり始める男。
カードを出すのだろう、俺も出しとこ。
やがて、彼はカードをテーブルの上に置いた。
カードの情報によると、彼はD級らしい。
因みに、俺は1番低いE級だ。
俺より全然強い。比にならないくらい強い。
まあ、ステータスはガバガバなのであまり当てにならないが。
「じゃあ、行きやしょうか」
「おう。ところで、どの依頼を受ける?」
依頼は、一般の人がギルドを通して仕事を頼む事だ。
俺達が今回受ける依頼は、魔物を討伐する依頼。
「まあ、俺が適当に取って来ますんで」
「おっ、助かる。もうすぐ昼だから適当に飯買って行くか」
さて、この人のお手並みを拝見させて頂こうか。
***
森での縄張り争いに負けた魔物を狙って、俺達は草原に来ていた。
太陽は雲で隠れているが、まだ『晴れ』と言える天候だ。
「嘘でしょ?あのレアルとパーティー組みたがる人がいるなんて……」
「聞こえてんだよ!お前さっきの奴だろ、いい加減にしねえと謝罪は体で支払ってもらうかんな!」
俺の言葉に、猫耳が付いた冒険者は猛ダッシュで逃げていった。
この国は、多くの種族が共生している。獣族も魔族も。
「上手くやってるみたいじゃねえか。そう言や、お前は何が出来るんだ?」
「これで上手くやってるってのは疑問なんスけど、大体は魔法っスね。一応刃物もいけやすよ」
この人は前衛だろうから、術師の俺とは相性が良いと言えるだろ。
すると次の瞬間、爆弾が放り込まれる。
「オレは治癒術師だ。6年ぐらい冒険者やってんだぜ?」
…………。
おいちょっと待て。
斧でも担いでそうな見た目してんのに、治癒術師だぁ!?
マジかよ、ギャップ萌えって次元の話じゃねえ。
キャリアも6年か……先輩って呼ばせてもらおう。
「……?あの、治癒術師ってトドメ刺すわけじゃないからあんま強くならないはずっスよね?アンデッドの浄化でもしてるんスか?」
魔物は、トドメを刺すと自分がちょっっっっとだけ強くなる。
理由はまだ解明されていないが、マジでちょっっっっとだけなので中々レベルが上がらない。
いくら6年とは言え、26もレベルが上がるか?
「まあ、それはこの先分かるさ」
そう言い、先輩は笑みを浮かべる。
……なんか嫌な予感がする。
と、先輩が遠くに目を凝らす。
「兎だな。10匹はいるか?」
可愛らしい兎が見えるが、侮ってはいけない。人を喰い殺す恐ろしい生物だ。
可哀想とか思う奴は、そもそも冒険者をやっていない。
10匹かあ……キツそうだな。
「先手必勝だからな、でっかいやつかましてやれ」
そう言われ、最大火力の炎を構築する。俺が持つ杖の周りに、少しづつ赤い光が集まる。
「撃って良いっスか?」
「ああ」
俺の杖の先に、拳大の炎が集まった。俺が得意な魔法の一つが炎系統の魔法だ。
それを兎の群れに向かって、狙いを定めて解き放ち____
「おっ、こっちに向かって来てるな」
「俺の火力ザコすぎだろ!この数は無理だってえええ!」
1匹も死んでねえ。
俺の最大火力なんてこの程度です。
既に逃げ腰の俺の前に先輩が立つ。
「さあ、オレが引きつけるから1匹ずつ仕留めろ!」
そう言い、先輩は果敢に走り出す。
俺は1匹の兎に近づき、腰のダガーで斬りつける。いや魔術士って何だっけ?
直撃し、動きが鈍くなった兎に炎を放ち、やっと1匹を仕留めた。
「ハハハ!愚かな兎よ、俺に歯向かうからぶはっ!」
顔面を思いっきり前足で蹴られ、思わず尻餅をつく。
って、マズい!
5匹余りの兎が、次々と先輩に殺到する。
先輩は刃物持ってないし、これ詰みじゃね?
多数の兎に囲まれ、先輩は_____。
杖をぶん回し、兎を撲殺し始めた。
「マジかこの人」
杖で攻撃(物理)を行い、次々に兎を葬って行く。
そして______。
「ハァ、ハァ……。倒し切った……!」
兎の亡骸が横たわる中、俺は地面に転がる。
「11匹か。こりゃ2万は行くな」
そう言い、先輩は次々と袋に入れていく。
魔物は体内にある『核』が1番売れるので、戦闘時に品質まで気にしなくてすむのは助かる。
「疲れた……ってオイ!先輩!なんか向こうにいるんスけど!」
「おお、あれは狼だな。5匹はいるか?」
休む暇も無く魔物を発見し、俺はため息をつく。
「群れは厄介っスからね。一旦見過ごして……ちょっとお!?」
先輩が石を拾い、大きく振りかぶる。俺の話聞いてた?
恐ろしいスピードで投げられた石が、寸分違わず狼の頭に直撃する。
「よし、1匹!」
「ムリムリムリ!休ませてくれぇ!何してんだアンタ!」
余計な事をしでかした先輩は、謎に自信を保っている。
「4匹っスよ!?あいつらチームワークは無駄に良いし、無理っスよ!」
「大丈夫だ、なんとかなる」
そう言い、先輩は俺に笑いかけ、親指を立てて見せた。
「キツイってええええええっ!」
マジでこの人大丈夫かよ!不安なんだけど!?
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