陸編8

「桜塚さん~」

 名前を呼ばれ、診察室に入った私に、先生は何も言わず。家族の人に話しがあると言った。

「先生。私、どんな病気なんですか?」

「……いや、取り敢えず検査しておいた方が良いと思うから、家族の人に許可を」

「家は家族といえば祖母しか居ないんです。出来れば私に直接言ってもらえませんか?」

 先生は難しい顔になって考えている。不安が胸の中に一杯になって泣き出しそうになる。

 もしかしたら……悪い病気なのかと、泳げなくなるのでは?

「先生、お願いです。本当のことを言ってください……」



 病院を出た私は何処をどうやって帰ったのか、気が付いたら家の前だった。

 祖母に心配かけない様にハンカチで目の周りを拭くけど、次々に溢れてくる涙に、家に入るのを諦め近くの公園へ行った。


 錆び付いた小さなブランコに乗り軽く爪先で蹴る。ギィッと軋んだ音を立て揺れるブランコ。

 いつしか、むきになって漕ぎ出す私。

『なんで? なんで?……』ただ、その言葉しか出ない。


「あなたは水泳どころか、この先普通の生活すら送れなくなります。内臓だけ、急速に衰えているのですよ。その内には脳にまで影響があるかも知れません……」

『なぜ……私が?』

 気づくと声を上げて泣いていた。王子さま。私、泳げなくなってしまうよ。私、どうしたらいいの?


 記憶の中の王子さまはただ、微笑んでいるだけで、なんでだろう? 海斗の顔と重なって見えた。







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